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軽減税率の還付方法・・・見えない公共事業

2015-09-09 05:22:00 | 時事/金融危機
 

■ 軽減税率の還付方法 ■

消費税10%への増税に伴う軽減税率が話題になっています。麻生財務大臣が「複数税率は面倒くさい」と発言した事が国民の反発を招きましたが、発表された財務省案を見ると、「面倒くさい」のは「複数税率」であって、「軽減税率」では無い様です。

1)買い物の際は10%の消費税を一律で支払う
2)アルコールを除く食品全て(外食も含む)に税率2%分のポイントを付ける
3)「個人番号カード」を読み取り機に掛け、ポイントを溜める
4)上限金額、年間一人4000円のポイントが還付される
5)還付は手続きの後、銀行口座に振り込まれる

複雑ですが、実に良く出来たシステムです。財務省的に・・。

■ 上限金額一人最大4000円は少ないのでは? ■

まず単純に考えて、次の様な問題が発生します

1) 4人家族の食費は平均で月8万円という調査結果が有る
2)12か月で食費は96万円。その2%は19,200円。
3)4人家族の還付額の最大は16,000円。

家計費の食費には外食費は普通含まれません。お父さんのお昼代は「小遣い」に分類されているはずです。ですから、外食費を含めた4人家族の控除金額は年間20,0000円を軽く超えると思われます。16,000の還付最高額は根本的に少ない様に思われます。

■ 「個人番号カード」を利用したトリック ■

1)食品を買い物した人の「個人番号カード」にポイントが溜まる
2)一般家庭ではお母さんが食料品を買う事が多い
3)お母さんのマイナンバーに家族分のポントが溜まる
4)4人家族なら年間還付額の上限は最大16,000円。
5)お母さんの還元ポイント上限は4000円しか無い。

これも大きな問題でしょう。賢いお母さんは家族全員で買い物に行ってポイントを分散する工夫をするかも知れません。

この問題は多くの方が直ぐに指摘されるでしょうから、家族全員のポイントを合算するなど、制度上の調整が検討されると思われます。

■ 還付方法が面倒くさい ■

ポイントがあるレベルに達したら手続きして銀行に振り込まれるという方法も面倒くさいですね。4000円程度ならと、手続きをしない方は多いかと思われます。

特に高額所得者の多くは手続きをしないのでは無いでしょうか。但し、この点は「高額所得者が税を多く負担する」という観点からは問題は少ないでしょう。そもそも、高額所得者は高級食材を買ったり、高級レストランで食事をするだけで、税負担が一般人よりも多いので、頑張ってより多くの税金を負担して頂きたい。

一方、低所得者の多くも還付手続きを「面倒だ」と感じる方は多いかと思われます。一人暮らしのフリーターの方が、「面倒」な手続きをするでしょうか・・・。個人の問題とは言え、「面倒くさい還付方法」は逆進性を強める恐れが有ります。

■ 所得税の定額還付で十分では無いのか? ■

ヨーロッパの様に「品目別に細かく分けられた税率」の管理が「面倒」という事で導入されるであろう今回の「簡易的な軽減税率」ですが、この方式を用いるならば、「個人番号カード」+「銀行振り込み」などという「面倒」な方法を採用する必要は有りません。

1)一人当たり年間4000円の税額を確定申告時に還付すれば良い
2)通常の確定申告の作業の範囲内で行政コストの負担が無い
3)還付額を定額とする事で逆進性も緩和される

本当は「子育て世帯」とか「高齢者世帯」で還付額に差を付けても良いかも知れません。食べる量が違いますから。

■ 複雑なシステムはIT産業に対する公共事業 ■

財務省としては「個人番号カード」の活用は、マイナンバー制度のアピールのつもりでしょうが、実はその裏にはITゼネコンの思惑も絡んでいると思われます。

近年、行政サービスのIT化が進んでいますが、そのシステム構築をITゼネコンと呼ばれる大手システム開発会社が受注します。今回のマイナンバー制度の基幹システムは大手5社が114億円で受注しています。

建築土木関連の公共事業に比べると小さな額に見えますが、これはあくまでも基幹システムであって、今回の「個人番号カード読み取りシステム」など付帯システムは新たなサービスが生まれる度に発注されます。

実は「住基ネット」構築の際に、個人零細までう含めたIT業者が総動員されましたが、今回も地方自治体単位でマイナンバーシステム構築の為にIT企業に多くの発注が成されるはずです。これらIT関連への公的発注は今や「見えない公共事業」として相当な額に上っています。

本来ならば「行政コスト削減」の為に導入される住民基本台帳のナンバーや、マイナンバーですが、縦割り行政や、行政単位毎のシステム発注によって、行政コストはむしろ膨らんでいます。行政の人件費は削減されますが、システム開発費や管理費としてコストが業者に流れているのです。

今回の消費税の還付方式も、簡単に出来るものをワザワザ複雑にして「IT公共事業」を作り出している様に感じられます。

■ 「個人番号読み取り機」って駄菓子屋にも設置されるのかな・・・ ■

「個人番号読み取り機」を各店舗に設置する様ですが、このコストもバカになりません。駄菓子屋の婆ちゃんには大きな負担です。まあ、年間1000万以下の売り上げの業者は非課税ですから、読み取り機を設置する必要も有りませんが・・・。

消費税課税業者に相当する年間売上1000万異常の飲食店や食料品店は「読み取り機」の設置が必要になりますが、インターネットも引いていないラーメン屋さんなんてザラに有りそうです。

「読み取り機」の設置コストや通信費は誰が負担するのでしょうか・・・。

■ 野党は対案を出すべきだ ■

今回の「簡易的な軽減税率」の還付方法はあまりにも無駄が多いので、どうせ「簡易的な軽減税率」であるならば、その還付方法も「簡易」であるべきです。

野党は国会で安保法案で不毛な質疑をする位ならば、国民にメリットのある所得税減税方式による還付を提案してみてはどうだろうか。

・・それとも財務省が怖くて触れられないのか・・・。



<追記>

「個人番号カード」のシステム導入が2017年の消費税増税に間に合わないので、当面は所得の低い人への年6000円の給付金を拡大する様ですね。この方式を全ての所得層に拡大する方法で何の問題が有るのでしょうか・・・。