季節を描く

季節の中で感じたことを記録しておく

“ジャック・カロ :リアリズムと奇想の劇場 ”国立西洋美術館(2014.5.17)

2014-05-18 13:06:16 | Weblog
ジャック・カロ(1592-1635)は、17世紀初頭のフランスの腐食銅版画(エッチング)作家。
若い頃にイタリアで、メディチ家の宮廷附き版画家となる。
1621年、帰郷後、ロレーヌの宮廷や貴族たち、聖職者たちのため版画制作を行う。

「二人のザンニ」(1616年頃):フィレンツェの民衆喜劇(コメディア・デラルテ)の役者を描く。おどけた仕草!


「アルノ川の祝祭」(1619年):扇の絵柄。絵の枠組みが左右対称である。花火が打ち上げられ、遠眼鏡で眺める者がいる。フィレンツェの賑やかな祝祭のひと時。


ジャック・カロは、当時、人々が興味・関心を持ったアウトサイダーも描く。
連作『小さな道化たち』:小人の道化師の連作版画。


「奴隷市場」(第1ステート):オスマン帝国軍に囚われた捕虜が売られる。その身請けが、当時の貴族の慈善になったという。


「ド・ヴロンクール殿、ティヨン殿、マリモン殿の入場」:連作『槍試合』のうちの1枚。ロレーヌ宮廷の槍試合を描く。イルカの山車(ダシ)。背景は想像された海。


ジャック・カロは、対抗宗教改革の時代に生きた。フランスのロレーヌ地方では聖母信仰、神秘主義が盛んになる。(宗教改革の幕開けは1517年、ルター『95ヶ条の論題』の提示。)

「日本二十三聖人の殉教」:豊臣秀吉の命令により6名の外国人カトリック宣教師と20名の日本人信徒が耳と鼻を削ぎ落とされ、京都・大阪から裸足で歩かされて長崎に到着、1597年、処刑された。ジャック・カロが版画に描くほど、この事件はヨーロッパでも有名だった。


「聖アントニウスの誘惑(第2作)」(1635年):悪魔的な怪奇性と幻想性を描いたヒエロニムス・ボス(1450頃-1516)の影響がみられるという。


当時、戦争の悲惨は日常の一部だった。ジャック・カロは、傭兵たちを描く。彼は、反戦を訴えているわけでない。ただし傭兵たちの狼藉に対し、軍規維持への関心が高まっていた。

連作『戦争の悲惨(大)』より「絞首刑」:凄まじい絞首刑の情景。しかしこれが戦争の日常だった。

“バルテュス展 :称賛と誤解だらけの、20世紀最後の巨匠 ”東京都美術館(2014.5.1)

2014-05-06 19:07:36 | Weblog
ピカソによって「20世紀最後の巨匠」と言われた画家バルテュス(1908-2001)。パリで生まれたポーランド人。
主題は少女と猫。どこか神秘的だが、シュルレアリスムとは一線を画す。日本ファン。彼が死去したとき、妻は日本人の節子夫人。34歳年下。彼は仏語訳の『源氏物語』、『今昔物語』、『雨月物語』を愛読。キャロルの『不思議の国のアリス』も座右の書。

「キャシーの化粧」1933年(25歳):キャシーと化粧を手助けする女性は、現在でなく、男が想起する過去の世界に属す。男は現在に属す。キャシーが男を見ず、あらぬ方向を見る。


「夢見るテレーズ」1938年(30歳):画家バルテュスにとって「この上なく完璧な美の象徴」である少女。この少女に挑発の意思はない。見る者は挑発される。危うい均衡。彼女は不機嫌なのかもしれない。猫がいる。


「おやつの時間」1940年(32歳):おやつの時間なのに、彼女はなぜ楽しそうでないのか?第2次世界大戦がすでに始まった不安!


「美しい日々」1944-46年(36-38歳):少女が手鏡に映る自分を見る。自己陶酔!何ものも彼女は怖れない。美しい日々。洗面器は純潔の象徴。暖炉の炎と傍らの男は情欲の象徴。