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ゾンビ中小企業の私的整理が進むのか

2014-02-13 05:42:00 | 時事/金融危機
 

■ 経営者(個人)保証に関する「ガイドライン(指針)」 ■

日本商工会議所と全国銀行協会が昨年12月に公表した経営者(個人)保証に関する「ガイドライン(指針)」が来月から始まります。

http://www.zenginkyo.or.jp/adr/sme/index/guideline_leaf.pdf


1) 融資に際して条件を満たせば「個人保証」を求めない

2) 「私的整理」に際して営者の手元に自由に使える財産(99万円)を残します

3) 「私的整理」に際して100万~360万円程度の「一定の生活費」を残す

4) 「私的整理」に際して「華美でない自宅」を残す

どうやら、私的整理に伴う個人の「信用喪失」も行われない様です。

■ 日本的な融資の習慣が企業の新陳代謝を妨げ、企業活動を停滞させていた ■

サラリーマンの方にはピンと来ない内要かと思いますが、中小企業や個人事業主にとって、この「ガイドライン」は大変重要な意味を持ちます。

日本の金融機関は貸し倒れのリスクを避ける為に、中小企業や個人事業主に融資する際に「担保」や「個人保証」を求める傾向があります。融資を受ける個人の保証能力が低い場合は「連帯保証人」を立てる様に要求します。

皆さんも住宅ローンを組む時に、購入した住宅が担保となり、さらに連帯保証人か、信用保証組合に加入する事を求められたはずです。

この「個人保証」や「保証人制度」が日本の中小企業経営者達を苦しめて来ました。「倒産して家屋敷まで取られた」なんて話はザラです。さらには、「連帯保証人の判を押したばかりに他人の借金で一家離散」なんてケースも有ったりします。

日本の金融機関は、融資先が破綻しても徹底して「借金を取りたてる」伝統があるのです。

一方、アメリカなど欧米では、個人が住宅ローン破綻しても、家を手放せば個人の借金は無くなりますし、一時的に失われた信用もやがて回復してクレジットカードなどを再び作れる様になります。これを「ノンリコリース」などと呼びますが、企業融資もノンリコが中心なので、経営者は事業の採算が取れなくなれば、破綻してまた一からやり直す事が可能です。

一方、ノンリコリースは金融機関の負うリスクが高まりますから、金融機関の審査能力が問われますし、当然リスクに相当する金利を要求される事にもなります。

又、企業に融資した金融機関は企業の業績向上の為に努力する事になります。この最たる物がベンチャー・キャピタルでしょう。当たれば大きいけれど、ハズレも多いベンチャービジネスに融資して、これらの企業経営をサポートしながら将来の優良企業を育てようという金融です。

この様に、欧米の金融システムは「再チャレンジ」の道を確保する事で「起業」を容易にすると同時に、失敗した時のリスクを企業家が過大に追わない事で、産業の新陳代謝を高め、結果的に経済を活性化しています。

一方、日本の従来の企業金融では、「担保」を持たない企業は融資が受けられず、将来性のある事業の芽が育ちにくいだけで無く、事業に失敗した場合は経営者は家屋敷を手放すばかりでは無く。「自殺」などという極端な選択すらもせざるを得ません。

■ 「ガイドライン」によって「自主整理」が増える? ■

一見、日本の金融機関は「鬼」の様に見えますが、実体は民主党政権時代に亀井静香氏が始めた通称「モラトリアム法」と、その終了後の金融庁の指導によって、中小企業は業績が悪くても借り換えを繰り返しており、金融機関も「貸し剥がし」を金融庁から厳しく監視されています。

その結果、日本には本来倒産しているであろう中小零細企業が沢山存在しています。これらをゾンビ企業などと呼ぶ事もあります。

これらの企業の経営者の中には、事業の将来性に見切りを付けて事業を精算したい人達も少なからず存在しますが、事業を整理すれば会社どころか担保に入っている家まで手放す事になるので、自主整理を選択出来ない人も沢山居ます。

「ガイドライン」が実施された場合、ガイドライン実施以前の融資にこれが適用されるかにもよりますが、「自主整理」という選択のハードルが大きく下がります。

将来性の無い企業の倒産が容易になるのです。

■ 銀行は「貸し渋る」のでは無いか? ■

一見、良い事ずくめに思える日本版「ノンリコリース」ですが、一番の問題は保守的な日本の金融機関がリスクを取って融資を拡大するかどうかです。

今まで、「担保の有る無し」で融資を決めていた様な金融機関は、企業の業績や将来性の審査能力に乏しく、結果的に貸し倒れリスクを避ける為に融資の量を減らす事は容易に想像出来ます。

結果的に経済を活性化させようとして始めた「ノンリコリース」が経済活動を停滞させる原因にもなり兼ねません。

これを防ぐ為には、金融庁が数値目標を銀行に強制するなどして、融資を強引にでも拡大する必要があります。

■ 「新東京銀行」の二の舞にならないか? ■

ここでもう一つ問題になるのが、審査を甘くした事で銀行に「不良債権」が積み上がる心配です。前例としては石原都知事時代の「新東京銀行」があります。

経済が活性化している状況では、融資が回収され利益を生み出す機会が増えますが、経済が停滞する状況では、融資は不良債権化する可能性も少なくありません。

これは「卵が先が、ニワトリが先か」という議論でもありますが、融資が停滞しているから日本の経済が活性化しないのか、日本の経済が活性化しないから融資が拡大しないのか、どちらが正しいのかの議論は平行線を辿ります。

■ 日本の金融のターニングポイント ■

「ガイドライン」の実施の良し悪しは私などには判断出来ませんが、「担保」や「個人保証」という制度で守られていた日本の金融が、欧米と同様に「ノンリコリース」に転換して行く意味は小さくはありません。

はたして、「ガイドライン」は経済再生の一助となるのか、それとも「私的整理」や「貸し渋り」の増加によって、経済のさらなる停滞を招くのか・・・。

世間的にはあまり話題にも上りませんせんが、グローバリズムの波は日本の伝統的な金融システムにも変化を求めている様です。