Luna's “ Life Is Beautiful ”

その時々を生きるのに必死だった。で、ふと気がついたら、世の中が変わっていた。何が起こっていたのか、記録しておこう。

新刊書案内 「ルポ 貧困大国アメリカ」のご紹介

2008年01月25日 | 一般
“飛び込み”で新刊書をご紹介します。アメリカの貧困の現状とそれに立ち向かうべく立ち上がった人々のルポです。ジャーナリストが書かれたものですので、読みやすいです。わたしも一気に読み込んでしまいました。

この本の「あとがき」を今回、書き写しました。いかにもTV人の言いそうな、大上段に構えた、というか、大見得を切ったというか、あまりにもでき過ぎた美文で、目の冷めた方々にとっては、ちょっと興ざめかもしれません。

しかし、内容は決して空虚ではありません。取材をまとめた上で、多少大げさではあるにせよ、読者に訴えたいという意欲はググッと伝わっては来ます。またこのメッセージはわたしたちが考えなければならないことでもあります。

アメリカ盲従の日本に危惧を憶える方々にはこの本は特にお勧めです。わたしは、といえば、これもまた、今自民党に投票してはいけない理由のひとつとして、この本をお勧めしたいです。

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教訓は、いつも後になってからやってくる。2001年9月11日以後のアメリカで真っ先に犠牲になったもの、それはジャーナリズムであった。

9・11テロの瞬間をとなりのビルから目撃していた私の目の前で、中立とはほど遠い報道にあおられ攻撃的になり、愛国心という言葉に安心を得て、強いリーダーを支持しながら戦争に暴走していったアメリカの人々。

だが、実はすべてを変えたのはテロそのものではなく、「テロとの戦い」というキーワードのもとに一気に推し進められた「新自由主義政策」の方だった。何故ならあの言葉がメディアに現れてから、瞬く間に国民の個人情報は政府に握られ、いのちや安全、国民の暮らしに関わる国の中枢機能は民営化され、戦争に負け、転がり落ちていった者たちを守るはずの社会保障費は削減されていったのだから。

9・11で生かされたことをきっかけにジャーナリストに転向した私は、学校から生徒の個人情報を手に入れた軍にリクルートされた高校生を取材するうちに、知ることになる。

今起きていることは、あのテロをきっかけに一つの国が突入した「報復戦争」という構図ではなく、もっとずっと大規模な、世界各地で起きている流れの一環であることを。「民営化された戦争」という国家レベルの貧困ビジネスと、それを回してゆくために社会の底辺に落とされた人間が大量に消費されるという恐ろしい仕組みについて

それがアメリカとイラクという二国をはるかに超えた世界規模の図式であることを証明するかのように、日本もアメリカのあとを追うようにしてさまざまなものが民営化され、社会保障費が削減され、ワーキング・プアと呼ばれる人々や、生活保護を受けられない者、医療保険を持たない者などが急増しはじめた。

アメリカで私が取材した高校生たちがかけられたのと同じ勧誘文句で、自衛隊が高校生たちをリクルートしているという話が日本各地から私の元に届き始めたのは最近だが、同時にアメリカ国内では、この流れに気がついた人たちが立ち上がり始めていた。

兵士やその親たちだけではない。民営化の犠牲になった教師や医師、ハリケーンの被災者や失業手当を切られた労働者たち、出口をふさがれる若者たちや、表現の自由を奪われたジャーナリストたちが、今、声をあげている。生存権という、人間にとって基本的な権利を取り戻すことが戦争のない社会につながるという、真実に気がついた人々だ。

アメリカから寄せてくるこの新しいうねりは、同じ頃日本で急速に拡がった憲法9条を守ろうとする動きに一つの大きなヒントを差し出してくる。

戦争にブレーキをかけるために中将への昇進を目前にして軍を除隊したある米軍元少将は言う。
「問題は、何に忠誠を尽くすか、なのだ。それは大統領という個人でも国家でもなく、アメリカ憲法に書かれた理念に対して、でなければいけない」。

一つの国家や政府の利害ではなく、人間が人間らしく誇りを持って幸せに生きられるために書かれた憲法は、どんな理不尽な力がねじ伏せようとしても決して手放してはいけない理想であり、国をおかしな奉公に誘導する政府にブレーキをかけるために私たちが持つ最強の武器でもある。それをものさしにして国民が現実をしっかりと見つめたとき、紙の上(=憲法の条文が印刷されているページの上)の理念には息が吹き込まれ、民主主義は成熟しはじめるだろう。

何が起きているかを正確に伝えるはずのメディアが口をつぐんでいるならば、表現の自由が侵されているその状態におかしいと声を上げ、健全なメディアを育てなおす、それもまた私たち国民の責任なのだ。

人間が「いのち」ではなく「商品」として扱われるのであれば、奪われた日本国憲法25条(*)を取り戻すまで、声を上げ続けなければならない。

この世界を動かす大資本の力はあまりにも大きく、私たちの想像を超えている。だがその力学を理解することで、目に映る世界は今までとはまったく違う姿を現すはずだ。戦うべき敵がわかれば戦略も立てられる、とエピローグで紹介したビリー神父は言う。大切なのはその敵を決して間違えないことだと。

無知や無関心は「変えられないのでは」という恐怖を生み、いつしか無力感となって私たちから力を奪う。だが目を伏せて口をつぐんだとき、私たちははじめて負けるのだ。そして大人が自ら舞台を降りたときが、子供たちにとっての絶望の始まりとなる。

現状がつらいほど私たちは試される。だが、取材を通じて得たたくさんの人との出会いが、私の中にある「民衆の力」を信じる気持ちを強くし、気づかせる。あきらめさえしなければ、次世代に手渡せるものは限りなく尊いということに。


(「ルポ・貧困大国アメリカ」/ 堤未果・著)

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(*)
日本国憲法25条:
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
(2) 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。



どうでしょう。歌舞伎なみの(歌舞伎を鑑賞したことはありませんが)大見得でしたが、でもメッセージには共感できませんでしたでしょうか。わたしは、もっともだと共感できました。

特に、「国民の責任」として、メディアを育てなおすこと、無知、無関心を棄てることなどは、今緊急に必要だと思います。わたしはとにかく、すべての日本人は、日本の憲法について、基礎的な知識を持つべきだと主張したいです。憲法を考えるに当たって、まず右翼の言い分を聞いて判断するのはフェアじゃありません。もちろん、左翼の言い分にもとづいて考えることも同様です。まず自分で憲法について知るべきなのです、とくに、現行憲法が成立したいきさつは絶対知る必要があります。

憲法の教科書でお勧めなのは、岩波ジュニア新書から発行されている、「憲法読本(杉原泰雄・著)」です。中高校生~大学初年級生向けに書かれてありますから、読みやすく理解しやすいです。かっこつけて専門性の高いものを買って、読まないままになるよりも、まず市民向けにやさしくかかれたものから始めるのが、理解を深めるベストな道だと、わたしは経験からこう思います。ちょっと専門性が高めのものなら、「憲法学教室(浦部法穂・著)」が解かりやすいです。熱く語りかける文体が魅力です。

とにかく、日本はこのままブッシュ政権配下の経団連=自民党に引きずられていてはならないです。はっきりいって、昭和30年代以後に生まれた人たちの老後に安心はかけらほどもありませんよ、マジで。特別のエリート階級に入り込めた少数の人々を除いて。

引用した一文は、つまり未果さんの大上段に構えた一大演説は、気持ちをきりっと引き立たせるものではあったでしょう。日本人はあまりにもお行儀がよくて、お人好し過ぎます。お行儀がいいのは決して美徳なんかじゃないですよ。ある場合は、行動することが怖くて、対決するのが怖いので、逃避していることをごまかして、お行儀を云々する場合もあります。怒りを忘れた人間はマインド・コントロールされきった人間です。

オウム真理教の人たちって、不気味だったでしょう?
エホバの証人の人って、イマイチどこか気味悪いでしょう?
それは彼らが考えることを他人任せにし、責任を回避しようとするからです。リスクを引き受けようとしないから、そういう卑怯さが「どことなくイヤな感じ」を醸し出すのです。社会をつくってゆく責任をうとましく思い、面倒がるのであれば、そんなわたしたちはオウムの信者やエホバの証人の信者と穴を同じくするムジナなんですから。

ぜひ、立ち上がりましょう!
日本政府は今、憲法25条に違反して、福祉と社会保障を減退させています。この流れには、わたしたちは抗議しなければなりません。家族を養う責任というのは、ただ単にお給料を稼ぐということだけではありません。憲法の理念に沿った社会を建設し、向上させてゆく責任を受けいれることも含んでいるのです。なぜなら憲法というものは、「一つの国家や政府の利害ではなく、人間が人間らしく誇りを持って幸せに生きられるために書かれた」ものなのですから!

未果さんの文章は少なくとも、そういうヤル気を起こさせます。また、この本で紹介されている、抵抗する人々は、正真正銘、その真剣な姿勢には心うたれます。岩波新書から発行されています。税込み735円です。
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