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日銀の緩和拡大の大合唱・・・いったい誰の声なのか?

2014-02-19 11:50:00 | 時事/金融危機
 

■ 日銀の追加緩和を期待するのは誰? ■

最近ロイターなどで目にする「日銀の追加緩和期待」という言葉。いったい誰が「期待」しているのでしょうか?

日本の国内を見れば、いくら日銀が金融緩和を拡大しても企業の資金需要が増えていないので貸出しは増えていません。

1) 企業は景気が回復しても内部保留で設備投資している
2) 金利が稼げる中小企業向けの融資は減少している
3) 日本国債金利がメガバンクの利益の3割を生み出しているが、今後は金利低下で減少

電気関係を中心に大企業が青色吐息の状況で、中小企業は積極的に投資するはずがありません。

日銀がいくら金融緩和を拡大しても、資金需要を作る事は出来ないので景気は回復しないのです。これは、金利がゼロになった時点で、金融政策が効果を失う事を意味しています。(ゼロ金利の罠)

では、「日銀の追加緩和」の大合唱は誰の声なのでしょう?

■ 低利の資金に飢えている市場 ■

ここで少しヘッジファンドのビジネスモデルを考えてみます。

ヘッジファンドの名前の由来は、金融などの取引におけるリスクをヘッジする所から来ています。

1) 「売り」のポジションと「買い」のポジションを取る
2) 「売り」と「買い」の時期を微妙にずらす
3) 「現物売り」と「先物買い」などで相場の変化を利用して利益を拡大する
4) 相場が下落しても、「先物買い」がカバーするので大きな損失をヘッジ出来る

ヘッジファンドは仕手筋などとは異なり、割と地味なポジションでセコク稼いでいます。
ただ、レバレッジを大きく掛ける事で、彼らは一般の投資家以上の利益を叩きだします。

5) 手元資金の10倍、或いは100倍としう借入資金を運用する
6) 利幅の乏しい取引でも、レバレッジによって利益が拡大する
7) 運用資金が巨大になる事で、市場価格の決定力が強まる

この様にして、リーマンショックまでは100倍に近いレバレッジを掛けてヘッジファンドが市場を拡大していました。そこにリーマンショックが発生します。


8) 売りと買いの両方のポジションで大量の資金が流入して市場が巨大化する
9) リーマンショックが発生して想定以上に相場が下落する
10)売りと買いのポジションが一気に解消されて、市場規模が一気に縮小する

市場に流入していた資金は将来の利益を想定して信用創造された資金なので、将来の利益が消失した事で、大量の損失が発生しました。これがリーマンショックの一つ側面です。

この様な取引を支えていたのは、潤沢に供給される資金です。世界の年金マネーなどのファンドが金利に引かれて集まっていましたが、当時、世界で唯一量的緩和を実行していた日本の資金も大量に流入していました。

1) 日銀が禁輸緩和を実行して円を大量に供給する
2) 日本国内に資金需要が少ないので、日本の金融機関は海外に投資する
3) ゴールドマンサックスなどが組成した金融商品を日本の個人や金融機関が買う

4) 海外の金融機関が日本の金融機関から円を調達する
5) 為替市場で円をドルと交換し、ドルで市場の投資する

この過程で、円を為替市場でドルに換える必要があります。そこで、円売りドル買い取引が増えるので、円安が発生します。リーマンショック前の安定した円安はこの様な「円キャリートレード」によって発生していました。

一般には「通貨の量に為替相場はある程度比例して変動する」という「通貨定量説」を唱える人が多いのですが、動的に見れば、金利差が為替相場を動かす原動力となっているのです。もし、円が大量に供給されても、金利が高ければ円が調達通貨になる事はありません。

少し長くなりましたが、この様に世界の金融市場は低金利の資金を求めています。実質金利は為替変動によっても変化するので、円安が進行すれば、円キャリートレードの利益はさらに拡大します。

「日銀の追加緩和」を期待しているのは、日本国内の中小企業などでは無く、海外の投資家達なのです。

かつての様な巨大なレバレッジこそ掛けなくなりましたが、ヘッジファンドの投資スタイルが変化した訳ではありません。

■ FRBのテーパリングを補完する為に日銀は追加緩和に追い込まれる ■

FRBのテーパリング開始以降、市場に供給される資金は確実に減少します。それを何処かで補わなければ、金融市場はどこかの時点で拡大から縮小に移行せざるを得ません。

既に世界の市場はリーマンショック以前の水準を越えて水膨れした状態ですから、縮小が顕著になれば、リーマンショック同様の崩壊が何かの切っ掛けで発生する可能性は低くありません。

そこで、ヘッジファンドや投資家達は、日本の株式市場に売り圧力を掛けて、金融緩和の拡大を促しています。日銀は18日に資金供給の拡大に言及しましたが、円高や株安を食い止める為には、若干のサービスが必要だと判断したのでしょう。

ただ、資金供給の拡大規模はそれ程大きく無いので、再び円高と株安が仕掛けられる事でしょう。何れにしても、4月の消費税増税後は日本の国内景気は顕著に後退するので、又もやリフレ派が大騒ぎして、日銀はさらなる金融緩和を実施せざるを得なくなります。

■ こんな事はいつまでもは続かない ■

問題は、日銀の大規模緩和もいつまでも続ける事が出来ないという事です。とりあえず異次元緩和は2年間の期限限定とされていますが、FRBと同程度の資金供給を続ける日銀が出口戦略に舵を切れば、世界経済は再びいパニックに陥ります。

では、日銀はいつまでも出口に辿り着けずに、金融緩和を永続化出来るのでしょうか?これも通貨の信用上、問題が大ありですから、何処かの時点で円の価値が大幅に下落する恐れがあります。

さらに、金融緩和は「隠れ財政ファイナンス」なので、これが永続化すると市場が判断すれば、円や日本国債を売って一儲けしようと企む輩も出て来るでしょう。

■ アベノミクスに期待されているのは日銀の資金供給だけ ■

新聞やロイターの報道では、最近の株安はアベノミクスへの市場開放や構造改革への失望感と説明していますが、実際に投資家達の興味の対象は、「日銀があとどの位資金を供給できるか」という点に尽きます。

アベノミクスのの成長戦略の成果は将来に成らなければ得られませんが、日銀の低利の資金は明日にでも投資家達の利益を生み出します。

アメリカの経済統計もそうですが、悪い数字が出ると、金融緩和の延長期待から相場が上昇したりする、全くもって不健康な状況に陥っています。

現在の世界の市場は実体経済に興味を失い、金融緩和の行方にだけ反応しているとも言えます、

日経平均の上昇で国民も政府も喜んでいましたが、実際には株価を人質に取られているのが現在の日本の状況では無いでしょうか。

■ 日銀の当座預金に摘み上がるだけ・・・ ■

尤も、日銀がヘッジファンドに直接資金を提供する事は無いので、円を手にした金融機関が市場で資金を運用したり、海外の金融機関に融資したりしなければ、量的緩和の効果は限定的です。日本の金融機関がヘッジファンドに直接資金を融資するかと言えばをれはあまり無いでしょう。アメリカの旧投資銀行を経由する事は考えられますが。

実際には、現在の日本の金融機関は日銀が供給した資金のほとんどを日銀の当座預金のブガ積にしています。

メガバンク各社は海外での活動を活発化させていると報じられていますが、それ程派手に融資や投資を行っている訳では無い様です。

日本の金融機関は日本と世界経済の先行きに不安を抱いているのでしょう。国内も国外も積極的にリスクを取りには行きません。

これは日本に限った事では無く、ECBは当座預金にマイナス金利を掛ける事を検討していますし、FRBの当座預金にもドルが積み上がっています。

この様に、金融機関がリスクに消極的な事が、金融プチバブルが大バブルに成長する事を抑制しているのでしょう。

アメリカではボルガールールの適用も控えていますし、ある意味において、大規模金融緩和の副作用は巧みに抑えられているのも現実なのでしょう。