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第337回 海外旅行用心集

2019-09-20 | エッセイ

 行きつけののスタンドバーでカウンターを手伝っている女子大生が、卒業旅行でヨーロッパ各国を回って帰って来ました。一通り土産話に花が咲いて、「アブない目には遭わなかった?」と、私が訊くと、
「そういえば、パリでエッフェル塔観光をしている時に、若い男の人から Can you speak English?
と話しかけられて、Yesと答えたんですよ。そしたら、街のガイドをしてやるとか言い出しました。アブないので相手にしませんでしたけど」との返事。
 続けて、「でも、ベルリンでも同じパターン、流れで話しかけられたんですよっ」ときたので、「今、ヨーロッパじゃ、そんな手口でナンパして、カネでも巻き上げるのが流行ってるのかもな」と、二人でにが笑い。

 海外旅行も、盗難とか、トラブルとかに遭えば台無しです。楽しい旅になりますように、との願いを込めて、私と、私の周辺でのささやかな体験をご紹介します。

 視察団の一員として、イタリアのミラノに滞在した時のことです。私より少し先に、広場に通じる階段を上っていったメンバーの一人であるMさんが地上に出たところで、いきなり、子供が、彼の前で、バッと新聞を広げました。そして、ワーワーと大声で叫んでいます。「なんだなんだ」と手を上げて新聞をどけようとするMさん。
 
 しばし揉みあっていましたが、ほどなく、子供とその母親らしき二人連れは人ごみに紛れていなくなりました。ややあって、「あっ、やられた」とのMさんの声。
 新聞に注意を奪われて、手を上げている間に、母親がポケットから財布を抜き取る手口です。クレジットカードと現金が盗まれました。母子の見事な連携プレー(って感心してる場合じゃないんですけど)でしたね。アイスクリームとかジャムをわざと服に付ける、ワインのボトルを目の前で落とすなど、人の注意をそらせる手口はいろいろ聞いていましたが、新聞という「手軽な」手があったんですね。

 同じ視察団ではこんなこともありました。
 ローマで夕食を食べて、ホテルへ向かうバスにメンバーが戻ってきたのですが、年配のKさん一人だけが、なかなか戻ってきません。心配した数人が探しにいくと、とんでもないことが起こっていました。

 ひとり遅れて、しかもいくつかのバッグを抱えてバスに向かうKさんに目を付けていたのでしょう。道路の端と端でロープを持った二人組が、気合を合わせて、ロープを膝の高さにピンと張ったのです。たまらず倒れたKさんのところへ、二人組が殺到してバッグを奪おうとしました。大声を出して、必死でバッグを確保したため、被害は免れた、というのが事の顛末です。

 アメリカあたりと比べれば、「平和的で」「いかにもイタリア的な」手口ですが、夜の街中ではくれぐれも警戒を怠りなく。

 さて、私自身の恥づかしい体験を語らねばなりません。

 仕事で北京に滞在していた時のことです。海外で日課にしている早朝散歩をしていると、「日本の方ですか?」と流暢な日本語で、中国の青年から話しかけられました。

 「今、日本語を勉強しています」「それは、感心なことで」など、当り障りのないやりとりがあって、やおら「あなたの横顔の切り絵を作ってもいいですか?」と訊いてきたので、軽い気持ちで「いいですよ」と答えました。2つ折りにした名刺サイズの紙に、ささっとハサミを入れて、出来上がったのが、この「作品」です。うまく特徴を掴んだなかなかの出来栄えです。


 でも、その後がいけません。「もっと勉強をしたいので、お金が必要です。この切り絵を買ってください」と言い出しました。「値段は?」と訊くと、当時の公定レートで、2000円だか3000円との返事。

 「それなら要らない」と突っぱねても良かったんですが、なにしろいい出来なので、サギまがいとは感じつつも、つい言い値で買ってしまいました。
 まんまとしてやられたわけですが、まあ、授業料付きのいい土産と、経験ができたと自分を納得させています。

 「そんな立派な日本語が話せるんだから、日系企業に職を求めたらどう?こんな姑息な「商売」から手を引いてさぁ~」とでも言うべきだったかな、とそれが今でも心残りです。

 「用心集」と銘打った割には、いささか古く、事例も少ないのが心苦しいですが、ご参考になれば幸いです。

 それでは次回をお楽しみに。