林 住 記

寝言 うわごと のようなもの

マダム・ドトゥール

2007-04-29 | 林住期

 「花瓶の赤いケシの花」 玉村豊男画

あんまり空腹なので、すこし早いが餃子屋に入った。
客はまばら。
妙齢のマダムが一人。
奥へ入って振り返ったら、な、なんと、ドトゥール夫人だ!

彼女は珈琲店主夫人である。
ご主人は会社の同期の桜。一緒に会社を辞めて商売に転じた。
仲間の多くが「事業」を創め、誘われもした。殆どが失敗して、行かないで助かった。
事業の才能が本当にあれば、20代で脱サラするもんね。

ご主人は稀な成功者である。夫人の選択は正しかった。
珈琲店以外にあれもこれも。大きくはしないがみな順調のもよう。

夫人は、「もう、そろそろ遊んで暮らしたいのに.....」.、と勿体無いお言葉。
「そんな贅沢な....」.、とお諌め申し上げた。

夫人はたまには店で接客し、かえって太ったみたいだ。
老いさらばえた森男の顔と名前を、昔憧れた君は覚えていてくれて、感謝感激雨霰。

夫人も早い夕食だった。
野菜炒め定食、餃子付き、610円。大きなお財布持ってるのに、森男と同じものを召し上がる。世の中、不公平の公平。

    「餃子、食べきれない、食べて下さる?」

    「はいはいはい、喜んで.....」

森男は噛んでも痛くない歯を捜しながら食う。なかなか目の前のものが減らない。
夫人はぱくぱくもりもり元気どんどん。
あっと言う間に、野菜炒めと餃子、全~部食べちゃった!

    ♪食べた後には何も残らなかった。♪餃子一枚残らなかった。

老若男女、もりもり食う人を見ていると、気持ちが良い。
商売繁昌は、夫人の食欲と内助外助の賜物、とつくずく思う夕方だった。
夫人は追加して買った餃子を持ち帰った。
「まだお店の仕事がある」、と言いながら。

ご主人のあいつは、シアワセ者であるな。
ふんっ。