その蜩の塒

徒然なるままに日暮し、されど物欲は捨てられず、そのホコタテと闘う遊行日記。ある意味めんどくさいブログ。

銀漢の賦

2012年04月28日 | 本・雑誌
 葉室麟の架空の藩を舞台にした時代小説“銀漢の賦(ふ)”。銀漢とは「天の川」を指すらしいですが、大河という意味もあるそうです。物語の核は、月ヶ瀬藩の家老松浦将監(しょうげん)、下級武士の日下部(くさかべ)源五、農民の十蔵の三人の友情。漢には男という意味もあるので、それをふまえた上でのタイトルかと。実際には身分が違う交友はあり得ないはずですが、幼少時の鰻の話からの付き合いは自然な流れのような感じがしました。

 「いのちなりけり」でも、主人公の蔵人はあの時代にあってもなお、なかなか死ななかったのですが、この小説においても病を抱えながらも将監は生き永らえましたし、それ以上に源五はしぶとかったです。脱藩劇も見事で、それこそラスト150ページはあっという間でした。圧倒的な不利さが知らず知らずのうちに帳消しにされる小気味よさは、決して読者の期待を裏切りませんでした。そのため読後には清涼感すらありましたもの。

 挿話が挿話を呼ぶ手法は、相変わらず健在です。一例をあげますと、物置で猿轡をされた又五郎が温泉宿の女中によって逃がされ、蕗の背後から襲い掛かるシーンですかね。さりげなく伏線が敷かれてあるのですよね。また夏物成(年貢)の増徴は消費税増税を連想させ、百姓一揆は農政の失態といいつつ、遊び呆けるための金を百姓から搾取しているのは某国を思い描いてしまいました。