人力でGO

経済の最新情勢から、世界の裏側、そして大人の為のアニメ紹介まで、体当たりで挑むエンタテーメント・ブログ。

日常をファンタジー化するアニメ・・世界との関係を再構築する子供達

2011-11-13 04:38:00 | アニメ
 



■ 地方の温泉旅館を舞台にした「花咲くいろは」 ■

先期の人気アニメで「花咲くいろは」という作品を放映していました。

東京の女子高生「緒花」は母親が恋人と借金取りから逃げたので、
仕方なく母の実家に身を寄せます。
母の実家は「湯乃鷺温泉」にある老舗旅館の「喜翆荘」。
母と不仲な祖母が仕切る温泉旅館でした。

自称「空気が読めない」緒花は、
そこで仲居見習いとして住みこみで働きます。
「喜翆荘」は大正時代に立てられた和洋折衷様式の木造旅館ですが、
経営的には行き詰まっていました。

緒花は初めての土地と初めての旅館に仕事に戸惑いながらも、
喜翆荘を愛する従業員達と、日々奮闘します。

■ ドラマ向きのストーリーをアニメでやる意味 ■

「花咲くいろは」は本来はドラマ向きのストーリーです。
「おはな」みたいなタイトルをつければ、
NHKの朝に連続ドラマにぴったりの内容です。

それをあえてオリジナル・アニメでやる意味は何でしょうか?

現在のアニメの主流はファンタジーや学園ドラマです。
一時のSFアクションは下火になり、
「けいおん」の様な、高校生の日常が普通に展開する作品が多くなっています。

これはアニメのドラマ化とも言える現象で、
アニメの表現力が普通の日常を普通に描けるまでに到達したとも言えます。

「さざえさん」や「ちびまる子ちゃん」で昔から見飽きていますが、
あれは日常を客観的に切り取る手法で、
視聴者が誰かの日常を「覗く」視点で描かれています。

ところが最近の若者日常アニメは、あくまでも主観視点で描かれます。
視聴者は登場人物の誰かに感情移入して物語を楽しみます。
そして、それを容易にする為に、背景描写は結構緻密です。

ところが日常を描くドラマとアニメには大きな違いがあります。
ドラマはどんなに派手な演出をしても、
生身の俳優が演じているので、
日常の中にファンタジーを見出す事は出来出来ません。

ところがアニメは日常にキャラクターをはめ込む事で、
日常をファンタジー化してしまいます。

こんな可愛い子がいたらいいな。
こんなシチュエーションがあったら面白いのに。
そういった視聴者達のささやかな願望を
「日常アニメ」はさり気なく具現化して見せます。

ドラマで「友情」を描くと、友人との「葛藤」がテーマになりがちです。
友人とダラダラ過ごす日常を実写映像で見せられたら、
それは単なる、出来の悪いホームビデオとなってしまいます。

ところがアニメは「キャラクターが日常を演じる」ので、
日常の些細な出来事を、少し突飛がキャラクターが演じるだけで、
そこに「ギャップ」が生まれ、何気ない日常が面白く感じられます。
これは「さざえさん」や「ちびまる子ちゃん」が切り開いた世界です。

最近の「日常アニメ」は、云わば日常をファンタジー化した
今時の若者達の願望の現われなのかも知れません。

■ 「大人不在の世界」からの脱却 ■

「けいおん」をはじめ多くの日常アニメには
不思議な事に親や大人は登場しません。
先生は登場しますが、子供の友達的な先生が多い様です。

これは以前にこのブログで取り上げたことがあります。

「大人の不在・・・ネバーランド化する世界」
http://green.ap.teacup.com/pekepon/116.html

子供がアニメを楽しむときに大人の存在は不快なので、
意図的に消去されていたのだと私は考えています。


ところが最近の日常アニメには、ちゃんと大人や親が登場します。
「あの日見た花の名前を・・」のジンタンの父親の様に
多少エキセントリックで子供に都合の良い親ですが、
アニメはもう一度世界をリアルに再構築し始めた様に見えます。

「花咲くいろは」では、大人達は非常に魅力的です。
旅館の女将も、板前も、先輩仲居も、母親も、
みんな精一杯に仕事をして、生活や会社や社会を支えています。
そして、主人公やその友達は、大人達の姿を目標にしています。

「花咲くいろは」が支持される背景には、
「大人になりたくネェー」とか「親ウゼー」という表層とは別に、
大人や社会を意外にも現実的に見始める子供達の存在があるのかも知れません。

景気低迷が長引くなかで、「高校後は大学で4年間遊んで・・」という
従来の様な生ぬるい選択肢が、無くなってきています。
そんな事も、子供達お現実回帰を後押ししているのかも知れません。

■ 聖地巡礼 ■

ドラマや映画などでは、ロケ現場をファンが訪れる
「聖地巡礼」は以前から行われていました。

大林監督の尾道3部作に憧れて、尾道に行かれた方も多いかと思います。

アニメファンの子供達は、「聖地巡礼」も当然行われています。
最近の若者は大林映画では無く「かみちゅ」を見て、尾道に憧れます。

「かみちゅ」・・・日本人で良かった
http://green.ap.teacup.com/pekepon/200.html

地方都市もこの傾向に目を付けたようです。
「花咲くいろは」の聖地は、金沢に実在する湯涌町の温泉街です。

駅の佇まいからして、冒頭に載せたシーンと同じです。



「花咲くいろは」放映中から町を訪れる若者が増え始め、
気を良くした湯涌町は作中のハイライトとなる「ぼんぼり祭り」を
何と「再現」してしまったそうです。

「花いろ」聖地、湯涌に5千人 アニメの「ぼんぼり祭り」再現(北國新聞)
http://www.hokkoku.co.jp/subpage/HT20111010401.htm



こんな所にも「日常をファンタジー化」し始めたアニメの新しいパワーを感じます。