季節を描く

季節の中で感じたことを記録しておく

国立劇場小劇場・令和元年9月文楽公演・第2部①『嬢景清八嶋日記』:娘の親孝行が、道徳として称揚された時代だ!②『艶容女舞衣』:半七には三勝を見受けする金がないので、心中した!

2019-09-24 10:56:22 | Weblog
(1)『嬢景清八嶋日記(ムスメカゲキヨヤシマニッキ)』(1764)
主人公は悪七兵衛景清(アクシチビョウエカゲキヨ)と、その娘、糸滝(イトタキ)。景清は、名高い平家の侍大将だったが、源頼朝暗殺に失敗し、今は、日向国(宮崎)に流人となっている。「源氏の世の中を見たくないから」また「源氏の姿を見ると復讐の血がたぎる」という理由で景清は自分で両目をえぐり取り、盲人になっている。※景清には、目を開けると真っ赤に目をくりぬいた痕が覗く専用の一役首(イチヤクカシラ)を使う。 
A.「花菱屋の段」
(ア)
糸滝は数え14歳の少女。2歳の時に母と景清は別れ、親だと思っていた乳母にも死なれ、天涯孤独になる。自分の出生を知った糸滝は、百両あれば盲人が検校(ケンギョウ)という位を買うことができると聞きつけ、父・景清を官位につけるため遊女奉公を決心する。
(ア)-2
話を聞いた口入屋(人材斡旋業者)の佐治太夫(サジダユウ)は糸滝を花菱屋に連れて行く。花菱屋の主人も話を聞いて糸滝に同情し百両の金を渡し、店の者達もさまざまな餞別(センベツ)の品をくれ、糸滝は佐治太夫に付き添われて、日向に向かう。
B.「日向嶋(ヒュウガジマ)の段」
(ウ)
景清は、すっかり落ちぶれているが源氏への恨みは忘れない。佐治太夫とともに、日向島に到着した糸滝。目の前の老人が当の本人と知らずに、景清の行方を尋ねると、景清は「その男は餓死した」と告げる。はるばる訪ねてきたのに、ショックでへたへたと座り込む糸滝。佐治太夫が「せめて墓参りをしよう」と肩を貸し歩き出す。
(エ)
通りかかった里人達に道を尋ねると、「先ほどの男が景清だ」と教えられ、親子の対面となる。娘を無情にも追い返そうとする景清だが、娘に抱きつかれると見えない目を押し上げ開こうとする。
(オ)
糸滝は百両を渡し、「その金は大百姓に嫁いだために得た金だ」と佐治太夫が説明すると、景清は突然はげしく怒り出す。「源氏の世の中で平家の武将の親がいては娘に差し障りがある」という親心だった。
(カ)
糸滝を追い返した景清は、里人から糸滝が残していった書き置きの中身を聞く。娘の身売りの真相を知り号泣する。里人達は実は頼朝の家来で、景清を見張っていたことを明かし、頼朝に従うようすすめる。景清は、平氏への忠義に生きることを諦め、糸滝の親の義務に生きると選択する。糸滝は救われることになり、景清は島を離れる船に乗り込む。

《感想1》娘の親孝行が道徳として称揚された時代だ。もちろん今も娘は老人となった父親の介護をする。ただし今は、男女を問わず子が、老人となった親と同居する割合が減った。


(2)『艶容女舞衣(ハデスガタオンナマイギヌ)』(1772)
A.「酒屋の段」
(ア)
大坂上塩町の酒屋「茜屋」の息子半七は妻お園のある身ながら、女舞芝居の芸人美濃屋三勝(サンカツ)と恋仲になってお通という子供までもうけ、家に帰らない。
(ア)-2
しかも半七は三勝をめぐる鞘当がもとで今市善右衛門を殺害してしまい、お園の父宗岸は憤りのあまり、娘を実家に連れ戻す騒ぎになる。半七の父半兵衛は申訳のために町役人に縄目をかけてもらい心を痛めて帰宅する。
(ア)-3
そこへ丁稚が捨て児を連れてくる。不憫がった半兵衛とお幸夫婦は引き取ることにする。
(イ)
そんな中、宗岸がお園を連れてくる。宗岸は、処女妻ながらもなお半七を慕う娘の貞節に心打たれ、お園を改めて嫁にやり、自身は剃髪して「何のことかは料簡して、今まで通り嫁じゃと思うて下され」と詫びを入れる。
(イ)
半兵衛は、お園の心根に感心するも、倅の罪を思いわざと冷淡なそぶりを見せるが、宗岸に縄目のことを指摘され、互いに思いが通じ和解する。
(ウ)
まだ話したいこともあると、半兵衛らが立ち去り、一人残ったお園は「今頃は半七さん。どこでどうしてござろうぞ・・・去年の夏の患いにいっそ死んでしもうたらこうした難儀はせぬものを」という有名なクドキを演じて苦しい胸の内を語る。物陰で聞いていた半兵衛らが出てきてお園を慰める。
(エ)
そして捨て児がお通(半七と三勝の子)とわかる。お通の懐から書き置きが見つかる。涙ながらに読む四人。そこには、半七の手で、「善右衛門殺しのため三勝との死を決意した」こと、「半兵衛、お幸、宗岸あての別れの言葉」が切々と書かれていた。そしてお園には詫びの言葉と「未来は必ず夫婦」の文字があった。お園は「ええ、こりゃ誠か。半七さん、うれしゅうござんす」と喜ぶ。
(オ)
そんな有様を門口から覗いていた半七と三勝は、不幸をわび「両手合せて伏し拝み、さらば、さらばと言う声も嘆きにうずむ我が家のうち、見返り見返り死にに行く、身の成る果てぞあわれなり」の浄瑠璃で死出の旅に出る。(オ)-2
入れ違いに来た役人宮城十内が、「善右衛門が大盗賊であったこと、ゆえに半七の罪は放免となること」を告げて半兵衛の縄を解く。半兵衛は急ぎ二人の後を追う。

B.「道行霜夜(ミチユキシモヨ)の千日」
(オ)
半七と三勝が心中へと旅立つシーン。残された人々に思いを致しつつ、焼き場の煙が漂い、獄門台の血も乾かぬ刑場へ、最後の場所として半七と三勝が辿り着く。二人は心中する。(※東京では1975年以来の上演。)

《感想2》「善右衛門が大盗賊であったこと、ゆえに半七の罪は放免となる」のなら、半七と三勝が心中することはなかったように思われるが、そうではない。半七には三勝を見受けする金がないので、心中したのだ。(そもそも善右衛門から借りた金が贋金だったので、半七は善右衛門を殺した。)
《感想2-2》お園は、よほど半七に惚れたのだ。別の女と心中したのに、半七に愛想をつかさない。半七が書き置きの中で、お園には詫びの言葉と「未来は必ず夫婦」と述べたのは、お園を救った。しかしお園はこの後いつか、誰かの所に嫁ぐだろうか?一生は長い!