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第549回 リンボウ先生に学ぶ文章術

2023-11-10 | エッセイ
 このブログを書く時に、いつも心がけていることがあります。それは、多くの方々に興味・関心を持ってもらえそうな話題を選び、それをわかりやすく適度なユーモアのある文章で伝える、ということです。ですので、いろんな作家の皆さんのエッセイを楽しみながら、いい文章を書くためのコツ・ワザ・工夫などにもつい目が向きます。こんなインパクトのある書き出しがあったか、こういう話の展開はわかりやすいなぁ、など。
 とりわけ愛読し、その点でお世話になった(?)のが、リンボウ先生(以下、「先生」)こと林望(はやし・のぞむ)さんの作品です。初のエッセイ集「イギリスはおいしい」(平凡社、のち文春文庫)以来の長いお付き合いです。

 研究(書誌学)のため滞在されたイギリスでの体験を基に、食文化、社会生活、歴史などの幅広い話題を丹念に、わかりやすく書かれているのが何よりの魅力です。
 先日、新古書店で、先生の「文章の品格」(朝日出版社)が目に止まりました。ブログを書く上で参考になる情報があれば、と軽い気持ちで購入しました。 いや~、買ってよかったです。まったくの他人に読んでもらう文章を書く上で基本的な心構えは何か、そして、それを文章の中でどう工夫するか・・・・教わるところ、腑に落ちるところが一杯でした。ブログに限らず、文章をお書きになる皆さんの参考になれば、とエッセンスをご紹介します。

 まずは、先生が説く心構えです。
 文章というのは「自分の思い」を書くものです。「ああこんなことがあったなあ、こんなこともあったなあ、あれは楽しかった、あれは嫌だった、とか非常に主観的な思いが交錯し、それを無批判に書き連ねるということになりがちです。」(同書から) と、これは思い当たります。そこで大事なことは「「この文章を他人が読んだらどう思うだろうか」という視点です。」(同)
 先生が持ち出すのが「子供の写真」のたとえ話です。

 誰でも自分の子供(孫でもいいですが)は可愛いです。だから、その子供の写真を人に見せたら、人もさぞ喜んでくれるだろう、と思う人が時々います。「変わり映えもしない赤ん坊の写真などを夥しく見せられて、そう退屈そうにもできず、さもおもしろく拝見しているふりをしつつ、その実閉口しているということが、これはわりあいによくあります。文章もそれと同じです。」(同)
 つまり、自分にとっていかに面白い、強烈な、印象に残る体験だとしても、他人の立場に立ったら独りよがりでしかない、ってことがあることに気づきなさい、というアドバイスです。う~ん、なるほど、テーマ、話題選びが大事であるぞ、とあらためて肝に銘じました。

 さて、その心構えを実際の文章に落とし込むために大切なことは何か、です。先生がイギリスでの様々な体験を思い出しながら処女作「イギリスはおいしい」と取り組んでいた時、たえず実行していたことがありました。それは、書いていることが自分の思い込みでなく、読む人が面白がってくれる中身かどうかを、「第三者の目」で厳しくチェックする、ということです。

 その時のポイントは、「うれしい、かなしい、せつない、くやしい、おもしろい、ねたましい、いやだったとかそういう自分の感情をナマな言葉で書き表すことは、意識的に避けています。」(同)とあります。安易にそんな「感情語」とでもいうべき言葉に頼らず、具体的な事実をキチンと、冷静に、主観抜きで書けば書き手の思いは伝わる、というわけです。

 その例を、先生自身が「イギリスはおいしい」から引用しています。大英博物館の食堂で食べたラタトゥユという料理のまずさを表現した文章です。
「ともあれ、その少し水気の少ない胡瓜(きゅうり)のような野菜(注、これはズッキーニのこと)を、まず委細構わずブツ切りにする。そして、多少油いためしてから腰が抜けるくらい長い時間グツグツと煮る。玉葱’(たまねぎ)の微塵切りとトマト、ニンニクなどを放り込んで、ブイヨンキューブくらい入れるのであろうか、ろくに塩も入れずに、形がへたって緑の色がすっかり抜け、口に入れるとグニャッと崩れるくらい煮込むのである。そういう代物を出来るだけまずまずしく想像してみて頂きたい。それが、私があの日、大英博物館で口にした料理である。」(同)

 ちょっと長い引用になりましたが、さすがプロのワザ。「不味さ」が存分に伝わってきます。ここまでのワザはとても真似できそうもありません。でも、読んでいただく方々を第一に、第三者の目でのチェックを忘れず、「子供の写真」にならぬよう話は具体的に・・・・など学んできたことを忘れず、このブログを書き続けていこうと気持ちを新たにしました。引き続きご愛読ください。
 いかがでしたか?それでは次回をお楽しみに。