Rosa Guitarra

ギタリスト榊原長紀のブログです

「高齢者施設での演奏」

2008-08-06 | 過去のライブ後記
生きた歳の数だけ深く
長い間、背負ってきた想いの分だけ複雑に刻まれた皺

それは、誰の中にも、いくらでもある
「小さな諦め」と戦い続けてきた証し





昨日、音楽仲間のヴォーカリストさん2人と
高齢者施設でのボランティア演奏に行ってきた

施設は「夏祭り」ということで、1階ロビーには簡易的なイベントが用意されていた

ビニールプールに用意されたマグネット式の釣堀や、射的、
ペットボトルのボーリング、かき氷や、綿飴など
車椅子に乗ったまま、静かに、無邪気に楽しむお年寄りの中に呼び起こされた
「小さな子供の姿」を、ロビーの端から感慨深く眺めていた




演奏時間が近付き
2階の食堂を使って、半円状に並べられた椅子に17人のお年寄りと、その御家族
その半円の切れ目に、向かい合って座る

これから始まる演奏に対しての好奇心と戸惑いが、彼等の中に溢れている

一人のおばあちゃんが、薮から棒に大きな声で
「歌も歌うんですかぁ?」と問うてくる

ヴォーカリストC君が、微笑みながら
「歌を歌いに来ました」と答える

既に彼等との間に「音楽」が始まっている




この日、PAの忘れ物をした僕のせいで、生音生声での演奏になってしまったのだが
実際の演奏が始まると
小さな音量なのだが、誰もが「音」に集中してくれている

曲間で、ヴォーカリストC君とKさんが
思い思いに、お年寄りに話しかけてゆく

会話が緊張をほぐし
2曲目あたりからは一緒に歌い出してくれる

筋肉の衰えから、動きの少なくなった表情と
歌で高揚した感情が重なり合い
幼児が見せるような、たどたどしくも無邪気な表情が溢れてくる




途中、ふと、C君の歌声が、不自然に詰まった

視界に入らないが、Kさんも、今
きっとヤバい状態になってるんだろう

僕も、長年かけて鍛えて来た鋼鉄の指先(のつもり)で演奏を続ける

どうしても目頭は熱くなる

それもそのままにして演奏を続けるうち
中盤あたりに、後ろの方から奇声が聞こえてくる




実は僕とKさんにとっては、去年も演奏しにお邪魔した施設だったのだが
去年お邪魔した時は、車椅子で元気に動きまわり
演奏を喜んで、お話をしに(実際の会話は難しいのだが)近くに来てくれた
(多分)脳性麻痺の女の子が、
今年は、介護ベッドに寝たきりになっていた

僕等からは背中側の、食堂の隅にベッドを置いてもらい仰向けに寝ている
前回以来、彼女は僕の中で、友達のような存在になっていた

「また来たよ  久しぶり  元気そうじゃないか」と
心の中で声をかける

演奏の合間に
「あーあーあー うーうーうー」と大きな声を発する
だけど演奏が始まると、ぴたっと静かになる

「聞いてるんだね  音楽が好きなんだよな? ちょっと待ってて
みんなへの演奏が終わったら、すぐ、そっちに行くから」
そう思いながら演奏を進める

この後にC君のリハーサルが控えているため
終わったらすぐに退室しなければならない

最後の曲を残して、既に予定時間はオーバーしていた

用意していなかった、予定外のアンコールまで終わり
すぐに彼女のベッドに駆け寄り
1コーラスだけ「ふるさと」を演奏した

彼女は、イントロで喜びの声を発し
C君が歌い出すと、周りも気にせぬ大きな声で慟哭し
目からは涙が溢れた

Kさんは枕元で、彼女の手を握りながら見守っている

僕も彼女の手を握り「またね」と声をかけ
C君とKさんを、一旦その場に残し
一足先にバタバタと楽器を積み込み
そして慌ただしく3人で施設を出た





帰りの車の中でC君が
「なんで泣くんだろう...」と
ぼそっと言った

いくつか答えを口に出してみたが
どれも言い得てない気がして、口をつぐんだ

Kさんは、ただ黙っていた




誰もが、お母さんのお腹に宿り、一人の子供として生まれ
この世で沢山の友達と出会い
また、ゆっくりと、一人の子供に戻ってゆく

いずれ僕等もそうなってゆく


多少、朦朧とした頭で考えながら
お互いに、暖まった心を感じ合いながら
僕等3人は、握手をして別れた



コメント
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