★★★ 芦坊の書きたい放題 ★★★

   
           毎週金曜日更新

第220回 動物たちの生き残り戦略

2017-06-09 | エッセイ

 人間、地球上の生物界では頂点に君臨してる(つもりの)割には、生きていく上での苦労や辛いことが絶えません。
 変に知恵がついたおかげで、社会、文明、文化などというものを産み出し、余計な苦労を背負い込んでるなぁ、と思う時があります。
 そんな人間の眼から見ると、ほかの生き物たちは、いかにものんびり、というか、自然に身を任せて、悠々と生きてるように見える時がありますが、そんなことはないようで・・・・

 「食べられないために」(G・ウォルドバウアー 中里京子訳 みすず書房)という本があります。昆虫を中心に、いかに他の動物に食べられないように工夫するか、そして、捕食者はいかにその企みを見破り、自分の食料とするか。生き残りを賭けた戦略、知恵競べを豊富な実例で紹介しています。まるで軍拡競争のような世界の一端をご紹介します。

<50年で種の色を変えた蛾>
 イギリスに生息するオオシモフリエダシャクという蛾は、元々は、樹皮に生える白っぽい地衣類に擬態して白っぽい色をしています。
 ところが、19世紀の半ば、マンチェスターで黒っぽい個体が発見されました。産業革命が進展して、ばい煙で地衣類が枯れて、黒っぽい幹ばかりになったのが原因とされる。
 こんな短期間で、色を変えられるという事自体も不思議ですが、20世紀半ばに大気浄化法が成立して、地衣類が復活すると、また白い個体が優勢になったというから、眼に見えない摂理、力に加えて、蛾自身による努力(?)が働いているとしか思えません。

<鳥の糞への擬装>
 イモムシ(アゲハチョウの幼虫)の中には、鳥の糞に擬装するものがあります。発見者ニューナムの文章によれば。「配色によって、糞の表面のさまざまな様子ー乾いた上面、湿って柔らかくネバネバしている本体、そして艶のある玉のような末端ーを表現する技量はあっぱれとしか言いようがない。たとえ優れた画家が使える限りの材料を使ってもこれほどのものは描けないだろう」(同書から)
 この本には写真がないので、ネットから拾ってきた画像です。いかがですか?色ツヤといい、ひねり具合といい、なかなかスゴいでしょ、って、私が自慢しても仕方ないですが・・・    

 

<ゴキブリの擬態>
 毒を持つ動物、食べてもおいしくない動物への擬態の例は数多いですが、フィリピン群島には、味の悪いテントウムシやハムシに擬態するゴキブリが生息しています。
 多くのゴキブリは、敵に補食されるのを防ぐため、夜行性ですが、このゴキブリは、昼行性だという。その見事な擬態ぶりによっぽど自信があるんでしょうね。昼間から出歩いても、補食される心配なんかしてねぇよ、と言わんばかりの振る舞いが、なんとなく可笑しい。

<闘う昆虫>
 北米に生息しているホソクビゴミムシの身を守る方法は、実に過激です。体内に、過酸化水素とヒドロキノンという化学物質を別々に蓄えています。
 そして身に危険が及ぶと、二つの物質を別の貯蔵室で混合し、刺激性の極めて強いベンゾキノンという物質を作り出す。それをお尻にある回転自在の銃身から一挙に発射する。摂氏100度にも達するその液を浴びると人間でも火傷するというから相当の威力です。
 ヒトの科学者でも思いつかないような仕組みをどうやって身につけたのか。ただただ不思議。

 昆虫が地球上に現れて5億年といわれています。自然淘汰、突然変異など、進化を説明する仮説はいくつも提唱されていますが、これほど見事に発達して来た動物のありようは驚異。おそれいりました。

 いかがでしたか?次回をお楽しみに。