沖縄出身の詩人山之口貘(ヤマノグチバク)(1903-1963)の物語。
彼は、若い頃、上京。父親が事業に失敗し一家離散したのが理由。
彼は詩人を目指す。真面目な詩人。
「精神の貴族」。貴族は働かない。
彼は友人たちに金銭的にも支えられ生活して行く。ほとんどルンペン生活。
戦争の時代、詩人など物書きは監視され、戦争への協力を要求される。
貘さんを、詩壇の大御所、佐藤春夫が庇護してくれる。
金子光晴が、貘さんの最もよい友人の一人。
中原中也は喧嘩をふっかけてばかりいたという。
アナーキスト的な蛙世界を描いたはずの草野心平も、戦争協力する。
佐藤春夫も文学報国会のりーダーの一人となる。
白人の支配に対するアジア人の連帯の思想が、彼らを捉えた。
山之口貘は、非政治的である。
彼は、戦争に興味を持たない。戦争は自然の猛威のようなもの。
貘さんは、自分と詩との関係だけを見ていた。
自分の心と、詩という言語シンボルの間に、親和性を打ち立てることだけに関心があった。
だから彼は推敲を繰り返し行った。
言語シンボルとのこの親和性の構築に関して、彼はまず自分の内面世界を対象とした。
彼は、長生きすれば、対象をもっと広げて行ったろう。
つまりもっと広い範囲を、詩の題材としたろう。
詩が作り出すシンボル世界と、自分の内面世界が、どうしたら相似形になるかを追求することだけに、生活を捧げようとした孤高さにおいて、彼は、貴族である。
彼が、お嫁さんを探したことは、貴族的でないが、これは彼の内面世界の形象の問題である。それは、詩と内面世界の親和性・相似化を追求する限りでの、彼の貴族性を、少しも傷つけない。
舞台は、山之口貘がなぜ「精神の貴族」と呼ばれたかを、適切に描いていると思う。