季節を描く

季節の中で感じたことを記録しておく

コロー:光と追憶の変奏曲(国立西洋美術館)

2008-06-29 22:12:12 | Weblog

 19世紀フランスの画家カミーユ・コロー(1796-1875)の作品を見に雨が降る中、出かけた。

 「ピエルフォン城の眺め」(1834年頃)が洒落ている。個人の印象が重視され光鮮やかに城が輝いて浮かび上がる。

 「ドゥエの鐘楼」(1871)は印象派のシスレーの作品に霊感を与えた。

                            

 構図に関しルノワールまたモネの作品に影響を与えたのは「葉むら越しに見たヴィル=ダヴレーの池」(1871)である。

 コローの「傾いだ木」(1865頃)は自然の中にある音楽的リズムを思い起こさせる。

                                 

 人だかりがしていた「真珠の女」(1858-1868)は確かにモナリザを思わせるが年齢が若い。

                            

 「マンドリンを手に夢想する女」(1860-65)に見られるような時間・場所に縛られない抽象性はブラック、ピカソ、マティスに影響を与える。

 コロー78歳の作品であるにもかかわらず「青い服の婦人」(1874)は青色の鮮烈さが若々しい。 

                                    

 構図にリズムを感じまた素晴らしいのは「サン=ル=ノーブルの道」(1873)である。ここでコローは風景とであったときの最初の感情を描くことをめざした。これは抽象画のカンディンスキーに深い影響を与える。

 「モルトフォンテーヌの想い出」(1864)では霧の風景の中、木々と空が境界を持たず相互に溶け合う。コローの自然観がここに象徴的に示されている。ナポレオン3世がこの絵を気に入って購入した。 

                                     

 コローの死後、彼を“真の芸術家”と呼んだのはドラクロアである。

 このコロー展を通して彼が風景画家であるだけでなく人物画も素晴らしく、また絵画への視点に関し多くの後の世代の画家たちに深い印象を与えたことがあらためて確認された。


バウハウス・デッサウ展(東京藝術大学大学美術館)

2008-06-15 14:19:42 | Weblog

 戸外は晴れて梅雨の合間のよい天気。藝大大学美術館のバウハウス・デッサウ展は盛況だった。 

                                            

 第1部:バウハウスとその時代。まずヴァルター・グロピウスの「ヴァイマール国立バウハウス宣言書」(1919)がワイマール共和国の息吹を感じさせた。「あらゆる造形活動の最終目標は建築である」との言葉が、バウハウスがヨーロッパ宮殿建築史の末裔であることを示す。

                                                         

 カンディンスキー、パウル・クレーの影響下に製作されたカール・ヘルマン・ハウプト「赤い人物」(1925):この水彩は画面中の赤い人物が題名の通り印象的。

 バウハウス・ワイマール金属工房製作「テーブルランプMT9ME1」(1923-24)はガラスとスティールからなりモダンで今、照明器具店で売っていてもおかしくない。このタイプの照明はバウハウス・ランプと呼ばれる。 

                                           

 1920年に起きた軍人のクーデター事件の後、ヴァルター・グロピウス「3月の犠牲者のための記念碑:試作モデル」(1920-22)が製作され公募入選する。これに基づき記念碑が建設される。その後、ナチス政権による退廃芸術との烙印のもとでのその破壊、また戦後の再建の歴史はワイマール共和国以後の過酷な歴史を思い起こさせる。

 ここまでが地下2階の展示である。 

 エレベーターで3階に移動すると、第2部:デッサウのバウハウスの展示である。デッサウ市は社会民主党政権のもとにありバウハウスの最盛期がここで現出した。(1924年にデッサウに移転。)

                                           

 「ヨ-ゼフ・アルバースの予備課程での演習」:「素材研究」に関する諸作品(1926-27頃)は興味深い。紙・ブリキ・真鍮板・ダンボールなどの素材がある。

 「ヴァシリー・カンディンスキーの授業」:「色彩論」などの中での生徒の諸作品(1926-29)は彼の理論重視の姿勢を示す。これと対照的に「パウル・クレーの授業」の諸作品(1927-28)は柔軟・自由な雰囲気である。 

 「ヨースト・シュミットの造形工房」:「直線と円(棒と環)から回転を通して双曲面体、球体などへ」と名づけられた実験装置(1930)は面白い。

 アウグスト・アガツ「裸体習作:オスカー・シュレンマーの裸体素描授業での演習」(1927)は“本質を見つめよ”との師の言葉への忠実さを示し迫力がある。

 デザイン:マリアンネ・ブラント「2層ガラス球の吊り照明ME94、デッサウ校舎の照明器具」(1926)がモダン。 

                                          

 何枚かの写真作品(1928-33頃)は当時のドイツ社会またバウハウスの学生たちの日常を垣間見せ、新鮮である。特に「バウハウスの食堂にて」(1932)は意図的に風変わりな構図を採用し時代の気分がよく出ている。 

 圧倒するのが舞台関係映像。オスカー・シュレンマー「トリアディック・バレー」(1922、再構成1969-70)、クルト・シュミット、ゲオルグ・テルチャー「メカニカル・バレエ」(1923、再構成1988)、ラスロ・モホイ=ナジ「メカニック・エキセントリック」(1924、再構成1988)、オスカー・シュレンマー「バウハウスダンス」(再構成1993)。いずれも不思議な感じのダンスである。魅力的で見ていて飽きない。 

 バウハウスの家具は現代にそのまま通用する。デザイン:カール・フィーガー「寝室セット:ベッド等」(1927)、デザイン:マルセル・ブロイヤー「裁縫台、バウハウスモデル家具(テルテン集合住宅用)プロトタイプ」(1926-27)、「組テーブルとスツール、モデルti6a,b,c」(1930)など。                       

                                                             

 第3部:バウハウスの建築。ここでは現代建築の原型を発見する。設計(1925-26):ヴァルター・グロピウス「バウハウス・デッサウ校舎:模型」、「デッサウのマイスターハウス」はいずれもデザインがどの方向から見ても均整がとれ美しく印象的である。 

                                          

  バウハウス・デッサウ展は、現代の工業デザイン、建築などの起源を認識させるとともに、若さと創造性に満ちた時代を感じさせ感動的だった。


「薔薇空間」-宮廷画家ルドゥーテとバラに魅せられた人々-(Bunkamura ザ・ミュージアム)

2008-06-01 11:25:16 | Weblog

 「薔薇空間」の名に惹かれ、Bunkamura ザ・ミュージアムに夜、雨の中、出かける。

 ルドゥーテは18世紀フランスの画家でマリーアントワネットやナポレオン妃ジョセフィーヌに仕えた。 (図はピエール=ジョゼフ・ルドゥーテ『バラ図譜』口絵)

                                      

 展示された絵の最初がランカスター家の赤いバラ。チューダー朝の成立で終わったばら戦争(1455ー85年)の赤いバラ、ロサ・ガリカ・オフィキナーリス Rosa Gallica officinalis である。また珍しいのは花から葉が増殖しそこから第2のはなを咲かせるロサ・ガリカ・アガタ・プロリフェラ Rosa Gallica Agatha (var. Prolifera ) だろう。この二つは古代種ガリカ系で赤である。 

 これに対しピンクが古代種ダマスク系。香水をとるブルガリアン・ローズのロサ・ダマスケーナ Rosa Damascena はその代表のひとつ。夜明けの女神オーロラの名を冠したロサ・ダマスケーナ・アウローラ Rosa Damascena aurora もピンクである。 

 古代種アルバ系は白。ロサ・アルバ・レガーリス Rosa alba Regalis は「グレイト・メイドンズ・フラッシュ」とも呼ばれ乙女のはじらいの風情を示す。ヨーク家の白バラといわれるロサ・アルバ・フローレ・プレーノ Rosa alba flore pleno もこの系統である。

 100枚の花弁の名を持つのがケンティフォリア系。一般にロサ・ケンティフォリア Rosa centifolia (「百弁バラ」)の名が冠される。その形から「キャベツバラ」と呼ばれることもある。これはマリー・アントワネットがその肖像画で持つバラでもある。

                              

 この系統には葉が縮れているので「レタス・ローズ」の別名を持つロサ・ケンティフォリア・ブラータ Rosa centifolia Bullataのようなものもある。 

                                

 モス系は蕾にコケのような繊毛がある。ロサ・ムスコーサ・ムルティプレックス Rosa muscosa multiplex(「八重咲苔バラ」)はとげも多く荒々しくて野獣風である。 

                                  

 ヨーロッパに取り入れられた四季咲きバラの系統がチャイナ系。一般にロサ・インディカ Rosa Indica (「インドのバラ」)と命名される。その中には「ベンガルの美少女」と呼ばれ細身の黒い肌の少女を思い起こさせるバラ、ルビーまたはガーネットの赤のような色のバラなどがある。 (図はロサ・インディカ・フラグランス)

                              

 ワイルドローズも種類が多い。野バラの代表的な色のひとつは黄色で、例えばアジア分布種のロサ・エグランテリア Rosa Eglanteria は別名が「オーストリアン・イエロー」と直截である。(図はロサ・スルフレア、黄色い花)

                                

 野ばらのもうひとつの代表的色は白。ヨーロッパ分布種で野ばらの典型とされるロサ・カニーナ・ニテンス Rosa Canina nitens(「照葉イヌバラ」)は白である。根が狂犬病に効くとのことで別名「ドッグ・ローズ」と呼ばれるとのこと。もちろん赤色の野ばらもあり例えばロサ・ルビギノーサ・アネモネフローラ Roasa Rubiginosa anemone-flora は「アネモネ咲き錆赤バラ」の意味である。 

 ルドゥーテの絵は精密・繊細・優雅であり見飽きることがない。CG画面・動画によるルドゥーテの絵の再構成も魅力的で会場の雰囲気をいっそう華やかにしている。

 会場の外の季節は初夏、「薔薇空間」はそれにふさわしい小宇宙だった。