代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

ブラックの連鎖反応

2014年07月20日 | 教育
 前回の記事で書いたブラックバイトの件。なんと「ブラックバイト」で検索して私のブログ記事を見つけたという某民法局の某番組のスタッフの方から電話があり、ブラックバイトで苦しむ学生に取材したいとのことであった。先週、大学1年生のゼミに取材にきて、学生5人にインタビューしていかれた。そのうち放映されるみたいです。
 ブラックバイトのひどい状況は小泉改革の頃からとくに変わっていないように思えるが、ここに来て「ブラックバイト」を社会が問題にし始めたので、マスコミも報道してくれるようになっている。

 契約に反して週5回夜勤バイトを入れられていた某牛丼チェーンの学生は、試験期間中なので何とかシフトを減らしてもらって、週4回になったとのこと。どこの大学も同じ時期に試験が重なるため、シフトを誰かに代わってもらおうにも代わりがいないのだ。彼は、その日も取材に答えた後、帰って2時間ほど仮眠をとってそのまま夜勤。次の日はそのまま朝から試験を受けねばならない。

 取材に来た番組の記者の方は皆に「そんなに大変な思いまでしているのにバイトは辞められないのですか?」と質問していかれたが、「母子家庭で、妹も来年受験なので余裕がなく、家にお金を入れなければならない」とか、他の学生も「家計が苦しいので、学費を親に頼れない。授業料は全部バイトで稼いで出さないとならない・・・」など。

 ブラックな環境で働かされていても、経済的事情でいまバイトを止められないという学生が多い。テレビに映ったのがバレるとまずいと、みんな顔を隠して取材に応じていた。
 
 取材に来た記者の方は、「今の学生はこんなにも苦しいんですね。大学がレジャーランドなんて呼ばれていた私たちの学生の頃とはえらい違いですね」と驚いた様子で感想を述べておられていた(その記者さんが学生だったのはバブル崩壊の後の90年代だったそう)。
 学生の両親もいまはちょうどバブル世代ぐらいだが、そのうち正社員比率が劇的に低下するポストバブル世代のジュニア層が大学生になってくる。今後、学生の経済状況も大学経営も加速度的に悪化していくいだろう。

 私は、「テレビ局もそうとうにブラックじゃないんですか。現場での取材などは下請けの制作会社に丸投げで、下請けの皆さんは長時間働いて酷使されているのに、あまり現場にも出ない正社員は楽な仕事で給料は倍とか・・・」と聞くと、「番組にもよりますね。以前はそういうところも多かったですが、いまは正社員と下請けの格差は縮まってきました」とのこと。「下請けの待遇が改善されたのですか?」と聞くと、「いえ、私たちはそのままですが、正社員の方が(給料が)落ちてきたので・・・」とのお答えであった。

 社会全体が利益優先のブラックな雰囲気につつまれていくと、当然、マスコミのコンテンツもブラックになっていく。マスコミ報道を批判するネットの声も、ブラックなものになっていく。社会のブラック化のスパイラル現象である。

 マスコミの現場も本当に苦しいのだろう。その日もおひとりで取材に来られ、カメラを自分でまわしながらインタビューもこなしておられた。そのスタッフの方は、熱意があって、若い学生たちに対しても尊大な様子は一切みせず、真摯な態度で学生と対話していかれた。本当にすばらしいと思った。
 
 最後に、番組スタッフの方に、「こういう問題が起こってしまう根底には、自由貿易の問題があるんです」と拙著『自由貿易神話解体新書』を贈呈したが、「はぁ」と言われるだけで、その因果関係に関しては全くピンとこない様子であった。

 対処療法でブラックな状況を改善しようと努力しておられる方々には敬意を払うが、TPPのような際限のない自由貿易協定の流れに歯止めをかけない限り、社会のブラック化は止めようがない。マスコミが、自由貿易礼賛論一色で社会をそちらの方向に誘導していることに、問題が悪化する大きな要因があるのだが・・・・・。


 

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