「薔薇空間」の名に惹かれ、Bunkamura ザ・ミュージアムに夜、雨の中、出かける。
ルドゥーテは18世紀フランスの画家でマリーアントワネットやナポレオン妃ジョセフィーヌに仕えた。 (図はピエール=ジョゼフ・ルドゥーテ『バラ図譜』口絵)
展示された絵の最初がランカスター家の赤いバラ。チューダー朝の成立で終わったばら戦争(1455ー85年)の赤いバラ、ロサ・ガリカ・オフィキナーリス Rosa Gallica officinalis である。また珍しいのは花から葉が増殖しそこから第2のはなを咲かせるロサ・ガリカ・アガタ・プロリフェラ Rosa Gallica Agatha (var. Prolifera ) だろう。この二つは古代種ガリカ系で赤である。
これに対しピンクが古代種ダマスク系。香水をとるブルガリアン・ローズのロサ・ダマスケーナ Rosa Damascena はその代表のひとつ。夜明けの女神オーロラの名を冠したロサ・ダマスケーナ・アウローラ Rosa Damascena aurora もピンクである。
古代種アルバ系は白。ロサ・アルバ・レガーリス Rosa alba Regalis は「グレイト・メイドンズ・フラッシュ」とも呼ばれ乙女のはじらいの風情を示す。ヨーク家の白バラといわれるロサ・アルバ・フローレ・プレーノ Rosa alba flore pleno もこの系統である。
100枚の花弁の名を持つのがケンティフォリア系。一般にロサ・ケンティフォリア Rosa centifolia (「百弁バラ」)の名が冠される。その形から「キャベツバラ」と呼ばれることもある。これはマリー・アントワネットがその肖像画で持つバラでもある。
この系統には葉が縮れているので「レタス・ローズ」の別名を持つロサ・ケンティフォリア・ブラータ Rosa centifolia Bullataのようなものもある。
モス系は蕾にコケのような繊毛がある。ロサ・ムスコーサ・ムルティプレックス Rosa muscosa multiplex(「八重咲苔バラ」)はとげも多く荒々しくて野獣風である。
ヨーロッパに取り入れられた四季咲きバラの系統がチャイナ系。一般にロサ・インディカ Rosa Indica (「インドのバラ」)と命名される。その中には「ベンガルの美少女」と呼ばれ細身の黒い肌の少女を思い起こさせるバラ、ルビーまたはガーネットの赤のような色のバラなどがある。 (図はロサ・インディカ・フラグランス)
ワイルドローズも種類が多い。野バラの代表的な色のひとつは黄色で、例えばアジア分布種のロサ・エグランテリア Rosa Eglanteria は別名が「オーストリアン・イエロー」と直截である。(図はロサ・スルフレア、黄色い花)
野ばらのもうひとつの代表的色は白。ヨーロッパ分布種で野ばらの典型とされるロサ・カニーナ・ニテンス Rosa Canina nitens(「照葉イヌバラ」)は白である。根が狂犬病に効くとのことで別名「ドッグ・ローズ」と呼ばれるとのこと。もちろん赤色の野ばらもあり例えばロサ・ルビギノーサ・アネモネフローラ Roasa Rubiginosa anemone-flora は「アネモネ咲き錆赤バラ」の意味である。
ルドゥーテの絵は精密・繊細・優雅であり見飽きることがない。CG画面・動画によるルドゥーテの絵の再構成も魅力的で会場の雰囲気をいっそう華やかにしている。
会場の外の季節は初夏、「薔薇空間」はそれにふさわしい小宇宙だった。