あれは,あれで良いのかなPART2

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政策法務について

2005年06月03日 23時42分25秒 | 地方自治
最近の私の記事の中で「政策法務」の単語を結構当たり前のように使っていました。
ところが,肝心な政策法務についての説明を何もしていませんでした(いつものとおり詰めが甘いなあ・・。)。
そこで,今回は政策法務について説明したいと思います。ただし,これについては,私も現在勉強中なので,説明不十分な点があると思います。その場合,容赦なくつっこみなどをしていただけますと助かります。

1 政策法務とは何か
  実は明確な定義はありません。一方で,千葉県東京都三鷹市などでは政策法務課を置いています。ここでは主に例規審査や訴訟対応などを行っています。
  ところで,政策法務ですが,あえて定義づけるとしたら広義では「適切な法解釈に基づきコンプライアンスを確立すること」をいい,狭義では「法を十分に理解,解釈することにより,自らの施策に基づく独自の条例案や規則案を作成することができること。」となるでしょうか。
  つまり,地方自治体自らの責任と能力で法解釈を行い,適切な措置が執れるかどうか,というのが政策法務であるといえます。
  なお,以下の政策法務は,特に断りのない限り,狭義の意味のものと理解してください。

2 法制執務との違い
  政策法務と似た言葉に「法制執務」というものがあります。この辺は,実例で説明します。
  例えば,ある町で「国の法律では母子手当はあるが父子手当がない。だから,父子手当を町で独自に行おう。」という施策を打ち出したと仮定します。
  この場合,金の支出が伴うことなどから,法律の存在が前提となり,条例も法律の一種と考えれば,条例の制定が必要となります。
 (1) かつての地方自治体の場合
   かつては,条例案を作るためには,国からの通知や通達に付いてくる準則や要綱がなければ条例を作ることができませんでした。したがって,このような施策を考えても条例化することができず,結果この施策は企画倒れになってしまうということになります。この段階では「法を知らない」という状態と同じことになります。
 (2) 法制執務を取り入れた地方自治体の場合(少し進んだ地方自治体)
   地方自治体職員も勉強して条例の起案ができるようになりました。「法制執務」の発想です。これは,条例案の形式的なチェックや法律との齟齬などの形式的なチェックを行うというものです。
  この例では,条例案を起案する際のてにをはは大丈夫か,文言の平仄が取れているかなど形式的なチェックを行うと共に,国の法律で父子手当を禁止していないかどうかを確認して,大丈夫であればそれを条例化するという作業を行います。
  しかし,法制執務はあくまでも法規(条例)の形式面しかチェックしません。「法を知っているが,法に使われている」という状態になります。
 (3) 政策法務の視点から(先進的な地方自治体)
   政策法務の視点を取り入れた場合は,条例案の実質的な内容や,法律の解釈まで踏み込んで条例案の起案を行います。
  この例では,法制執務的なチェックはもちろんのこと,例えばそもそも父子家庭にも補助金を交付することは法律で禁止しているのかそれとも放置しているに過ぎないのかとか,交付金額を母子家庭と父子家庭とで差を設けることは妥当か,憲法14条に抵触しないか,判例はなんと言っているか,法律上の解釈はどうか,学説はどうなっているか等について多角的に吟味して,一つの結論を出します。そして,条例案を起案します。
  つまり,政策法務では,法規(条例案)の実質的なチェックを行うことになります。「法を知っており,かつ法を使う」という状態になるわけです。

  以上まとめると,法制執務とは形式面の充実を図ることにあるのに対し,政策法務とは実質面の充実を図り,「法を自由に使いこなす」能力を求められると言うことになります。

3 政策法務と地方分権の関係
  では,なぜ地方自治体に政策法務の思想が求められるのでしょうか。
  端的に言えば,「各地方自治体独自の施策に的確に対応する条例や規則を策定することが必要となること。」にあります。
  前述のとおり,これまでは国が示した通知をそのまま条例にすればよかったわけですが,各地方自治体独自の施策を行う場合,当然国から準則などは来ないわけですから,独自で条例を策定する必要があります。
  一方で,いい加減な条例を作った場合,場合によっては「根拠なき行政行為」にもなりかねず,住民訴訟などにより敗訴する可能性もあります。
  したがって,地方独自の施策を推進するためには,ちゃんとした条例を作れる職員の存在が求められるわけです。すなわち,政策法務を確立し,組織として人が異動しても常に一定のクオリティを保てるようにしなければならないわけです。
  まして,地方分権が推進されれば,ますます地方自治体独自の施策が増えてきます。そうすると,より一層そのような能力が求められることになります。
  また,広義の政策法務では,訴訟対応や職員のコンプライアンスが求められることになります。情報公開が進む今日においては,住民から様々な依頼や指摘がされることが想定されます。それに対して場当たり的に対応するのではなく,きちんとした対応をしなければ,地域住民からの信頼は得られません。更に言うと,そもそもそのようなつっこみがないように事前に予防するという作業(遵法行為になりますが)をしておくことが,極めて重要になります。
  
  まとめますと,地方分権が進むと独自施策が増える,独自施策が増えれば独自の条例も増える,よって的確な条例を策定するために政策法務という考え方が重要であるという点と,職員に対する遵法精神を高めることによりさまざまなトラブルを未然に防ぎ,より円滑に施策の推進が可能となるという点があるといえるでしょう。

以上長くなりましたが,政策法務を本当に一言で言えば「地方自治体の自主立法権の確立」にあるといえます。国と対等につきあうためには,この考え方を積極的に取り入れるべきではないでしょうか。

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