代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

川を流域住民(あなた)が取り戻すための全国シンポ

2007年08月13日 | 治水と緑のダム
 一昨日から昨日にかけて徳島市で「川を流域住民(あなた)が取り戻すための全国シンポ」が開かれ、参加してきました。
 お盆の帰省ラッシュに阿波踊りと、外部から徳島市内に入るのは一年でもっとも困難な時期であったにもかかわらず、全国から700人以上が参加し、驚くばかりの大盛況でした。私も、新幹線の指定席が取れなかったので、乗車率200%を超えるであろう「新幹線ラッシュ」の中、4時間立ち通しで徳島まで辿り着きました。
 シンポジウムのプログラムの内容は、どれも大変にすばらしいものでした。
 
 さて、私はこのブログで一貫して、「森林整備による洪水ピーク流量の低減機能を科学的に計算し、それを河川計画の中に組み込み、全ての治水ダム計画を見直せ」と主張してきました。それを実行するだけで、かるく十兆円以上の、ムダな上に環境破壊にしかならないダム建設計画を中止に追い込むことができ、その予算を生産的な用途に転用することが可能になるからです。

 徳島のNPOである「吉野川みんなの会」が、吉野川流域の森林整備による治水機能を定量的に明らかにした緑のダム研究を実施してからというもの、こうした研究をする必要性は多くの研究者も認識するようになり、すでに沢山の研究成果が出てきています。「緑のダム論」は住民運動から研究者、政党や自治体へと確実に全国に広まってきています。もっとも認識が遅れ、取り残されているのが霞ヶ関でしょう。
 シンポジウムの実行委員会が採択した意見書の中で、森林に関係した部分を抜粋してみます。

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 「現在の治水計画の合理性には疑問が大きい。(中略)森林の生育状況の変化を考慮せず、流出計算から基本高水を設定し、それをダムと河道に振り分けるという手法がとられている。しかし、その基本高水が過大であり、計画を達成するためには膨大な数のダムや巨大な放水路などを造る必要があり、環境、財政の両面から実現が不可能な状況にある。(中略)
 1997年の改正河川法では、第3条に、伝統的治水工法である水害防備林が「樹林帯」」として規定されており、溢れさせない治水から溢れることを前提とした治水への転換が期待された。しかし、改正河川法以来10年が経過したが、治水と環境を同時に満足させる「樹林帯」は、阿武隈川水系荒川や十勝川の一部で指定されただけで、むしろ残されてきた水害防備林が次々と伐採される現状にある。(中略)
(具体的な政策提言の中の3項目として)  

3.「流域自治」の治水を目指す中で、森林の治水機能を無視することはできない。森林の治水機能は、良好な森林では豪雨時でも河川水が濁らないことに見られるように、定性的に明らかであるが、これを数値化していくことが求められている。国土交通省には林野庁や農林水産省と連携し、森林の治水機能を治水計画に積極的に取り組むことを求める。(後略)」

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 ここで、「森林の治水機能」という言葉を敢えて使ったのがミソだと思います。というのも、日本の行政組織は決して「森林の治水機能」という言葉を使わないからです。歴史的に、「治水」は旧建設省河川局の行政管轄であったため、林野庁は河川局の行政権限を侵さないように、「森林の治水機能」という表現を決して用いませんでした。林野庁的には、森林にあるのは「水源涵養機能」であり、「治水機能」ではなかったのです。政治的な理由で、言葉が分けて使われるようになり、その言説が定着して、科学的探究心をも妨害することになりました。「森林の治水機能」という言葉を使ったたけで、「そんなものは存在しないんだ!」と糾弾されることになったのです(科学的根拠はもちろん不明)。私は実際、国土交通省のオジサマからそのように糾弾されたことがありますから・・・・。

 現行のタテ割り行政が続く限り、真理は科学的にではなく、行政的に決められます。つまり「森林に治水機能はない」ことになります。その理由は、「治水は林野庁の管轄外だから」ということになるのです(笑)。

 実際、林野庁は建設省河川局に遠慮して、「森林はダムの機能を補完する」とは述べてきましたが、決して「森林はダムの機能を代替する」とは述べませんでした。森林関係の研究者も林野庁に右へ倣えでした。「治水」という河川工学者の研究領域に踏み込んで、森林整備がダムの治水機能を代替する可能性について論じることは「タブー」であるというのが、実質的な不文律とされてきました。
   
 今回のシンポジウムでは、このタテ割り行政の弊害について活発な議論が交わされました。河川のシンポジウムで森林の話題が大きく入ってきた近年の流れは、大変に喜ばしいことだと思います。

 シンポジウムの二日目には、滋賀県の嘉田由紀子知事、長年にわたって公共事業の問題に取り組んできた中村敦夫さん(元参議院議員、現俳優)、それから民主党の福山哲郎さん(参議院議員)と共産党の春名なおあきさん(元衆議員議員)のパネル・ディスカッションがあり、一級河川の管理権の地方自治体への移管の是非などをめぐって、フロアとのあいだで熱い論戦が繰り広げられました。大変に盛り上がりました。
 政党にはもちろん全政党に参加を呼びかけたのですが、結局参加したのは民主党と共産党だけでした。これはちょっと寂しかったです。
  
 参院で野党が多数を制したことで、積年の課題である河川法の再改正法案、あるいは民主党が一度提出した「緑のダム法案」を、議員立法で参院を通過させることが可能になってきました。さらに、そうした法案の作成を、住民参加で行うことが現実味を帯びています。上手くいけば、法が市民を支配するのではなく、市民が行政を支配するための道具として法を使いこなすことが可能な情勢だと思います。法案作成そのものを住民参加でやれば、民主党がかって作った河川法改正案や緑のダム法案を上回る、優れた内容の法案を作成することが可能になるでしょう。
 民主党がかってつくった緑のダム法案に関しては、相当に問題があり、パネル・ディスカッションの際にも森林水文学者の蔵治光一郎さん(東大愛知演習林講師)が、「どうせ作るならもっとちゃんとしたものを作ってくれ」と苦言を呈しておりおました。ホントに民主党には、今度は是非、幅広い学者と市民の意見を反映して、しっかりと法案作成をやって欲しいです。

 いみじくも民主党の福山議員が「選挙の後、財務省官僚が大挙して私の元に挨拶参りにきました」と言っておりました。霞ヶ関も今回の選挙の結果を受けて、民主党を取り込もうと躍起になっているようです。しばらくは、市民と霞ヶ関のあいだで民主党をめぐる綱引きが始まりそうです。
  
 シンポジウム実行委員会が各政党に出したアンケートの中に、「わが国の河川の管理や整備について「将来のあるべき姿」はどのようなものでしょうか? そのために必要と考えられる政策・制度・施策などについて教えてください」という質問がありました。
 それに対する回答では、民主党も共産党も森林の問題を位置づけていましたので紹介させていただきます。新党日本、公明党、国民新党、自民党からも書面での回答はありましたが、森林への言及はありませんでした。

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<民主党の回答(抜粋)>
 民主党は、自然の防災力を活かした「流域治水・流域管理」の考え方に基づき、森林の再生、自然護岸の整備を通じ、森林の持つ保水機能や土砂流出防止機能を高める「みどりのダム構想」を推進します。なお、現在計画中または建設中のダムについては、これを一旦すべて「凍結」し、一定期間を設けて、地域自治体住民とともにその必要性の再検討を行うなど、治水対策を含めて、河川の管理などの河川行政のあり方の転換を図ります。
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<共産党の回答(抜粋)>
 治水と治山は表裏一体であり、森林の貯水機能や洪水調節機能など森林の多面的機能を活かした河川の管理と整備こそ、日本社会の持続可能な発展のために求められている姿です。日本の豊かな森林資源を改めて見直すことで、森を育てる事業を活性化するとともに、温暖化を抑制する二酸化炭素呼吸や空気の浄化を拡大し、森林バイオマスでエネルギーの拠点にするなど、中山間地に新たな活力をもたらします。
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 これだけ政策の一致点があるのですから、共産党は「民主党はもう一つの自民党」などと決め付けて批判する必要は全くないといえるでしょう。違いのあるところは論争しつつも、政策の一致があるところから一緒にやればよいのです。
  
 共産党から参加した春名さんは、2004年に四国を襲った甚大な台風災害の際、上流の土砂崩れ現場や、大量の流木が河川を埋め尽くして水害を大きくしている様を自分の目で確認し、森林整備こそ豪雨災害対策の根幹であると確信したと述べていました。彼は、党の言いなりという感じではなく、自分の目と耳で確認した実体験に基づいて、自分の言葉で論じていたので、共産党の議員にしては(失礼)、よい印象を持ちました。
 しかしながら、会場から「政党が住民の前に立ちはだかるのは止めてください」との意見が出た後、春名さんの回答は、「共産党は住民と共に歩んできたのであって、住民の前に立ちはだかったことなどありません。言われていることの意味がよく分かりません」といったものでした。
 この発言を聞いてホントにガッカリしました。う~ん、こうした住民からの率直な苦言に対して身に覚えがないというあたりが、共産党の議員の方の限界だといえるでしょう。

 だって共産党にあっては、自分たちは「前衛」、住民運動は「後衛」という位置づけなのですから・・・。ハナから住民と共に歩むというよりも、住民を党の指導に従わせるというトップ・ダウンに何の疑問も抱いていないのです。この点は、共産党と国土交通省に共通する意識だといえるでしょう。住民を上から見下ろすエリート意識です。
 共産党には、住民運動に党利党略で介入して、運動方針(勝てそうもない誤った戦術)を押し付け、それで運動には負けても『赤旗』の発行部数が増えればそれでよいというところが濃厚にあります。話しがそれましたが、本当の意味で住民と共に歩める政党に脱皮して欲しいという願いをこめての苦言です。
  

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3 コメント

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Unknown (Unknown)
2007-08-20 00:13:13
>林野庁的には、森林にあるのは「水源涵養機能」であり、「治水機能」ではなかったのです。

そうだったのですか!実は私も緑のダムについて調べものをしていて、林野庁のHPを見たときに「水源涵養機能」と書いてあって、あれーなんで?と思ったところでした。水のろ過機能も含めて「水源涵養機能」と書いてあるのかな、と勝手に納得していたのですが・・・。

組織が持つ、自己収束構造と、同時的に発生する集団レベルでの派閥、縄張り意識の発現・・。これは、オルタナティブ組織論が絶対突破しなければいけない課題ですね。その点から見れば、共産党の組織原理のなんと古いことか。二大政党制の是非はともかく、政権交代を旗印とする民主党の方がまだしも柔軟というものです。「組織論の代替案」これも難題のひとつですね。
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すいません (山澤)
2007-08-20 00:15:08
前稿は私のコメントです。あわてて名無しとなりました。失礼しました。
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山澤さま ()
2007-09-03 10:36:43
>「組織論の代替案」これも難題のひとつですね。

これもブログで論じたい課題ですが、なかなか時間が取れないです・・・。日本の政治団体の組織論があまりにも問題なので、私はすっかり組織嫌いになって現在に至っています。組織はある程度、「いい加減」の方がよいですね。
 
 
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