会場はホッとする涼しさだった。静かで落ち着けた。
人気の小品水彩風景画は無く、大作中心の遺作展である。
抽象画家である娘さんたちが選んだそうだ。
部屋は大きく分けて3部屋。
初期の「草」連作、しわくちゃにした紙の上に人物や飯能の町並みを描いたシュールリアリズム「紙」の連作と抽象画、そして晩年の「風」連作が展示されている。
先ず入口正面の大作「草 夏」に目を奪われる。(1)
どこにもある普通の叢を切り取り、小島先生の超絶技巧で画面に写し取っている。
草の大作群に囲まれると、草いきれ、虫の音、ザワザワという風の声が聞こえてくる。
「草の一日」
次の部屋の抽象画や、先生が一時期集中したシュールリアリズム画の連作は、実は好みではない。
「モノカゲ」
しかし、紙の質感が巧く描かれ、不思議な立体感が表れてくる作品群だ。
ここでは鮮やかな色彩の「作品モン」がいい、と思った▼。
「作品 モン」
「風」連作は樹間や花畑を吹く風を描いている。
風の通った跡は波打ち、渦を巻く。鮮やかな花々は風と一体化して、シュールな雰囲気がある。あくまでも明るく爽やかだ▼
「9月の庭にて」
この部屋の「草 冬」が圧倒的な存在感だ。
土手の枯葦に積もった雪が融けている情景を切り取った横長大型画面である。(2)
油彩画だが淡彩であり、一方に倒れこんだ葦群は凍った音楽のようで、宗教画の雰囲気があった。
最後の小部屋には未完成の遺作があった。
背丈を優に超える、灰色に塗りこめた大型カンバスの上部1割程度に細密な叢が描かれている。最期まで創作意欲を持ち続けられたわけで、今更ながら急逝が惜しまれる。
先生は紙、風を経て、始めの「草」に回帰しようとしたのだろうか。
夫人と娘さんによると、アトリエには未発表の油彩画が多くあるそうだ。
娘さんは、「抽象画や紙連作などを引き取り、常時展示して欲しいが....」.、仰っている。
何しろ画面が大きく、緊張を強いられる抽象画だ。また残念ながら全国的に有名な先生ではない。ここは飯能市の出番ではあるまいか。
「夏の宮沢湖」
個展では即完売してしまう未発表の小品水彩風景画も数十点ある、とか。
懇意な方から頼まれて、特に描いたものだが、その方が亡くなってしまい手許に残してあったそうだ。先生にはそういう誠実さがあった。
水彩画の方は、アトリエに押しかけてでも見てみたい。
卒倒しそうな暑さの中、行った甲斐があった。
・遺作展会場 埼玉県立近代美術館
・会期 7月14日~7月20日(日)
・入館料 無料
以上の画像は本遺作展栞から転写させて頂きました。
水彩風景画は絵葉書で本展には出品していません。
なお、素人コンデジ写真で、「草 夏」(1)と「草 冬」(2)を下に載せましたが.....
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上2点とも、キャンバス 油彩 182cm×455cm です。