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第417回 世界の日本語マニアたち

2021-04-16 | エッセイ

 日常、当たり前に使いこなしてるんですけど、「外国語としての日本語は難しい」と考えている日本人が多そうです。

 漢字、カタカナ、ひらがなの3種類もの文字があります。「て、に、を、は」の使い分け、欧米の言葉とは違う語順、周辺に似た言葉がないなど、ハードルが高そうです。そんな日本語を勉強するのは、デーブ・スペクターみたいな「変な外人」だけじゃないの・・・・そんな見方を一変させる本と出会いました。

 少し前に、日本にいる外国人のための日本語学校での悲喜交々、てんやわんやを、コミックエッセイ「日本人の知らない日本語」(蛇蔵&海野凪子 メディアファクトリー)をネタに、お届けしました(第229回 外国人にとっての日本語ー文末にリンクを貼っています)。

 同シリーズの第4巻では、フランス、ドイツ、イギリスなど、ヨーロッパの7カ国で、日本語を学ぶ学生さん達の姿を、生き生きと描いています。

 あまり役に立ちそうになくて、しかも「難しい」日本語を、なぜそんなに熱心に勉強するのか。
 日本人でも読みこなせないような古典に取り組む学究肌の人がいる一方、マンガ、アニメ、アイドル、コスプレといった日本独特のカルチャーに触れて、日本語にも興味を持った、という若者が、本書の中では一杯登場して、なるほどと感じます。
 学ぶ人の数こそ少ないものの、「熱さ」だけならどこにも負けない彼ら日本語マニアの奮闘ぶりをお伝えします。

 パリの大学での日本語会話の授業。「ルームメイトに掃除をさせる」というお題が出ました。
「おまえ 掃除 約束した 守れ 守らない 嫌い」
 だいたいが、こんなレベルですが、あまりにも日本語がうまくて、授業を免除されてるグリーン君の答えは、こんな具合。
「なあ~、俺ら一緒に暮らして長いじゃん?言いたくなかったけど、最近のお前にはマジ耐えらんね。掃除するって約束も守んね~し」
 日系航空会社でのバイト経験があり、キチンと敬語も使いこなせるんですが、キムタク風の日本語も操れる・・・・こんな人材がいるんですね。

 ベルギーのゲント大学の院生クラスの授業は、貝原益軒の「養生訓」の原文をテキストに、東洋医学と西洋医学の違いにも言及するハイレベルな内容。
 文中に「文禄の朝鮮軍」という言葉が出て来て、先生から質問が飛ぶ。「この軍を指揮したのは?」
「豊臣秀吉」「実際の指揮は一番隊隊長小西行長、二番加藤清正、三番黒田長政です」との答えがすぐに帰ってきました。
 日本語を超えて、(私ら以上に)日本の歴史にも通暁してるのに参りました。

 次は、イギリスですが、同書によれば、中高一貫校の中には、中学から日本語を学ぶ部活があって、2万人が日本語を習っているというから驚きです。現地で、著者の二人を出迎えてくれたのは、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院の学生ティーさん(男性)とエルさん(女性)。

 観光案内の合間に、いろいろ質問が出ます。
 ティーさんから「鳥の数え方は、一鳥、二鳥(いっちょう、にちょう)でしたっけ?」
 「いえ、一羽、二羽です」
 「でも、一石二鳥って言いますよね」
 「・・・・」
 エルさんからは、「高橋みなみが、AKB48に受かったのは、誕生日が、4月8日だからって、本当ですか?」と訊かれて、こっちも大変そう。アイドルの国際化もここまで来てるんですね。

 チェコの女子学生さんからは、日本のカタカナを覚えるために工夫された教材を、見せてもらってます。例えば、「エ」は、エレベーターの「エ」で、扉の上の線と下の線、そして、扉の合わせ目をなぞって、「エ」となります。
 「ノ」は、「ノルウェー」の「ノ」。細長い国の地図をなぞるように「ノ」が書いてあるから、いやでも覚えられそう。
 「ロ」は、ロボットの「ロ」。さすが、カレル・チャペックの国。絵柄はお分かりですよね。
 「セ」は、なんと「セクシーボーイ」の「セ」。ご覧の通り(同書から)です。これなら忘れようがないと思うんですけど、そこまでやる?

 

 海外の皆さん方、苦労しながらも、楽しく「日本語」を勉強されてるみたいで、嬉しくなります。レベルの高さ、学生さんの熱意にも驚かされました。日本人も彼らに負けず、というか、お返しとして、もう少し外国語(特に英語)頑張らなきゃ、なんて思います。
 そして、(一応)自由自在に操れる日本語だけでも、もっと大事にしようとも考えました。日本語を操れるって、スゴいことなんですからね。
 第229回「外国人にとっての日本語」へのリンクは<こちら>です。あわせてお読みいただければ幸いです。

 いかがでしたか?それでは次回をお楽しみに。