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第321回 大阪弁講座-36 「やってみなはれ」ほか

2019-05-31 | エッセイ

 第36弾をお届けします。 

<やってみなはれ>

 サントリーの創業者である鳥井信治郎が愛用した言葉として知られています。こちらの方です。


 国産初のウィスキー製造という大事業が「やってみなはれ」という脱力系の言葉で始まったのが、いかにも大阪的。

 共通語だと「やってみなさい」。英語だと"Just try it."ですかね。
 鳥井の精神は、のちの佐治敬三会長(故人)にも受け継がれて、ビール事業への参入、サントリーホールをはじめとする文化事業の展開などが、彼の成果だったように記憶しています。
 企業オーナーだから言える、ということはあるにしても、共通語にはない絶妙な響きを感じます。実は、最後に付く「はれ」というのが、なかなか曲者(くせもの)です。

 大阪弁講座の第1回目で「~はる」というのを取り上げました。相手への敬意を、比較的カジュアルっぽく表現する大阪弁です。

 「どこへ、行か「はる」んですか(行らっしゃるんですか)?」
 「きっとええ店、知った「はる」んでしょ(ご存知でしょう)?」

 こんな具合ですけど、さて、「やってみなはれ」の「はれ」は、「はる」の命令形です。相手に軽く敬意は払いつつも、柔らかく指示、命令するニュアンスがあります。

 サントリーの社長、会長ともなれば、全員が部下ですから、「やってみろ」「やってみぃ」でもいいはずなんですが、そこをあえて「やってみなはれ」と、やんわり、敬意を込めて言う。

 ただし、「他人(ひと)と同じ事しても仕方がないわな」、「知恵絞って、おもろいアイディア出してんか」、「うまく行くか、行かんの心配ばっかりしてんと、まずは、やってみたらどや」、「結果も大事やけど、挑戦する心持ちがもっと大事ちゃうかな」「最後は、ワシが責任取るがな(取るから)」ーーーいろんな含蓄とプレッシャーが込められてます。

 言われた方も、距離がぐっと縮まって、「はな、やってみまひょか(みましょうか)」と、軽いノリで応じてしまいそう。
 意識して使ってるとすれば、一枚も二枚も上手(うわて)だった、ということになりますね。

<横着(おうちゃく)な>
 そういえば、「横着な」といういかにも大阪弁らしい言葉があったなぁ、と過去形になります。 
 昔は、頻繁に使ってましたが、なぜか、最近はあまり使わない気がします(使うべき状況は、多々あるのですが・・・)。

 「横着なやり方」というと、ええ加減で、手抜き。きちんとせず、ルーズで、アバウト。そんな言葉が思い浮かびます。
 「ええ腕してる言うから、任したんやけど(任せたのだが)、横着な工事しよってからに(しやがって)、3日目から雨漏りや。どない(どう)決着つけたろかいな」
 怒りを込めたこんな用例が思いつきます。

 さて、「横着なヤツ」と人のキャラクターとしても使えます。ルーズ、アバウト、細かい事は気にしない、詰めが甘い、など、概ね、「やり方」によく似たニュアンス。

 ただし、「要領のよさ」というポジティブな評価もちょっぴり入ってます。いい加減なやりかたでも通用して(させて)しまうズルさ、要領のよさを、ポジティブに評価すれば・・・というわけで、大阪というフィールドでは、まんざら頭から毛嫌いされるキャラでもないようです。
 「あいついうたらなあ、ホンマ横着なヤツやで。頼まれた事、自分でやらんと、全部、他人(ひと)にやらしよんねん。まいったわ。その辺の知恵だけは大したもんや」

 いかがでしたか?次回をお楽しみに。