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季節の中で感じたことを記録しておく

「ブリューゲル版画の世界」展(Bunkamuraザ・ミュージアム )2010.8.29

2010-09-24 19:45:04 | Weblog

 ピーテル・ブリューゲル「7つの罪源シリーズ」(1558年、エングレーヴィング、ベルギー王立図書館所蔵)について述べよう。
 「7つの罪源」シリーズは1「貪欲」、2「傲慢」、3「憤怒」、4「怠惰」、5「嫉妬」、6「大食」、7「邪淫」の7つからなる。

 1 「貪欲」。
 銘文は「貪欲むさぼる者には恐れも羞らいもない」「名誉も礼節も恥も神の警告も、金を掻き集める貪欲の目には入らない」とある。金勘定をする女性が中央にいる。後ろの小屋は両替商。金を返さない人間は巨大な鋏で切断され見せしめのためさらされる。その左手には、怪物に背中を押される裸の人間。これから両替商に金を借りにいくのか、それとも鋏で処刑されるのか。いたるところで、金銭に群がる人間や怪物。戦争における略奪も連想される。

                 

 2 「傲慢」
 銘文は「傲慢な者は神を愛さず、神からも愛されない。」「傲慢は神から嫌われ、神は傲慢から無視される。」とある。下部中央には、鏡に映る自分の姿を見つめる女性。画中で着飾っているのはこの女性だけ。その横には、「傲慢」を象徴する動物として孔雀。周囲では建物内で焚刑、また、野外で釜茹。しかもあちこちに異形の怪物たち。周りの異常な光景には目もくれず一心に鏡をのぞく女性の「傲慢」。鏡に映る彼女の顔は怪物の様。美しく着飾っても、鏡は真実を捉える。 

               

 3  「憤怒」
 銘文は「憤怒は顔を膨れあがらせ、気分を苦々しくする。」「憤怒は精神をかき乱し、血を黒く陰鬱にする」とある。中央下部に武装した兵士。その脇に従う熊は、「憤怒」を象徴する。武器を手に争う人間と怪物たち。巨大なナイフで人間が切断される。また棍棒で打たれ、釜茹でにされ、串焼きにされる。憤怒が引き起こす暴力と狂気。暴力にまみれた世界。

               

 4 「怠惰」。
 銘文は「怠惰は活力を打ち砕き、長き無為は意志の力を挫く。」「怠惰は人を無力にさせ神経を干からびさせ、結局は人を役立たずにする。」とある。下部中央では、「怠惰」を象徴するロバの背に寄りかかり居眠りをする女性。怪物が枕を薦める。周囲にはカタツムリが這い、遠景には巨大なナメクジ。寝たまま食事をする人間や舟の上で排泄する怪物など、だらしない姿の数々。画面左上の時計の腕の形をした針が11時を指し示す。あと1時間で終末(12時)が訪れる。

               

 5  「嫉妬」
 銘文は「嫉妬は恐るべき怪物であり、この上もなく獰猛な悪疫である。」「嫉妬は永遠の死にして恐るべき病い、不当な悩みを抱いて己を貪り食らう怪物。」とある。画面中央下部の人物は、右手で心臓を食べており、これが嫉妬を表す行為。右側の七面鳥は嫉妬を象徴する。手前で骨を奪い合う2匹の犬。これは嫉妬を表す。フランドルの諺「1本の骨に犬2匹」に基づく。画面のあちこちにに靴が描かれている。これも嫉妬を暗示する。「ブーツを履く人、短靴の人知らず」という諺があり、ブーツを履けるような身分の高いものは、短い靴しか履けない人々のことを知ろうとしないという意味。これが転じて、短靴からブーツへの嫉妬を示す。

                

 6  「大食」
 銘文は「暴飲と暴食は慎むべし。」「酩酊と暴食をつつしめ。度を超すのは神と自分自身を忘れさせる。」とある。中央下部では酒をあおる女。彼女の足元には「大食」を象徴する豚。右下には、食べ過ぎてお腹の皮がもたず切開してもなお、食べるのをやめられない怪物がいる。「大食」とはいっても、食べることより飲むことが先に来る。当時は人々は常に空腹を感じそれが飲酒につながった。貧しくひもじいのでそれを忘れるため酒を飲み、食べられるときは意地汚いくらい大食した。

               

 7  「邪淫」
 銘文は「邪淫は活力を消耗させ、四肢を弱める。」「邪淫は悪臭を放ち不潔である。それは活力を砕き身体を軟弱にする。」とある。画面中央では、ヒキガエルの愛撫を受ける女性。股間を広げた怪物や交尾の真っ最中の犬も描かれる。そして至る所でで抱き合う人間たち。

               

 ピーテル・ブリューゲル「聖アントニウスの誘惑」(1566年頃)
 聖アントニウス(251年頃 - 356年)はキリスト教の聖人。修道士生活の創始者。諸々の誘惑を象徴する怪物に囲まれ、苦闘する聖アントニウスの姿は美術の題材として好まれた。

                       


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