代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

机上の経済学の学習と現場での実習で見える世界は変わる

2015年09月17日 | 教育
 8月後半、学生を引率して北海道で農業の実習をしてきた。北海道の農家に滞在して、農作業をしながら、学生には日本の農業を取り巻く諸問題について聞き取り調査をしてもらった。
 都会育ちの大学生で、しかも経済学を専攻していると、だいたい「農協は悪だ」と刷り込まれている。
 本屋にいけば、経団連系の御用学者たちが出版した農協批判の本ばかり並んでいるし、経済学部だと農業のことなど全く知らないまま、新古典派モデルを受け売りして「農協は悪」「日本の農業は甘やかされすぎ」と平気でのたまう学者先生方も多いので、必然的にそうなってしまう。

 私は農協とは何ら関係ないし、JA全中がいまのままでよいとは何ら思っていない。しかし安倍政権の農協改革は、TPPと関連してJAバンクの資金やJA共済を狙うアメリカの金融・保険業界の要請に従って、米国の言いなりになっているだけで、何ら国内状況を改善しないだろう。安保法制と同じだ。

 今年は、安倍政権の行おうとしている農協改革について農家の方々がどう考えているのか意見を伺ってくるように学生たちに言っておいた。学生たちが提出したレポートを読むと、実際に農家の皆さんの考えを聞く中で、弁証法的に認識の変化が発生している様子がうかがわれる内容だった。いくつか紹介したい。自分たちが信じていたドグマを疑い、さらに勉強して欲しい。

***以下、学生のレポートより抜粋引用*******

経済学科2年男子

(前略) 
 国が今行っている農協の改革についてです。農協は、安く買いたたいたり、農家を苦しめているイメージがありました。しかし、農家の方は農協はとても重要な役割をしていると言っていました。もともと、農協は産業組合が前身で、自分たちの生活を守るために設立された組織だったそうで、地方の農協は農家にお金を貸したり、農協を通して農作物を販売しているためとても農家のために仕事をしているそうです。一方の都市にある農協は、お金を貸したりする所が無くお金をため込んでいる状態にあるため、政府はこのお金を銀行に流したいという目論見があるのではないかとIさんから聞きました。この話を聞いて、北海道などの地方では農協は無くてはならない存在であると知りました。地方にある農協は残しつつ都市にある農協は規模を縮小していけばよいのではないかと思いました。
 私はこの演習に参加して、より一層農業は経済学だけで考えられるほど単純なものでないと感じました。
(後略)

********

経済学科2年 女子

(前略)
 「現地の方の考えと私たちの考えは大きく異なっている。」と感じた。もちろん、後継者問題など私たちが事前研修の際に問題提起したことであっていることもあった。しかし、TPPや農政改革など農家の方々それぞれ考えが違い実際に言って聞いてみないとわからないことが多かったのである。
 例えば日本が今行おうとしている農政改革は他の外国で成功している例を基にしている。1993年にEUが大農政改革を行い、穀物の支持価格を29%引き下げ、財政による直接支払いで農家所得を補償するという政策に転換した。これによってEUの小麦価格はアメリカのシカゴ相場をも下回るようになり、EU産穀物の国際競争力は飛躍的に増加した。なぜEUでは農政改革が進み、日本では進まないのだろうか。
 それはになくて日本にあるものがあるからである。それはJA農協という存在である。農協にとっては米価が高いとコメの販売手数料収入が高くなるうえ、農家に肥料、農薬や農業機械を高く売れる。つまり、農協の収益が高い価格維持とリンクしているのである。
 これだけ聞くと農家の方々は農政改革をして農協権限を減らすことに賛成だと思われるだろう。しかし私がファームステイさせていただいたSさんはこう言ったのだ。「農協は農家にうまく溶け込んでいる。それに農協がなくなったら直接販売などして例えば1300袋もの米を自分たちで売り切れるとは到底思わない。それに農業に必要な土地をうまく提供してくれているのも農協なんだよ。」

 私はこの研修に参加するまで農政改革は必要だと思ってきた。しかしSさんの、農家の方の声を直接聞くことで見えていなかった部分や新たな考え方が生まれた。私は小さいころから都心に住んでいたため、農業という産業に直接触れることが少なかったために、農業になじみの薄い、関わりの少ない人たちの目線でしかこの問題を認識できていなかったのだと思う。
(後略)



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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
知ることは変わること (renqing)
2015-09-17 03:39:27
ブログ主 様

若者への素晴らしい指導ですね。私は書痴の類なので、実は耳が痛い。現場にある知は、その現場に行かないと獲得できない。逆に、新しい理論は、書物ではなく、常に現場から生まれるのかもしれません。自戒とさせて頂きます。
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Unknown (12434)
2015-09-17 11:42:15
今日の日本農業新聞の論説で、宇沢先生と社会的共通資本について語られています。
http://www.google.co.jp/gwt/x?gl=JP&wsc=tf&source=s&u=http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php%3Fcontent_id%3D34680&hl=ja-JP&ei=WCb6VeunEIOJmwW644CgDQ&ct=pg1&whp=30
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Unknown (12434)
2015-09-17 12:54:57
マスコミに叩かれているほど農協は悪くないとは思います。たまに「農家は農協から資材等を購入しないと村八分にされる」とか報道されますが、そんなことはないです。
うちは農業用機械は全て他のメーカーから購入してます。まあ農協に不満がまるでないわけじゃないのは事実です。
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コメントありがとうございます ()
2015-09-18 09:15:59
 農協を美化しようとは毛頭思いませんが、あからさまに経団連と米国の圧力を背景にしたマスコミによる農協バッシングがあまりにも異常ですね。
 学生も、そうした世論誘導には流されやすいのですが、最近のSEALDsの活躍を見ても、もう学生はそう簡単には流されない存在になっていると思います。
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