世界一周クルーズ

「あと１０年働いたらしたいことがあるんだ」
５月のある夜、第３のビールを飲みながらおれがいった。
「なに？」
女房はなにかのテレビを観ていた。
「飛鳥Ⅱという豪華客船での世界一周」
「いいんじゃない。行けば」
「えみさんも一緒に行こうよ」
「ワタシはイイ！」
「行こうよ。長い間仕事してきたお疲れさん旅行だよ。
　おれ１人じゃつまんないよ」
「いくらなの？」
「一番安くて３６０万」
「あーやっぱりワタシはいいわ。もったいない。
　でも、宝くじでも当たったら行ってもいいな」

それで話は終わった。
いつものことだが、あとくされないあざやかさだ。

２００６年の「飛鳥Ⅱ」の世界一周クルーズは、
４月３日に横浜を出航した。
１０１日後の７月１２日に横浜に帰ってくる。
ラジオでこのことを知り、乗りたいなと思った。
おれは日本から出たことがない。
６５歳になって自由になったら世界一周なんていいな、と思った。

しかし、よく考えれば、やっぱり経済的にムリですね。
はたして６５歳でおれは年金がもらえるのか？
もらえても安いんだろうな。
そういう状態のときに３６０万円は使えない。
当然、１０年後は値上がりしているだろう。
そう思うと、あらためておれの人生って、侘びしいな。