人力でGO

経済の最新情勢から、世界の裏側、そして大人の為のアニメ紹介まで、体当たりで挑むエンタテーメント・ブログ。

JPモルガン事件は何を意味するのか・・・ジェレミー・ダイモンCEOの辞任

2012-05-18 08:08:00 | 時事/金融危機
 


辞任したJPモルガンのダイモンCEO


■ ロンドンのクジラはどういう取引をしていたのか ■

JPモルガンの損失(巨額とも言えない)事件のあらましが報道され始めています。
日経の記事が分かり易いかもしれません。

http://www.nikkei.com/markets/kaigai/nyexpress.aspx?g=DGXNASGN1500L_15052012000001

1) 銀行全体のリスクをヘッジする部門で損失が発生した。
2) ロンドンのクジラと呼ばれる一人のトレーダーの取引が原因している
3) 損失は20億ドル、最終的には40億ドル以上に達すると見込まれている
4) JPモルガンの2012年の純益目標は240億ドルであった

5) マークイットCDX北米投資適格指数(CDX.NA.IG.9)の取引で損失を出した
6) CDX.NA.IG.9は北米優良120社のCDS指数
7) 業績の向上が予測されればCDX.NA.IG.9は低下し、業績低下予測で下落する

8) ロンドンのクジラは「売り」のポジションを増大させた
9) 「売り」に対する充分なリスクヘッジを取っていなかった
10) この取引の脆さを見抜いたヘッジファンドに逆のポジションを取られた
11) 元々取引が少ない市場で、「売り」のポジジョンが積み上がってしまった

だいたいこんな内容です。

■ 複雑なシンセティックCDS商品 ■

JPモルガンが開発したCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)は、
債権の保険商品ですから、景気が後退して債権にデフォルトリスクが高まれば、
CDSのプレミアムの買い手が増えます。
逆に景気が好転すれば、CDSのプレミアムの買い手は減少します。

「マークイットCDX北米投資適格指数」は北米の優良企業120社の
CDSのポートフォーリオを埋め込んだシンセティックCDS(合成債務担保証券)です。

様は、リーマンショックで大混乱をきたした、住宅担保証券(MBS)のCDSバージョンです。
優良な120社を束にする事で、1社や2社が破綻しても、
商品としては影響を受けない様に見せかけた合成金融商品です。


■ ロンドンのクジラの目的は何か? ■

ロンドンのクジラは、売りのポジションを膨らめました。
彼の目的は何だったのでしょうか?

先物で売りを積み上げていたならば、
彼は相場の下落を予測していたと言えます。

CDSの相場の下落とは即ち景気回復ですから、
昨年末から4月までのアメリカの好景気を鑑みれば彼の予測は間違いではありませんでした。

しかし、相場が思った様に下落しなかった。
そこで、彼は焦って売りポジションを積み上げて相場の下落を誘おうとしたが、
それに気付いた他のトレーダー達が、ここぞとばかりに買いを入れて、
相場下落を阻止した為、ロンドンのクジラはとうとう座礁してしまった・・・。

素人考えですが、ざっとこんな背景が想像出来ます。

■ 単なる個人のミスか、それともJPモルガンの幹部が出し抜かれたのか? ■

ロンドンのクジラが独自の判断でこの取引をしていたのか、
それとも、JPモルガン幹部の合意の下に行われていたのかは気になる所です。

20億ドル、40億ドルという損失額は確かに巨大ですが、
年間利益が240億ドルというアメリカ第一位の巨大銀行が
これによって傾く事はありません。

ただ、ダイモンDEOが引責辞任するという結果にはなりました。

■ シティーバンクの成長に貢献したジェイミー・ダイモン ■

ジェイミー・ダイモンCEOは、JPモルガン生え抜きの社員ではありません。

ダイモンはシティーグループを巨大銀行に成長させたサンディ・ワイルの片腕でした。
中小の金融機関の合併を繰り返して、シティーグループは急成長します。
ところが、ダイモンはワイルに切られる形で、
全米第5位のバンクワンのCEOに収まります。

JPモルガンは1999年に金のデリバティブ取引で失敗し経営危機に直面します。
この時、同様の危機にあったチェースマンハッタン銀行(ロックフェラーの銀行)が、
JPモルガンを救済合併して出来たのが、JPモルガン・チェース銀行です。

さらにJPモルガン・チェースはバンクワンを合併しますが、
この時に合併された側のバンクワンのCEOであったダイモンが
JPモルガン・チェースのCEOに就任します。

異例の大抜擢とも言えますが、
シティーを巨大銀行に育て上げるなど、その経営手腕は定評があったのでしょう。
その証拠に、リーマンショックをバネにする形でJPモルガンは全米No1バンクに躍進します。

■ 先物市場を牛耳るJPモルガン ■

JPモルガンはCDSの開発者としてCDS市場で大きな存在感を示しています。
そして、先物市場でも大きな影響力を行使してきました。

一方、ボルガールールの施行に反発する急先鋒がダイモンCEOでした。

ボルガールールは銀行の自己資本での投資行為を大きく制約する内容が争点になっています。
金融商品のみならず、原油や穀物などの自己勘定取引を大きく規制されるからです。

先物市場で利益を上げるJPモルガンにとっては、
ボルガールールは利益を奪う悪法と言えます。

■ ロックフェラー派の排斥か、ボルガールールの為の生贄か? ■

今回のダイモンCEOの辞任が、ロックフェラー派の排斥にあるのか、
それとも単なるボルガールールの為の生贄であるのか、今後の展開に興味が持たれます。

今回のロンドンのクジラは、ウォールストリート・ジャーナルのスクープでした。
ウォールストリート・ジャーナルはロックフェラー系ですから、
ここら変も、この事件を複雑化する要因になっています。

■ CDSの問題点に注目が集まれば、さらなる危機の着火点になる ■

今回の事件がCDSの有効性に対する問題に発展するのであれば、
新たな金融危機の火種になるかも知れません。

一方、単なるボルガールールへの布石であるならば、
JPモルガンの損失問題は、次第に収束してゆくでしょう。

いずれにしても、気になる事件である事に変わりありません。