アンティークマン

 裸にて生まれてきたに何不足。

テディ・リネールには武士道が足りない

2010年09月14日 | Weblog
 37年ほど前の話ですが、パリのルーブル美術館の前の広場で、黒人ギャング(見かけは街頭写真屋)に追いかけられたことがありました。もう少しで捕まるというところで、車道へ飛び出して難をのがれました。当時のパリは、「車優先」でしたから、車道へ飛び出すなどということは自殺行為。(車優先については、今でも同じだと思いますが)
 どうして、黒人がパリでギャングをしていたか…
 フランスは安価な労働力として、アフリカからの移民を積極的に受け入れていました。しかし、移民たちの暮らしは、苦しく(フランス人労働者の半分以下の賃金)、宗教、生活習慣の違いもありフランス社会と同化するのが難しかった。祖国へ帰ろうにも、お金がない。そんなわけで一部がギャングになっていった。

 この移民…1999年には、430万人以上に達したという。430万人は、総人口の7.4%。フランスへヨーロッパ各地から労働力が入ってくるようになり、移民の失業率が40%に達するところもあった。そして、暴動へ。サルコジ(当時は内務大臣。ド・ビルパン内閣のとき)が、暴動の鎮圧にあたった。サルコジは、暴動に加わった黒人を、「社会のくず」「ゴロツキ」といいました。凄い奴がいるなあと思いました。その強硬姿勢で大統領になったといっても間違っていません。

 フランスの黒人問題でずいぶん引っ張るなあだって?何が言いたいか…実は、「フランスの柔道選手、テディ・リネールがなぜ黒人なんだ?」という質問が多くて…アメリカ人の黒人については、皆さん分かっている。フランス人の黒人ってのが腑に落ちないらしい。一連の移民の話をして(それだけではないのですがね)、さらに、「ロンドンの黒人の多さはパリなんてもんじゃない」という話をして納得していただいております。

 フランスの柔道選手、テディ・リネール…身長204cm、体重129kg。弱冠21歳。
 北京五輪(100kg超級)銅メダル。世界柔道選手権では、(100kg超級・無差別級を合わせて)4年連続金メダル…!井上康生選手を2度破ってる…。
 上背を生かし、右で奥えり、背中を掴む。そこから、射程の長い大外刈り、内またが飛んでくる。
 リネールを倒せる唯一の頼みだった石井慧が、総合格闘技へ行ってしまった。100kg超級・無差別級では、あと少なくても10年はリネールの時代が続く…日本の柔道関係者は皆そう思っていたんじゃないかな。
 そこへ出現したのが、上川大樹(明大3年)。世界選手権男子無差別級初出場。リネールに勝ってしまいました。試合後川上は、ガッツポーズをしませんでした。相手への思い遣りです。敗者の前でのガッツポーズは恥ずべき行為ですから。
 そして、私が唖然とさせられ、「テディ・リネールの時代は終わった」と、感じさせられたことが…。
 国際試合では、勝ちを宣告されたあと、戦った両者が歩み寄り、握手をしたり肩をたたき合ったり…お互いをたたえます。し、し、しかし!リネールは負けて腹が立ったのでしょう。上川と握手するそぶりすら見せずに、とっとと下がっていきました。
 いやしくも柔道を学び、世界柔道選手権で金メダルを4個もとっている選手が、相手を讃えることすらできない。情けない。終わったな、テディ・ベア。テディ・リネールが武士道精神を学び実践できれば、あと10年は世界のトップに君臨できるのに…。