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第222回 ある新聞記者の気骨

2017-06-23 | エッセイ

 読売新聞の政権べったりぶりが、なにかと話題になっています。加計問題では、官邸からもらった前次官の私的スキャンダルネタを「ありがたく」記事にし、改憲問題では、アベに「読売新聞を読め」と「国会で」言わせしめるほどの密着ぶりです。

 さすがに「商売的に」まずいと思ったのか、2000件を超える読者から抗議のメッセージが寄せられていることなどを、自らの紙面で公表しています。社自体も、報道記者自身も、総サラリーマン化してるということなんでしょう。昔は、気骨に溢れた記者がいたものですが・・・
 
 それで思い出すのが、ノンフィクション作家の本田靖春という人物です。今話題の「読売新聞」社会部の元記者です。1964年、売血を扱った「黄色い血」追放キャンペーンが、大きな反響を呼び、献血事業の改善につなげるなど、調査報道の王道を歩んで来ました。

 1971年にフリーとなってからも、活躍を続け、2004年に亡くなっています。世の中の不正義に厳しい目を向けるだけでなく、気骨に溢れた言動、行動力がなにより共感を呼ぶ優れたルポルタージュを、数多く残しています。

昭和30年代の半ばで、私が子供の頃、読売テレビ(日テレ系列)のニュース番組「今日の出来事」では、毎日のように、正力松太郎オーナーのどうでもいいような動静(誰々が、局に見学に来て、正力オーナー自らが案内しました、のような)が「ニュース」として、毎日のように放映されていました。一緒に見ていた父親が、「自分の宣伝ばかりやりやがって、、」と不愉快そうに語っていたのを思い出します。子供ながらに、私も全く同感でした。

さて、本田によれば、同じようなことが、読売新聞の紙面でも行われていたというのです。(まあ当然でしょうけど・・・)

 自身のどうでもいいような動静を連日、紙面で大きく扱うよう編集に圧力をかけるのです。現場ではせめてもの抵抗として、オーナーの自宅がある逗子版だけでは大きく3段で扱い、他の版では、1段扱いとする、といったような策を弄したりもします。

そんな紙面作りに辟易とした読者からのクレーム電話への対応経験が書かれています。毎日、毎日、あの「カボチャ面」(正力のことです)を見せられるのはうんざりだ、読売新聞を取るのを止める。ただ止めてもハラの虫がおさまらないので、電話した、というわけだ。ちょっと長くなりますが、著者の気骨、硬骨漢ぶりを示す格好のエピソードですので、長くなりますが、やり取りの一部を同書から引用します。

(以下は、「我、拗ね者として生涯を閉ず」(講談社)からの引用で、最初の発言は本田です。表紙の画像です。)



 「ええ、お気持ちよくわかります」
 「わかる、って、どういうふうにわかるんだ」

 そこで、常日頃、考えていることを述べる。社会部のすぐ横に陣取っている、編集局長に聞かせたいからである。 (中略)正力物を紙面に載せるのは、公器であるべき新聞を私物化することであって、私も同じ意見である、と言い切ると、文句をつけるために電話してきた読者のトーンが掌を返したように優しくなる。
 「そうなんだ。あんた方記者さんも、あれでいいとは思ってないんだ。大きな組織の中では、いいたいこともいえないだろうし、あなた方の辛いのはわかるよ。あなたに免じて、新聞をやめるのはよそう」
 それで電話が切れてしまったのでは何にもならない。私はこう続ける。
 「これは私からのお願いですが、新聞を取るのをやめるのはやめる、というのはおよしになってください」

 「何?やめるのはやめろだと?」
 「そうです。私たち現場の力では、正力物をやめさせることはできません。でも、あなたのような読者が続々と現れて、読売の部数ががた落ちする事態になれば、上の方は、何がいけなかったかを初めて考えるでしょう。そこでようやく、資本の論理というやつが働くんです。だから、ぜひ、いったんは読売を取るのをやめてください。これは、心からのお願いです」

 「難しい話はわからないけどよ、おれ。今日、電話してよかった。記者さんがそんなに苦しんでいるなんて、全然考えてみたことなかったもんな」
 「いや、私たちがだらしないから、こうなってるんです。実に恥ずかしいんですよ」
 「いや、そんなこといわないで、頑張ってくれよ」

 「ありがとうございます。せっかくの機会ですから、もうひとつ私からのお願いを聞いてくださいますか」
 「いいとも。何だってやるよ」
 「ご迷惑でしょうが、最初から私におっしゃったことを、正力宛の手紙にしていただけませんか。でも、社宛ではだめです。たぶん途中で握り潰されてしまうでしょうから、住所をお教えします」

 相手の怒声が、いつしか涙声になっていた。
 「辛いよなあ。そのうえ、がみがみ怒鳴りつけたりして、ご免よ」

(以上が引用です)

 「第2の本田靖春、出よ」とは思うものの、マスコミ全体の体たらくを見るにつけ、やっぱり無理かな、と絶望感が先に立ったりします。

 いかがでしたか?次回をお楽しみに。