欅並木をのぼった左手にあるお店

ちいさいけど心ほっこり、French!テイストなお店♪

かわいいあの娘の目の前で

2013-02-06 | une nouvelle
ある家の窓際に小さなブリキの人形がいたんだよ。
かわいいぬいぐるみにかこまれて、しかも北国の寒さの中でも家ではぽっかぽか。
でもね、ブリキ人形の表情はいつも曇り顔なんだ。
なぜなら・・。

家の主人はとてもおしゃれな方でね。部屋の中には大きな舞台のような作り物があってそこはオルゴールの劇場になっているんだ。
来客の際には横のスイッチを入れると、オーケストラが出てきたり、サーカス団がショーを見せてくれたりするんだよ。
かわいいぬいぐるみに囲まれたブリキ人形。でもね、一番好きなお人形ははるか遠くに行ってしまったんだ。

この家に子供さんがね、異国へと留学する時にもっていってしまったんだよ。
いろんな楽しみのある部屋にいたとしても、ブリキ人形の表情が冴えないのもかわいいあの娘がいないせいさ。
ある月夜に、ブリキ人形の体がとても光ってるって、クマのぬいぐるみがうらやましがって言ったんだ。
君のように輝いて僕もあの舞台で踊ってみたいよ。
ブリキ人形は言うのさ。
僕の体がどんなに輝いても、かわいいあの娘はもういない。自慢の踊りももういらないシロモノなのさ。

そんなある日、来客の子供があやまってサーカスのピエロを取ってさらっていってしまったんだ。
オルゴールは動けど、劇場の中はどこかしまらない。そりゃそうさ、おどけて目をひく主役がいなくなってしまったからね。
部屋のみんなもとても残念がっていたんだよ。
クマのぬいぐるみは言うんだ。
ブリキの人形君。君の踊りでここのみんなを元気づけてくれよ。
すると、
君の気持ちはうれしいけど、こうも動かない日が続くと踊りどころじゃない。
きしむ音で、オーケストラの演奏も台無しさ。
あぁ、どうにかならないかなぁ。部屋の誰もがそう思っていたんだ。

すると、クリスマスの夜。
その日は来客も多く、家族も方々から帰ってきたんだ。
そして、家の子供さんもいて、うれしいことにブリキ人形のかわいいあの娘を連れ帰ってきてたんだよ。
それはね、とても不思議な夢を子供さんが見たからなのさ。
お月様の明かりでね、きらめくブリキの人形がとっても楽しく踊っている姿を夢にしたというんだ。
かわいいあの娘の目の前でね。

それがわかったのはだいぶ後の話さ。
その夜、とってもうれしいサプライズにブリキ人形は大喜びさ。
今までなに気に聞いていたオーケストラの演奏も心躍るメロディに聴こえてきてね。
踊りはじめたんだよ。新しい舞台という自分の居場所でね。
それからはまた部屋に活気が戻ってきたんだよ。

子供さんは部屋の不思議な明るさにこう言ってた。
やっぱり夢じゃなかったんだわ。
わたしの不思議な話、お父様聞いてくれる?
ほら、見て。この舞台のお人形さん。かわいい彼女の前で踊っているでしょ。
窓際でくすんでいたブリキの人形にはとても見えないわ。
わたしが持って帰った人形と一緒に、とてもしあわせそうに笑ってるようよ。


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