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北條秀司十三回忌追善『大老』(国立劇場)

2008-10-19 22:47:40 | Weblog

 快適な秋の午前中、JR四谷駅から国立劇場まで約10分ほど歩く。

 『大老』は井伊直弼の一代記である。埋木舎(ウモレギノヤ)での部屋住みの時代から大老として暗殺されるまでが描かれる。

             

 冒頭は部屋住みのときの直弼の鬱屈した気持ちが主題。お静の方とは平穏な生活が続く。

 突然、直弼は彦根藩主となる資格を得、やがてついに幕府の大老となる。 その後の攘夷派水戸斉昭と開国派井伊直弼の対立はわかりやすい。通商条約の勅許問題を中心に幕末の政治地図が上手に要約されている。

 安政の大獄についての井伊直弼の迷いと苦悩の描写はやや直弼びいきな傾きがある。しかし日本のナショナリズムの分裂を誘わないためにはこのように扱うしかないと思った。 

 仙英禅師が象徴的位置を占め印象的。お静の方と直弼の愛は涙を誘う。安政の大獄をめぐり直弼と対照的に悪役扱いされる長野主膳の存在は大きい。

 最後に直弼が後世の評価を気にせず信念のために生きるしかないのだと決意する場面は力強かった。 

 全体にわかりやすい展開で、舞台が終わったとき開演から4時間半が経っているのに時間の長さを感じさせない。戸外は暗くなり始めていた。


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