あれは,あれで良いのかなPART2

世の中の様々なニュースをばっさり斬ってみます。
ブログ界の「おか上彰」を目指し、サボりながらも頑張ります!

よく分かる(?)シリーズ,政治家と年末年始その2

2014年12月21日 22時44分35秒 | よく分かる(?)シリーズ
前回に引き続き,政治家の年末年始についてまとめてみます。

4 年始回り
(1) 有権者への戸別訪問

  一軒ずつ回り,投票の依頼を行うことは,選挙期間中でなくとも公職選挙法138条に抵触しますので,アウトです。
  ならば,投票の依頼ではなく,単に「今年一年お世話になりました。」だけで訪問して回るのはどうなのか,っていうのが問題となりますが,客観的に投票依頼行為とみられるような活動であると,たとえ主観的にそのような意図がなかったとしてもダメです。
  例えば,言葉では一切投票依頼をしなかったとしても,選挙ポスターやチラシを配布しながら「選挙近いですねえ。」的なことを言ってみたりすると,それは暗に投票依頼をしていると第三者的に見られても仕方がないので,アウトっていうことになります。また,選挙が来年ある場合に「来年もよろしく」とあいさつするのも,客観的には投票依頼とみられるおそれもありますので,アウトに近いグレーになるでしょう。

(2) 後援会所属者への個別訪問
  後援会の会員宅へのあいさつ回りは,「戸別」ではなく「個別」訪問なので,公職選挙法には抵触せず,一応セーフとなります。「戸別」と「個別」の違いは,ざっくりいうと「2軒以上連続して訪問する。」ものが戸別訪問となります。もちろん,じゃあ,1軒おきに訪問すればセーフなんだ。」っていうのは小学生の理論であり,いうまでもなく戸別訪問になります。一方の「個別」は,特定の家の訪問ということになります。
もちろん,「ならば個別訪問なら何をやっても許される」訳ではなく,ここで投票依頼の話を持ち出すと,事前運動ととらえるためアウトになります。
したがって,個別訪問であっても,そこでできる会話はせいぜい時節のあいさつと世間話程度となります。前述のとおり,「来年もよろしく」は,時期によってはアウトになるかもしれません。

5 政治家宅への訪問客
  政治家宅に年始訪問する方も多いかもしれませんが,親族以外の客(有権者)に対し,飲食や酒類を提供すると,これも公職選挙法の利益供与に該当するため,アウトです。
  親族以外の客人には,おせちを目の前に水を飲ませろ,っていうことになります。
  あれ,あの政治家がよく自宅で新年会やっているってニュース映像が流れるぞ,って思われる方もいるかもしれませんが,あれは前述の「会費制新年会」なので問題ないのです。

6 お歳暮や年始の贈答
  政治家が親族以外の人(有権者)に対してお歳暮や年始の贈答をすることは,これも公職選挙法の利益供与になりますので,アウトです。政治家はからっ手ぶらで訪問するしかありません。
また,逆に有権者の方から「お前,手ぶらで来たのか。こういう時は普通何か持ってくるものだろう。」などと言ってお歳暮などを要求することも禁止されております。有権者が求めても,ダメよ~ダメダメ!

7 お年玉
  政治家の家族や親族などにお年玉を渡すのはセーフです。
一方,それ以外の客人(有権者の子供など)に対してお年玉を渡すのは,一見すると子供(未成年者)自身は有権者ではないのでセーフとも思えますが,結局その背後に有権者たる親がおり,特にお年玉となると実質的には親のものになることも多い(我が家だけか?)ことからすると,これは有権者への利益供与と判断される恐れも高いため,基本的にはアウトとなるでしょう。
また,仮にグレーであったとしても,常識的にあり得ない金額(例えば,小学生の10万円など)のお年玉を渡せば,それはさすがに利益供与と判断されるので,どのみちアウトとなります。
  政治家は,正月は子供から白い目で見られるのが健全な姿なのです

8 当選御礼や祝賀会等

  衆院選が終わりましたが,当選の御礼を言うことや戸別訪問しての御礼,当選祝賀会の開催等は公職選挙法178条すべて禁止されておりますので,形式の如何を問わずアウトとなります。もちろん,落選しても同じです。
  ただし,インターネット上で御礼を言うことは,いわゆるネット選挙解禁により,現在はセーフとなっております(公職選挙法178条2号で除外)。
  なので,政治家はネット上で丁重に御礼やお詫びのあいさつをしておきながら,一方で直接の対人の席では一切御礼等を言わないという,一見すると義理を欠く態度こそ,公職選挙法が求める姿ということになるのです。

9 初詣
(1) 私人名義による場合

  憲法20条で信教の自由もありますので,これはお好きにやってください。

(2) 公人名義かつ公費(税金)を使用する
  これは,訴訟にもなっているように,憲法20条3項の政教分離に反するため,アウトとなる可能性が極めて高いです。実際,違憲判決も出ています。
  ただし,参加の目的が参拝ではなく,その場所で開催している除夜の鐘やカウントダウンなど,宗教色が限りなく薄れているようなイベントに公人として公費を使って参加するのであれば,おそらくセーフになるでしょう。
  ちなみに,この切り分けは結構微妙ですが,最高裁の判例では,宗教行為と言えるか否かは,行為の目的が宗教的意義を持ち,その効果が当該宗教の助長,援助,促進,圧迫,干渉等になるかどうかという視点で判断するとしています(目的効果論。津市地鎮祭事件。)。
  したがって,例えば,神社ではない普通の広場で,地元のおじさんが適当にヌシカンさんのスタイルをして,実は普通に酒飲んでいるだけみたいなイベントに政治家が公人として参加するのであれば,そこに宗教的意義もないし,それによって神社を助長などする効果なども全く見られないため,セーフということになると思われます。

(3) 公人名義だが私費を使用する
  これは今でも見解が分かれており,グレーと言わざるを得ません。
ただし,前述のとおり,参拝に宗教的意義がなく,かつその効果が宗教の助長等ではないことが明確ならばセーフになるでしょう。
  見解の相違はありますが,例えば神社に初詣に行って,お賽銭を投げるくらいであれば,今の日本ではこれは宗教ではなく文化だ,ととらえる人も多いと思いますので,私費であるならセーフになるかもしれません。
いずれにせよ,ここは非常に微妙ですし,一方で公職選挙法とは全く別次元の話です。

(4) 新春祭りの寄付
  政治家がお祭りに寄附をすることは,公職選挙法の寄附(199条の2)に該当するため,アウトです。これも,有権者から求めてもダメよ~ダメダメ!
  政治家は,新春祭りにもからっ手ぶらでいかなければならないのです。

以上2回に渡って,年末年始における政治家のやっていいこと,悪いことについて説明しました。
活字にすると,非常に通常社会とかけ離れているというか,不義理というか,なんか実情にマッチしていないと感じる部分も多いかと思いますが,この制度趣旨の根底にあるのは,「お金のかからない,きれいで公平公正な選挙の実現」にあります。かつての選挙では,いろんな手段による買収が横行し,そのたびに逃げ道が用意されていたことから,徐々に逃げ道をなくすようにしてきており,それが現在の公職選挙法の規定につながっています。
もちろん,今でもまだまだ逃げ道はありますし,逆にその目的だとしても現実とアンマッチという部分もありますから,今後もっともっと見直す必要があるのは事実です。
とはいえ,少なくとも,同じ土俵で競争するのが公正な選挙でもありますから,政治家はこれをきちんと守ることが最低条件になります。それとともに,有権者もこうしたルールをきっちり理解し,今後政治家を選挙で判断する際の一助にしてもらえればと思います。
一方,政治家の皆様も,抜け道を探そうという姑息なことを考えず,法に従って公明正大に活動をしてもらえればと思います。
そんなわけで,少し早いですが,よいお年を。


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よく分かる(?)シリーズ,政治家と年末年始その1

2014年12月20日 00時56分23秒 | よく分かる(?)シリーズ
 衆院選も終わり,選挙モードもひと段落ついたものの,来年度は多くの地方自治体で統一地方選があるということから,引き続き多くの議員や候補予定者等政治家の動きも慌ただしくなっています。当然ながら,年末年始こそ有権者への売り込みを行う重要な時期ということから,様々な活動が予想されるところです。
 一方で,公職選挙法では,さまざまな活動を規制しているため,中には故意または重過失で公職選挙法に抵触するような活動をしてしまう政治家もいるかもしれませんし,逆に有権者側が公職選挙法違反行為に加担してしまっている可能性もあり得ます。
 そこで,今回は2回にわたり,主に公職選挙法(一部違うものも含みますが。)を中心に,政治家の方はもちろん,有権者としても注意しておくべき点について簡単にまとめてみましたので,参考にしてください。
 なお,一部私見も含まれていますので,あれ,これは実際どうなんだろうなあって思った場合は,必ず選挙管理委員会へご確認ください。

1 忘年会,新年会(有権者が参加するものを前提とする。以下,基本的に同じ。)
(1) 主催者となる
  単純に政治家が個人的な友人知人数名と割り勘でパーッとやる程度なら問題はありません。
  ただし,結構な人数を呼んで盛大に行うことになると,政治資金パーティーに該当する可能性もあります(政治資金規正法8条の2)。この場合,個人開催ではなく,政治団体開催でなければならず,かつ収支の報告が義務付けられることになります。ただし,政治資金パーティーになるか否かは,収益の発生(つまり主催者が儲かる前提がある)の有無で判断されるため,人数が多くても,完全割り勘忘年会であれば,政治資金パーティーにはなりません。
  一方で,逆に収益が発生しないが,政治家の持ち出し分が必要以上に多い場合,例えば「高級フランス料理の忘年会の会費1000円」などのように会費と料理のミスマッチがあると,公職選挙法における利益供与(221条)に該当するため,買収行為としてアウトになります。
(2) 幹事になる
  基本的には,(1)同様,いわゆる仲間内の宴会幹事をやるという限りでは,特に問題ありません。
  ただし,実は自分が主催者であり,かつ政治資金集めという目的で行う場合は,(1)の政治資金パーティーに該当する可能性があります。その場合は,政治資金パーティーの隠れ蓑としている可能性が出てきますので,そうなった場合には,政治資金規正法に違反するおそれがあります。
  もちろん,幹事がかなり自腹を切るという宴会プランだった場合にも,(1)のとおり利益供与になるので,これもアウトっていうことになります。
(3) 会費のみ参加(会費払ったが欠席を含む)
  政治家が宴会に参加しないで会費だけ支払うことは,公職選挙法における寄附行為(199条の2)に該当してしまうため,アウトになります。
  なお,有権者から「会費だけちょうだい」などと求めると,有権者も処罰対象になるため,ダメよ~ダメダメ!
(4) 会費払って参加
  会費が決まっている宴会については,その会費相当分を支払って参加するのであれば,特に問題はありません。
ただし,あからさまに顔だけ出してすぐに帰ってしまうような場合(例えば,来てビール一口だけ飲んで,2,3分で帰ってしまう。)は,(3)と同じ寄附行為とみなされてしまい,アウトになる可能性もあります。
(5) 招待等無料の宴会に参加
  無料の宴会に出席し,そのまま飲み食いするのであれば,基本的には問題ありません。ただし,招待目的が特定職務の便宜を図るためである場合は,刑法の贈収賄罪(197~198条)に該当してしまう可能性があるため(金額は問いませんので,極端,焼き鳥1本でも該当してしまいます。),グレーというかアウトです。
  また,無料に気が引けるということで実費相当分を政治家が支払う場合,実はこれも会費が決まっていないところに支出をすることから寄附行為に該当し,公職選挙法違反となってしまいます。
  つまり,無料飲み会の場合,能天気に何も考えずに飲み食いしてそのまま帰るという一見すると無礼な参加スタイルが,実は理想的な参加スタイルといえます。

2 年賀状
(1) 自分の名前で年賀状を出す

  選挙区内の人に対しては,自筆の年賀状以外による挨拶状を送ることは,公職選挙法147条の2に違反するため,アウトです。
  ちなみに,自筆という部分を勝手に解釈して,署名だけ自筆とか,宛名だけ自筆,さらには代書屋さんによる自筆(他人による作成)などを行っているものも見受けられますが,すべてアウトです。純粋に,自分が心を込めて書もののみが許されます。
  なお,選挙区内の友人に,印刷した年賀状(家族写真のものなど)をついつい発送してしまうという事例もありますが,前述のとおり,これは認められませんので,十分ご注意ください。
(2) 政治団体名で年賀状を出す
  これ,実はセーフです。まあ,いわゆる法の抜け道です。
(3) 年賀状のハガキを使って政治報告を行う
  公職選挙法では,「あいさつ状」を出してはならないとしていることから,お年玉付き年賀はがきを使って,一切あいさつを書かずに「議会報告」等と称したものを印刷して発送する場合,一応セーフにも見えます。
しかし,条文上「年賀状」が明記されていること,社会通念上,1月1日にお年玉付き年賀はがきで届くものは「あいさつ状」と認識されることを踏まえると,これはアウトと評価される可能性も高いです。まあ,そもそも姑息なやり方かなあ,っていうのが個人的な感想です。
  なお,お年玉付き年賀はがきの場合,お年玉部分が当選すると,利益供与に該当してしまう可能性もあり,買収行為とみなされてしまうおそれもありますので,内容いかんを問わず,お年玉付き年賀はがきを使って有権者に発送することは,望ましいとはいえません。

3 インターネットによる新年のあいさつ
(1) HP,ブログ,SNS等に書き込む

  これ,選挙管理委員会によっては若干見解が違うところがありますが,一般的にはHP等に新年のあいさつを掲載するのはセーフとしているところの方が多いようです。公職選挙法が規制しているあいさつ状は,有料で送付するもの,っていう解釈をしているようです。
  とはいえ,不特定多数の人が閲覧できるHPやブログの場合,有権者に対するあいさつ状と解釈されてしまう場合もあり得るため,ややグレーな部分もあると思われます。
(2) you tubeなど動画サイトにあいさつを掲載する
  これは完全に公職選挙法が想定していませんから,一応セーフです。
  ただし,あいさつの内容によっては,選挙の事前運動に該当してしまうおそれもありますので,その場合はアウトになります。
(3) 電子メール,LINEによるあいさつ
  基本的には,特に規制はありませんのでセーフといえます。
  ただし,後援会所属の人だけではなく,適当なアドレスをランダムに作成するなど不特定多数に対し無差別に送信する場合は,スパムメールとみなされ,特定電子メールの送信の適正化等に関する法律違反となるおそれがあります。

長くなりましたので,今回はここまで。

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よく分かる(?)シリーズ バブル景気とは

2014年01月26日 23時26分28秒 | よく分かる(?)シリーズ
ものすごく久しぶりのよく分かる(?)シリーズです。
アベノミクス効果により,景気が戻ってきていると報じられております。一方で,アベノミクスはバブル再来であり,リスクが多いなどとも言われています。
アベノミクスがどうなのかということを論じるといろいろ話が長くなりますのでひとまず置いておくとして,そもそも「バブル景気ってなんだ」っていうことを分からない世代も増えてきました。また,バブル世代の人たちも「なんで自分たちはバブルだったんだろう?」っていうことを分からぬままに過ごしてきた方も多いのではないでしょうか。
そこで,今回は,バブル景気についてものすごくデフォルメして簡単に説明したいと思います。もちろん,本気でバブルの解説をすると,それだけで本一冊書けるくらいの内容になりますし,バブル景気の要素は多角的であり一面的な説明は難しいため,あくまでもイメージをつかむという程度の話だ,っていうことでご理解いただければと思います。

景気の変動については,帽子屋を例にするものがありますので,ここでは帽子屋を例に説明していきたいと思います。

1 昭和の景気変動(バブル以前の話)
  まず,伝統的な景気変動についての説明です。
(1) 好景気への道
  資本主義になり,お金のあるなしがすべてという社会に変わりつつある時代の話です。
  お金を稼ごうと考えた上島は,1年を通じて寒暖を防ぎ,またおしゃれにもお笑い芸でも使える帽子がこれから売れると考え,「上島帽子店」をオープンしました。
  予想どおり,帽子は飛ぶように売れたため,上島はもっとたくさん売ってもっと儲けようと考え,工場を拡大し,労働者をたくさん雇いました。
  すると,さらに帽子が売れまくったため,労働者への給料をどんどん上げるとともに,さらに工場を拡大し,さらに労働者をたくさん雇いました。また,みんな買ってくれるので,帽子の値段もどんどん上げていきました。
  上島帽子店で働く労働者は,給料が高くなって生活にゆとりができたため,いろいろなものを買うようになりました。結果,帽子店以外のお店もどんどん儲かり,どんどん人を雇って,どんどん給料が上がりました。
  そうすると,みんながお金持ちになるため,世の中のお金が足らなくなってきました。そこで,銀行はお金を大量に発行してさらにお金をばらまきました。
  そうなると,みんながお金持ちです。お金持ちだと,物がどんどん売れるため,物の値段を高くしても買ってくれます。物価はどんどん上昇し,それで儲かるから,さらに給料があがり,さらに物価が上がる,という上昇傾向が続きました。
  これが好景気です。
  つまり,好景気の傾向として,需要拡大,雇用増加,給料増加,物価上昇,貨幣量(マネーサプライ)増加,金利上昇という感じになります。

(2) 不景気への道
  みんなが金持ちになると,上島帽子店以外にも「そうか,帽子って儲かるんだなあ」っていうことで,帽子店がたくさんできてきました。肥後帽子店,寺門帽子店,有吉帽子店,土田帽子店などができてきました。
  ライバル店が増えてくることで,帽子の値段を上げ続けていくと,買ってくれる人が減ってきてしまい,上島帽子店は売り上げが減ってきました。そこで,上島帽子店は帽子の値段を値下げすることで,ライバル店との競争を始めました。そうすると,ライバル店も帽子の値段を下げてきたため,帽子代はみるみる下がっていきました。
  また,みんな帽子をたくさん買ったので,「もう,帽子いらねーや」っていうことになり,そもそも帽子を買おうという人自体減少してしまいました。結果,たくさんあった帽子屋は相次いで倒産し始めました。
  上島帽子店は,倒産を避けるため,工場をどんどん閉鎖し,労働者を解雇し,さらに働いている人の給料を下げていくことで,なんとか会社を維持しようとしていきました。
  労働者は,失業し,または給料が下がったため,生活必需品すら満足に買えなくなりました。そうすると,物が全く売れなくなり,帽子店以外もどんどん倒産していくことになりました。各お店とも,なんとか買ってもらおうということで,物の値段をどんどん下げたため,物価は下がりました。しかし,そうすると,売り上げも減少するため,給料がますます減少し,ますます物を買わなくなってしまいました。
そして,お金持ちがいなくなり,お金が余ってしまったことから,銀行はお金を引き取らざるを得なくなりました。
  これが不景気です。
  傾向として,需要減少,雇用減少,給料減少,物価下降,マネーサプライ減少,金利下降という感じになります。

(3) 景気回復

  しかし,しばらくすると,帽子が古くなってきたため,みんな「そろそろ帽子買うか」と思うようになりました。そこで,徐々に帽子を買う人が増えてきました。
  そうすると,上島帽子店は売り上げが徐々に戻ってきて,以下(1)の流れになってきます。
  これが景気回復です。以後,この波を繰り返すことになります。

以上が伝統的な景気の波になります。大きな傾向として,「需要のあるなしが景気に反映する」ということになります。

2 バブル景気とは
  バブル景気も基本的には,この流れと同じです。でも,大きな違いは,「需要があったというよりも,需要の先行き間だけが走っていた」ということです。つまり,「将来の期待感」だけが大きく膨らんでしまったというところがこれまでの景気の波との違いです。
  具体的にはこんな感じです。
(1) バブル景気はじまり
  上島帽子店は帽子が売れることで景気良くなりました。ここまではこれまで通りです。
  そこで,上島はこう考えました。「うちの帽子は今1つ1000円で売っている。これ,10年後には1万円で売れるんじゃねーか。」と。
  そこで,上島は肥後にこうけしかけました。「俺の帽子は将来1万円で売れる。だから,今3千円で買わないか。」と。肥後は,10年後に2万円になると踏んでいたため,その話に乗り,帽子を3千円で買いました。そして,すぐに同じく寺門に「帽子6千円で買わないか」とけしかけ,寺門もその話に乗りました。そうこうしているうちに,1000円の帽子は,あっという間に3万円で売り買いされるようになりました。
  この帽子は,使うためではなく,「将来高くなるだろう」という儲けの道具として使われたにすぎません。実際のところ,帽子の需要はそんなに増えておらず,その時の時価としては,2千円くらいのものでした。
  とはいえ,帽子が高値で売れるということから,有吉帽子店や土田帽子店も同様のことを始めたため,結果的に帽子代は高騰し,労働者の給料はもちろん高くなりました。
  しかし,あまりに帽子が高すぎたため,労働者の給料ではとても帽子が買えるほどではありませんでした。そこで,お金を持っている労働者は高すぎる帽子の代わりに,ネクタイやワイシャツ,スーツなどを買うようになりました。これらも将来高くなるかもという思惑があったことから,通常の数倍の価格で取引され,中には実際に着る目的ではなく転売目的で売り買いする労働者も増えてきました。
  こうなると,需要なんてどうでもよく,売り買いすることだけが目的になってしまいました。当然ながら,世の中のお金がないため,銀行はじゃんじゃん貨幣を発行し,じゃんじゃんばらまきました。こんな状況なので,物価は上がる一方。もはや世の中,「お金がお金を生む」と信じて疑わない状況となりました。中には,帽子店での労働を辞め,ひたすら帽子の売り買いに没頭する人なども現れたくらいです。のみならず,手元にお金がなくても,銀行から借りればあっという間に借りたお金も返せるということで,借金しながらどんどん帽子を売り買いするという人たちが横行し始めました。銀行も,帽子を担保にすれば,貸した金は回収できるだろうとたかをくくっていましたので,じゃんじゃん貸しました。
  これがバブルです。要素は需要以上に物価が上がったということで,お金がお金を生む構造といえます

(2) バブル崩壊
  しかし,世の中「これじゃちょっとやばいね」っていう動きになりました。一番の要素は「帽子って,本来かぶるためだよね。なのに,帽子をかぶりたい人が買えないのはおかしいよ。」っていうことで,帽子の値段上昇を抑制しようということになりました。
  そこで,政府は銀行に対して「お金ばらまくの少し控えてね」という規制(総量規制)を出しました。
  すると,まず困った人は,「借金して帽子を買っている人」でした。銀行がお金貸さなくなったからです。借金してどんどん帽子を買って利ざやを稼いでいたのに,それができなくなってしまったのです。そうすると,自分はこれ以上稼げないということで,借金の返済を始めざるを得なくなりました。つまり,帽子を買う人が減ったのです。
  次に困ったのは,利ざや稼ぎの人です。4万円で買った帽子を5万円で売ろうと思っていたところ,買う人がいなくなり,5万円どころか,4万円でも買ってくれなくなったのです。
  そこで,仕方がないので,4万円の帽子を3万円で売らざるを得なくなりました。1万円損したのです。この損を穴埋めするために,他の帽子を売るなどしまいたが,とにかく帽子を買ってくれる人がどんどん減り始めたので,帽子の値段もどんどん下がっていきました。結果,損がどんどん大きくなってしまい,破産してしまいました。
  破産者が増え始めたことで,帽子の値段が一気に暴落しました。破産者が帽子を市場に一気にばらまいたからです。しかも買う人がいない帽子。そうなると,みるみる帽子の値段が減少し,ついには,原価の1000円にまで戻ってしまいました。
  そうすると,たまらないのは,帽子を大量に持っていた人です。4万円で100個買った人,つまり400万円払った人は,今や1000円の帽子が100個,つまり10万円になってしまったわけですから,390万円損したのです。
  こうして,どんどん破産してしまいました。これがバブル崩壊です。
  町中失業者があふれかえり,帽子どころからだれも物を買えなくなりました。物価はどんどん下がり,物が売れないため,帽子店以外もどんどん倒産し,ますます失業者があふれかえりました。
  銀行も困っています。担保として取っておいた帽子が1000円にしかならないため,貸したお金の回収が不可能となりました。結果,銀行も経営破たんし,倒産に追い込まれました。
  こうなると,市中にお金をばらまいても,誰も手にすることができません。結果,お金は市中から消えてなくなりました。
  では,誰が儲けたのでしょうか。実は,だれも儲かっていないのです。上島も最初に儲けたお金でさらに帽子を売り続けたため,儲かったように見えますが,それが一気に下落したため,結局は投資した工場や労働者給料に全部消えてしまったのです。
  このように,結局「金が金を生む」という構造だったことから,不景気になった瞬間,そのお金がすべて泡のように消えてしまったため,「バブル」と後に呼ばれるようになったのです

3 まとめ
  バブル景気とは,これまでのように「物の需要が増えたから景気が良くなる」というものではなく,「きっと需要が増えるだろう」という「思惑自体が取引材料」となり,「その思惑への需要が増えた」だけにすぎないというもので,経済的裏付けが乏しいものだったといえます。
  そして,経済的裏付けが乏しいままに思惑だけが急成長したため,それが破たんした時は,実経済に即したところにまで縮んでしまったことで,予想以上の損失が発生したといえます。これがバブル崩壊なのです。

以上が,バブル景気の超ざっくり版でした。冒頭にも書きました通り,実際のバブルはこんな単純ではなく,もっといろんな要素が複雑に絡み合っており,誰が犯人だったのかは学者の間でも未だに特定されていないくらいです。とはいえ,一つの考え方として参考になればと思いますし,またこれを踏まえて,アベノミクスが本当にバブルなのかどうか,っていう点を考える一つの材料としてもらえるとよろしいかと思います。

資本主義とはおそろしいものです。

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よく分かる(?)シリーズ,ネット選挙について

2013年06月17日 02時20分04秒 | よく分かる(?)シリーズ
すごーく久々の記事になります。
いよいよ次の参院選からネット選挙が解禁されます。もちろん,ネット選挙といっても,ネットで投票できるというものではなく,ネットを用いた選挙運動ができるというものです。今までできなかったのが不思議なくらいです。
とはいうものの,候補者はもちろん,有権者としても,具体的に何がどう改正されたのか,また特に有権者側は何ができて何がダメなのかなどという点については,情報が十分伝わっていない部分も多々あります。
そこで,今回は,総務省見解をベースにしながら,ネット選挙の基本及びやっていいこと悪いことなどを簡単にまとめたいと思います。
もちろん,冒頭にも書きましたとおり,適用されるのは参院選からですから,現在公示中の都議会議員選挙や各地方自治体における選挙ではまだネットを用いることはできませんので,十分ご注意ください。

1 そもそもネット選挙とは
  これまでは,公職選挙法で定められた「図画」しか配布できないとされていたことから,ネット上の各種書き込み(ホームページ,ブログ,FB等)はすべて法に規定のない「図画」として扱われてしまったため,選挙期間中にネットの表示や更新等は一切許されておりませんでした。
  しかし,これは時代錯誤も甚だしいということから,インターネットを利用した選挙運動を許容することにしました。
  具体的には,ホームページによる表示,SNSの活用(双方向通信を含む),電子メールの利用(ただしこれは候補者に限る)を原則選挙期間中も自由にできるとしたものです。

2 具体的にやれることは(候補者編)
  この辺りは,細かいことを書くと分かりにくくなるので,簡単に整理する程度にとどめます。
  候補者および政党は,ざっくり次のことができます。
(1) HPにおける政策の説明等を表示する
(2) ツイッターやフェイスブック等のSNSに政策等を表示する(ツイッターのリツイートやフェイスブックのイイね!やシェアもOK)。
(3) 電子メールにより投票依頼をする
(4) 有権者との双方向のやり取りや議論を行うことができる


3 具体的にやれること(有権者編)
  2で記載したもののうち,(3)の電子メールによる投票依頼以外です。
  したがって,たとえば有権者が,ツイッターで「私は,ありが党の大江千里候補を応援します。みんな,投票してね。」と書き込むことはOKですが,電子メールで友人に「今度の選挙,ありが党の水前寺清子候補に投票してね。」などということはできません。また,メールを転送することもできませんので,前述の例では,仮にありが党本部が有権者に送ってきたメールを,さわやかに転送することはできません。
  なぜ禁止されたかというと,いわゆるなりすましメールを抑制するためとのことです(個人的にはここを禁止している点は非常に疑問を感じているところです。)
  ただし,ツイッターのDMやフェイスブックのメッセージなど,SNSサイトに搭載されているメールっぽい機能を用いて投票依頼を行うことは,一応グレーに近いですがOKとされています。これは,電子メールではなく,SNSの機能を用いているからとのことです(しかし,この点も,個人的には電子メールとの違いを十分に説明していないため,納得しがたい部分ではあります。)。

4 ネット選挙で禁止されていること
  基本的には,「通常の選挙運動で禁止していることはすべてだめ」ということになります。ネット特有というわけではありません。
  とはいえ,この部分が非常に分かりにくかったり誤解を招く部分なので,簡単にまとめてみます。
(1) 未成年者がネットで特定政党や候補者を応援することはできない(つまり,未成年者はネット選挙不可)
  これは,現行法で,未成年者の選挙運動が禁止されているからです。
  したがって,未成年者がツイッターで「今度の選挙,絶対おめで党の染太郎候補に当選してもらいたいから,有権者の人は投票よろしく!」などと書くことはできません。
  ただし,未成年者の有権者が,候補者のSNSやHP等に質問をすること自体は禁止されておりません。これは選挙運動ではないからです。あとは,票にならない未成年者に対し,候補者がどのような態度をとるかは,その候補者の考え方如何でしょう。
(2) 公務員のネット選挙も制限される
  これも,現行法で公務員の選挙運動が禁止または制限されているからです。
(3) 落選運動(ネガティブキャンペーン)は,「別の候補者の当選活動の一貫として行う」場合ならOKだが,単なる落選目的だけであれば許されない。
  これも,現行法で規定されているからです。
  したがって,例えば「なっ党の水戸泉候補は,言うほど粘りがないから政治家にむいていない。」だけを記載するのは禁止だが,「だけど,怒り新党のマツコ候補は,粘り強いから,政治家に向いていると思う。」みたいに加えれば,これはマツコ候補の当選活動となるためOKとなります。
(4) なりすましはもちろん禁止
  これはネットならではの規定です。候補者になりすましてネット上の書き込みを行った場合,たとえポジティブな内容の記載であったとしても,刑事罰の対象となります。
(5) ネットの記事を紙で印刷して配布してはならない
  今回の法改正では「ネット上の表記を法定の図画とする」こととしたため,それを紙にして印刷して配ることは,逆に法律上規定された図画とみなされなくなります。
  したがって,候補者がネット上の表記を印刷して配布するのはもちろんですが,有権者も印刷してほかの人に配ることは禁止されております。
  ネット上のことはすべてネット上で解決しましょう。
(6) いわゆる丸投げ掲載は買収行為とみなされる
  これは有権者には関係ありませんが,候補者がネットを使うことで業者を使用することもあるでしょうが,発信内容の起案も含めてすべてを丸投げにして発注した場合,この行為は「買収」とみなされるため,許されません。
  あくまでも,候補者は「自分の頭で考える」必要があります。業者に依頼できるのは,「みやすい表示のアドバイスや提案」や「技術的な掲載行為」等がメインになるでしょう。


5 ネット選挙はどう影響するか
  ネット選挙の影響は未知数ですが,個人的な意見としては,ざっくり次のような使い方が期待されます。
(1) ひたすら情報発信
  主にHP掲載や,後援会中心にスパムっぽくメールを垂れ流すやり方です。まあ,ネット初心者がやりそうな手法ですが,これだと正直ビラまきとそんなに変わらないため,ネットを使う意味合いはかなり低いでしょう。
(2) ひたすら情報収集

  主にSNSを用いて,有権者の意見を聞くというもの。ネット中級者がやる手法です。
  ただし,これもやり方如何では,「単なる売名行為」だけになり,肝心な政策を売り込まずイメージだけで票稼ぎをするということにもなりかねません。たとえば,「今日のお昼ご飯はこれだ」とか「差し入れにおいしいおまんじゅうもらった」みたいな,およそ選挙とは無関係だが一般の人の興味を引くようなことばかり書いて,そこでコメントやイイねをもらうなどを繰り返すうちに,その候補者に親近感を抱かせる,っていう戦術です。政策の合間にこれがあるならいいのですが,こっちしかなければ,本来的意味合いを失います。
(3) 双方向議論
  これはネット上級者の戦術ですし,ネット選挙が目指すべき姿です。
  候補者が政策を提案し,それに対して有権者が意見や質問をぶつけ,それに対して有権者が直接回答や説明をするというものです
  いわば,「戸別訪問の禁止」をネットでフォローしてきめ細かな政策提言を行い,理解を求めていくというものです。まさに,どぶ板選挙の究極といえるでしょう。
  有権者も,これまでは敷居の高かった政治家や候補者に直接疑問を投げかけることで,疑問の解消や候補者の人となりが理解でき,政治が身近になることで投票率の向上にもつながるということが期待できます。


6 ネット選挙の問題点
  以上がネット選挙の概要及びあるべき姿ですが,今後さらに検討するべき点を少しまとめてみました。ただし,あくまでも個人の感想です。
(1) 電子メールの活用を広げる
  有権者も電子メールで投票依頼を可能とする必要があります。なりすまし対策としては,有権者が電子メールを使うのは,不特定多数ではなく特定の人間に限るなど,「知ってる者どうし」みたいにすればある程度は回避できるはずです。
  また,電話や街頭で会った場合に依頼するのもOKですから,メールを使うのは問題ないはずです。
(2) 未成年者のネット選挙の活動緩和
  未成年者が選挙運動を禁止する趣旨は,学業優先と有権者ではない人を選挙に巻き込まないという保護思想によります。
  しかし,ネット上では,未成年者もかなりユーザはおり,かつ大人顔負けな議論をする人もかなりいます。
  そこで,通常の選挙運動の禁止は当然維持するにしても,少なくともネット選挙に関しては,一定のガイドラインを設けたうえで,多少は緩和する必要があるかもしれません。


以上,つかみ程度ではありますが,ネット選挙についてまとめてみました。
是非,次回の参院選から,ネット選挙を最大限活用し,投票に行きましょう

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よく分かる(?)シリーズ,動的防衛力に転換した防衛大綱とはなんぞや

2010年12月18日 18時40分11秒 | よく分かる(?)シリーズ
久々のよく分かる(?)シリーズです。
政府は,17日,新たな防衛大綱を発表しました。ここでは,中国や北朝鮮の活動を懸念事項を位置づけ,南西諸島の防衛力強化を打ち出すほか,これまでの「基盤的防衛力構想」から機動性,即応性重視の「動的防衛力」にシフトすることを打ち出しました。反面,武器輸出三原則の見直しについては,明記を避けました。

海空自衛隊の装備強化=総額は減少―中期防(時事通信) - goo ニュース

あとは武器輸出三原則と,テロルへの脅威に対する防衛構想も検討しなければ

今回の防衛大綱,ようやく世界レベルになろうとしたのかなあ,って思います。
日本の場合,憲法9条の問題がありますので,自衛隊の扱いについて極めてデリケートな部分が多々ありますが,やはり防衛問題は,ある程度現実路線を踏まえなければなりませんので,防衛大綱もそうした点に十分配慮するべきなのです。

ところで,今回の報道を聞いて,おそらく多くの方が「???」となるであろう言葉は,「動的防衛力」だと思いますので,今回はこのあたりを中心に,この防衛大綱で何がどう変わるのか,また何が問題なのかをおかがみ流(ぱくった!!)でざっくり解説します。
なお,憲法問題を絡めると,話の本筋が見えなくなりますので,今回は憲法9条問題は必要最小限に絡める程度にとどめること,ご承知おきください。
それと,誤解のないようにいっておきますが,このたぐいの話をすると,必ず「おまえは戦争支持者か!」と言われるのですが,私は,決して戦争大好き人間でもないですし,むしろ「世界が平和であることを強く望む」というスタンスです。それと,現実的な防衛問題とはまったく別の話なので,今回説明をしているにすぎません。

1 これまでの方針である「基盤的防衛力」とは何か
  まず,「基盤的防衛力」というのは,簡単にいうと,「全国どこにも均一に自衛隊がある」ということです。例えるなら,「郵便局」のようなものです。ポイントは,「日本のどこにも自衛隊がいるから,海外諸国のみなさん,日本を攻撃しても無駄ですよ!」っていうことをアピールすることに主眼を置いている訳です。
  もちろん,自衛隊の大前提は「専守防衛」ですから,絶対に敵国に攻撃をしてはいけません。だからこそ,「鉄壁の守り」をアピールするわけです。サッカーでいえば「FWとMFなしのDFのみ」という10人全員が「田中マルクス闘莉王」だけのチームのようなものっていうことになるのです。
  つまり,これまでの基盤的防衛力とは,冷戦構造をベースにしており,特に旧ソ連からの脅威をベースにしていたことから,実質的には「ソ連さんよ,あんたがどこから攻めてきても日本には自衛隊が郵便局のように配置されているから,やけどするだけだよ。だから,日本を占領するなんて無駄だよ,やめときな。」,っていうことを暗にアピールしていたっていうことになるのです。
  ただし,全国均一といっても,やはりソ連の脅威に主眼を置いていたこと自体には変わりはないので,北方に重点整備をしていたということはもちろんやっていました。ただ,とにかく「隙がなくとにかくいること」っていう点をメインに考えていたわけです。

2 今回防衛大綱を見直した背景は何か
  ところが,時代が変わり,冷戦構造は崩壊し,ソ連もなくなりましたので,その脅威は軽減されました(しかし,誤解のないようにいいますと,ロシアの脅威が0になったというわけではありません。)。一方で,新たな脅威として,北朝鮮や中国が台頭してきたのです。しかも,これらの国の脅威は,「いきなり宣戦布告して日本に上陸する」という20世紀型戦争形態ではありません。ミサイルで威嚇したり,海上で威嚇して,相手をビビらせ,弱いと判断したらそこから一気に攻めていくという「やくざ抗争型」なのです。これが,いわば21世紀型戦争形態の1スタイルと言えます。
  だとすると,これまでのように「郵便局のように均一な自衛隊」っていうスタイルが必ずしも,相手国に対する抑止力になるとは言えません。敵国だって馬鹿じゃありませんから,たとえば東尋坊の崖を戦車で駆け上って日本を占領しようなんて考えるはずはなく,とりあえず手の届きやすい範囲で威嚇や脅威を繰り返すっていうことで降伏を狙ってくるわけなのです。だとすると,「弱いところを増強する」ということが必要となります。
  のみならず,これまでは「専守防衛」という看板がある以上,すべてが受け身のみでした。情報収集も,「日本に入ってくるか否か」をレーダーで捕捉する程度が限界とされていました。
  しかし,21世紀型戦争は「情報戦争」と言われるくらい,情報の有無で勝負はあっという間に決まります。また,なによりも「敵国がどういう動きを普段からやっているのか」っていう情報を平素から収集しておくことで,攻撃してくるであろうポイントを先行して封じておくという戦略も可能となります。情報収集とは,何も攻撃のために必要なのではなく,鉄壁の防衛のためにも必須アイテムとなるのです。
  こうしたことから,今回の大綱で「動的防衛力」が打ち出されたのです。

3 「動的防衛力」っていったい何
  これは,「全国均一って,逆にもろい部分がでてきちゃうから,実情に応じて柔軟付けられるようにして,逆にもろい部分を減らしましょう」っていう発想なのです。そして,柔軟付ける配置や戦略を見極めるためにも,常に脅威といわれる国の動向をきちんと把握し,その情報を踏まえて即座に対応できるようにしていきましょう,っていうことなのです。この柔軟の見極めですが,今回は,中国と北朝鮮という脅威をベースにして考えてみようっていうことにしているのです。
  いわば,動的防衛力とは,「都市銀行」のようなものなのです。顧客が多いエリアにのみ支店を配置することで,より大きな収益を得るとともに,顧客ニーズをきちんと把握することで常に新商品を提供していますので,まさにそうした戦略が動的防衛力と言えるのです。
  これにより,従来の「鉄壁の守り」のアピールはできますが,さらに「あんたのやりたいことくら,このあたしがお見通しだ!」とトリックの仲間由紀恵状態になるわけです。サッカーで例えると,やはり攻撃力のFWはいないものの,情報収集という意味でWボランチと攻撃的MFがつくという「7-3-0」という状態に進歩したといえるでしょう(4バック,フラット3の2枚ディフェンスっていう,まあ本物のサッカーではありえない布陣ですが・・。)。

4 この変化をもう少し別の例で例えてみると
  たとえば,やくざを例にしてみましょう。
  これまでは,やくざがお店にやってきて「みかじめ料払え」と言われた場合に備えて,そのお店が**組のやくざを用心棒にしておくことで「うちの店には**組が付いているぜ」と言えるようにしておくことで無用なトラブルを回避しようという緊張状態にしておきました。
  ところが,みかじめ料払えと言ってきたやくざが没落しつつ,一方で**組は決して他の組事務所に乗り込んで組を潰すことまではやらないというポリシーであることが熟知されてしまったことから,最近では単なるみかじめ料目的ではない別のやくざが「なあ,店長,おまえのところ,法律違反の女の子雇ったみたいだなあ。」みたいなことを言って,より効率的にカツアゲしようと企み始めてきたのです。そうすると,単にバックにやくざがいるっていうだけでは脅しにならないため,店に脅しに来た瞬間をたたくか,または「脅されないように弱点を完璧に治す」ことは「相手の組員の動きを日ごろからリサーチしておいて,相手の行動パターンや弱点を把握しておく」っていうことが必要となってきたわけなのです

5 具体的には何がどう変わるの
  今回,中国と北朝鮮を脅威と想定しています。そして,その脅威はミサイルと領海,領空侵犯です。特にミサイルは国民生活にもっとも影響の大きい脅威であり,これを何としてでも排除しなければならないと考えています。
  そこで,まずは陸海空のバランスを見直します。陸上自衛隊はもっぱら「敵国が上陸してきたら反撃する」部隊なのですが,21世紀型戦争の場合,いきなり敵部隊が上陸するということは想定しがたいため,ざっくりいうと陸上自衛隊は「最終のミサイル撃墜要因」と位置づけます。これにより,人や武力の一部(戦車)を削減します(現実的な上陸ポイントは軍事戦略上限られていますので,ここは削減しても大丈夫なのです。)。
  一方,「制空権を制するものが戦争を制する」という格言は健在なので,まずは航空自衛隊を強化し,領空侵犯を押さえるとともに,上空からのミサイル関係の情報収集を行なうことにします。
  そして,海上自衛隊ですが,一時は「海軍による戦争は第2次大戦により終わった」などと言われた時期がありましたが,海上は実は「移動可能な軍事基地」となりうることや,日本領土前にミサイル撃墜をすることなどもできることなどから,イージス艦等を増強することにします。
  つまり,陸から空海へシフトしていくということで,機動力を持たせたということになるのです。

6 防衛大綱の問題点はどこか
  個人的には,「武器輸出三原則の緩和が明記されなかった」ことと「テロルのような個人的攻撃チームに対する対応」がまだ不十分という点が挙げられます。
  まず,武器輸出三原則についてですが,憲法上や平和主義の観点は意図的に論点からはずし,あくまでも防衛力という観点のみでこの問題を見ると,「多国間開発ができない」っていう問題が出てきます。
  軍事力は,各国とも最先端技術を持ってきます。したがって,敵国からの脅威に対抗するためには,とにかく最先端技術を導入することに尽きます。しかし,武器輸出三原則がある日本では,アメリカ等の兵器を丸ごと輸入(当然,輸出品のグレードは最新の技術ではありません。)するか,自国のみの開発兵器しか使用できません。つまり,「共同研究」ができないのです。そうすると,他の国と比べて軍事技術が立ち遅れてしまい,「ミサイルに竹やりで戦う」という状態になりかねません。
  したがって,防衛力という観点のみからすると,武器輸出三原則については見直す必要があるでしょう。もちろん,あとは憲法上の問題と絡めなければならないという政治的な問題がキモになることは言うまでもありませんが・・。
  もうひとつの問題であるテロル対策ですが,防衛大綱はあくまでも「国対国」を想定したものであり,「国対個人」というものは想定していません。しかし,実は先ほどもちょろっと説明しましたが,近代国家では,「いきなり攻めてくる」ことはなかなか想定し難く,むしろ国家に対する脅威とは「テロ活動」なのです。
  だとすると,テロルに対する対策を講じなければなりません。ところが,防衛大綱という性格上仕方ないのかもしれませんが,テロルに対する対策があまり盛り込まれていません。
  おそらく,警察との役割分担の問題も絡んでくるのでしょうが,陸上自衛隊がメインの仕事になるので,この点も配慮した防衛大綱が作れれば,より国民の安全も守れるような体制になるかもしれません。

以上がざっくりレベルではありますが,今回の防衛大綱のお話となります。
一番理想的なのは,「争いもなく平和に過ごせること」という点なのですが,まだまだそれはおとぎ話かもしれませんので,ある程度現実路線で考えざるを得ないのでしょう。
いずれにせよ,これにより日本の自衛隊が少しでも,日本に対する脅威を排除し,私たちが安心して生活できるよう自衛隊も安心して活動できるような体制を構築してもらいたいものです。 

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よく分かる(?)シリーズ 憲法9条について

2009年08月16日 22時45分07秒 | よく分かる(?)シリーズ
8月15日は終戦記念日でした。各地で,戦没者の慰霊や平和に関する集会などが行われました。また,テレビ番組などでは,戦争を考えるテーマのものが結構放送されていました。
ところで,戦争と平和を考える上で必ず問題となってくるのが「憲法9条」の問題です。そして,憲法改正の議論になると,必ず最初に出されるテーマであるともいえます。
といいつつ,実は結構,「憲法9条って戦争放棄のことが書いてあるの」程度のことしか知らない方も多いのではないでしょうか。
そこで,今回は,久々の「よく分かる(?)シリーズ」として,憲法9条について簡単に説明したいと思います。<もちろん,いつものとおり,あくまでも客観的な説明に徹し,主観的な部分はできるだけ排除して説明したいと思います。

憲法9条
1項 日本国民は,正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し,国権の発動たる戦争と,武力による威嚇又は武力の行使は,国際紛争を解決する手段としては,永久にこれを放棄する。
2項 前項の目的を達するため,陸海空軍その他の戦力は,これを保持しない。国の交戦権は,これを認めない。


1 憲法9条の意味
  細かい問題点は後に譲るとして,まずざっくり説明するとこうなります。
  まず,1項では戦争や武力行使は一切行わないことを定め,2項では,陸海空軍を保持しないこと,そもそも戦争をしようという権利自体を認めないというものです。
  第二次大戦に負けた日本は,これまでの帝国主義を改め,何事も平和的話し合いにより解決するという手法を選択したのです。
  便宜「ドラえもん」を例にして説明すると,のび太君(日本)が,ジャイアンにいじめられて場合であっても,決してのび太君はジャイアンに対して喧嘩をしてはならず,「まず話し合いで解決しよう」という選択肢を取ることになるのです。
  もちろん,この話し合いを円滑に進めるために,ドラえもんやしずかちゃん等の力を借りることは可能です。

2 憲法9条の条文上の問題点
  ざっくりとした9条の意味は分かったかと思いますが,改めて条文を読んでみると,よく分からないところも多いかと思います。そこで,条文上の解釈が問題となっている部分を説明します。
(1) 1項中「国際紛争を解決する手段」の戦争とは何か?
 A説 およそ一切の戦争(自衛のための戦争も含む)
 B説 侵略戦争に限る(自衛のための戦争を除く)

  A説をとれば,過去の戦争の大義名分の多くは自衛戦争だったという歴史的経緯から,理由の如何を問わず,戦争は認めないとするもので,B説は自衛戦争は国際法的にも認められていることなので,あくまでも侵略戦争に限るとしています。
  政府はB説として説明しています。

(2) 2項中「前項の目的を達するため」の意味は?
 1説 戦争放棄に至った動機を一般的に指す(したがって,戦力は完全不所持)
 2説 1項のA説またはB説で定められた戦争を放棄する目的のために限定(したがって,目的外であれば戦力保持は可能。)。

  (1)とコラボするならば,B2説の場合のみ,「侵略戦争目的以外であれば戦力を保持することも可能」ということになります。それ以外の場合は,結局,戦力保持は許されません。

(3) 2項中「交戦権」の意味は?
 ア説 国際法上認められて権利(例えば,軍事施設破壊,領土占領,船舶拿捕など)
 イ説 およそ戦いをする権利
 ウ説 アイの両方

  イ,ウ説の場合,結局,理由の如何を問わず戦争はできないことになります。
  したがって,理論上,武力の保持及び他国に対する戦力行使が許される考え方は,B2ア説のみとなります。

3 じゃあ自衛隊って何?
  政府見解は,B2ア説となりますので,あくまでも「自国防衛目的」という範囲内であれば,必要最小限の戦力を保持することができると解釈しています。
  したがって,そのために整備された組織であり,決して「軍隊ではない」というのが政府見解です。

4 裁判所の見解は?
  それに対して,「自衛隊は軍隊なので憲法違反だ」という訴えがなされています(厳密には,ある事件を解決するたための主張として憲法違反を述べているのですが。)。
  これについて,地裁レベルでは「憲法違反」という判決を出した例がありますが,最高裁では明確に憲法違反とした判決は出されていません。正確に言うと,自衛隊自体の合憲違憲について真っ向から判断をした判例はまだない,っていうことになります。
  
5 憲法9条の現代的問題
  ところで,「憲法9条を改正しろ」っていう主張がされていますが,どこに問題があると主張しているのでしょうか。
  それは主に次のような点であるとされています。もちろん,これはあくまでも一面的な見方であり,それがすべて正しいとか誤りなどという意味ではありません。まさに,ここが改正賛成反対の論点と言えるのです。

 (1) 憲法がアメリカから押しつけられたものである。
   今の憲法は,日本の敗戦により,いわばアメリカの意向に添って作られたものであり,自主憲法とは言えないということを論拠としています。
   ドラえもんで言えば,ジャイアンに負けたのび太君に対し,ジャイアンが「今日から俺様が決めたルールに従って生活しろ」とのび太君に押しつけたということになります。

 (2) 国連活動やアメリカとの同盟関係などという国際協調を維持できない
   戦後,国際関係は大きく変動し,現代では日米安保や国連平和維持活動などにより日本も一定の国際的役割が求められるのに,憲法9条を理由に戦力を一切出さないとすると,他の国からむかつかれてしまうということを論拠とします。
   ドラえもんで言えば,のび太君がジャイアンに喧嘩をできない変わりに,ドラえもんに対して,「ドラえもんがのび太君の家にただで住んでいいから,そのかわりジャイアンにいじめられたら,いろいろな道具を使って懲らしめてやってくれ」と約束したわけです。しかし,ほかのクラスメートがジャイアンにいじめられていたために,クラスメートが一致団結して「ジャイアンを懲らしめようぜ」って学級会で決めたのに,のび太君だけが「あのー,僕は喧嘩しちゃいけないから,端で見てるよ。そのかわり,あとはドラえもんにまかせるし,懲らしめるためにお金がかかるなら,お小遣いすこしだすからさあ」っていうことを学級会で発言しているということになります。

 (3) 他の国になめられる
   武力がないことをよいことし,他の国が無理難題を押しつけてきたり,逆に日本からの要求に聞く耳を持たないこと,相手が聞く耳を持たなければ,そもそも話し合いで平和的解決を目指そうという憲法9条の趣旨がないがしろにされてしまいかねないということを論拠しています。
   ドラえもんで言えば,のび太君がジャイアンやスネ夫に対して「僕のおもちゃ返せよ」といっても,喧嘩できないことを知っている彼らは,「やーだね」と言って終わってしまうということになります。そうすると,あとはドラえもんに頼まざるを得ないのですが,当然,そうなると,今度はドラえもんの機嫌をうかがわなければならず,ドラえもんから「どらやき買ってこい」などと言われたら,それに応じるしかないっていうことになります。つまり,のび太君は,このままでは一生誰かの力を借りなければ生きていけないっていうことになるのです。

6 理想的な解決策は?
  分かりません。っていうか,それを国民みんなで考える時期に来ているといえるでしょう。
  ただ,ポイントは,単に「自衛隊は必要か否か」とか,「自衛隊の国際派遣は是か否か」という小さな話ではなく,「日本の平和を守るためにどうするべきか」,「国際貢献とは本当に武力のみで平和的解決が図られるのか」,「日本が世界の平和のために活動できることはどういうことなのか。」,「理想と現実のギャップはどのくらい時間をかけて,どのように解決していくのか」などという観点から考えることが大切なのです。
  一つ誤解のないようにいいますと,一部論者は「検討=憲法改正」と考えていますが,これは短絡的な発想です。当然,「検討したが憲法を維持しよう」っていうオチだってありなのです。

以上が憲法9条のざっくり説明です。
より詳しく知りたい方は,図書館などで憲法に関する本を読んでみてください。執筆者によってトーンは大きく違いますが,問題点等の深いところも十分理解できると思います。
ただ,ひとつ絶対に言えること,それは「国民が平和に過ごすことができる国家にしなければならない」ということです。ここを否定する論者は少数です。あとは,その目的達成のためのベクトルが問題なのです。

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よく分かる(?)シリーズ ロス疑惑と一事不再理

2008年09月28日 00時57分49秒 | よく分かる(?)シリーズ
久々のよく分かる(?)シリーズです。
サイパンで拘束中の三浦和義氏に対して発行された逮捕状の有効性について,ロサンゼルス郡裁判所は,殺人罪については日本の裁判で無罪が確定したことから一事不再理が適用され逮捕状の効力が無効となるが,共謀罪については日本に法律が存在しないため,一事不再理が適用されず有効であるとの判断を示しました。
弁護側は今後最高裁で争うか,または起訴後の裁判において全面的に争う方向で検討中とのことです。
ところで,このニュースを聞いて,結構多くの方が,「これで三浦氏の有罪確定」と思われているようですが,そうではありません。まだ,あくまでも逮捕状が一部有効であったにすぎず,有罪か無罪かはこれからの裁判で決まります。
また,「なぜ,逮捕状ごときでこんなに時間がかかるのか」とか「一事不再理とか刑法不遡及の原則ってなに」などという方も多いかと思います。
そこで,今回は,このロス疑惑事件の決定をもう少し簡単に解説し,この背後に含まれている法律上の問題点について説明したいと思います。

三浦元社長の逮捕状、殺人容疑は無効 共謀容疑は有効(朝日新聞) - goo ニュース

1 ロスの裁判所の決定のあらまし
  今回,いわゆるロス疑惑について三浦氏に対して20年位前に発行された殺人罪及び共謀罪での逮捕状で三浦氏を逮捕できるかであるが,結論は共謀罪については有効なので逮捕できる。
  まず,殺人罪については,日本の裁判で同じ事件について審理され,結果無罪となった以上,一事不再理が適用される。
  でも,今のロスの法律では,外国の裁判については一事不再理は適用されないから,日本の裁判の結果は「そんなの関係ねえ」と言えそうな気もする。
  だけどもだっけど,日本の裁判は2003年に確定し,ロスの法律で外国裁判について一事不再理を撤廃したのは2005年。だから,2003年時点では一事不再理が適用されるから,とでこれを適用しないとするのは被疑者に不利になるため,刑法不遡及の原則により,一事不再理を認めてよい。
  一方,共謀罪は,事案の中身はさておき,日本に共謀罪が存在しない以上,日本の裁判では,共謀罪に関する審理はされていない。だから,一事不再理の効力は存在しない。
  したがって,共謀罪について逮捕状はまだ有効と言える。
  よって,共謀罪についてのみ逮捕は有効だよ。

2 争点
(1) 日本の裁判結果がアメリカにおいて一事不再理として扱って良いか。

  まず,「一事不再理」ですが,これは「一度裁判で無罪が確定したら,同じ事件でもう一度裁かれることはない」という大原則です。例えば,殺人事件で一度無罪が確定すれば,その後仮に重要な証拠が出てきたとしても,再度裁判にかけて有罪にすることはできません。
  これは,被告人の地位が不安定になることを防ぐための制度です。そうしないと,無罪判決を勝ち取っても,おちおち夜も眠れないということになりかねません(特に,本当に無罪だった場合のことを考えてみれば分かるでしょう。)。ただし,逆の場合,すなわち「有罪」が確定したあとに無罪の証拠が出てきた場合は,「再審」ができます。
  当然,日本でも憲法で認められています。
  さて,この効力が外国にも及ぶかですが,実は,「その国の判断」ということになります。被告人の人権を重視すれば,外国でも当然に及ぶとも言えますが,その国の自律権を尊重するならば,外国で自国の権利として裁判を行えるということにもなります。
  アメリカでは,各州において考え方が違うようで,少なくともカリフォルニア州では,2005年に一事不再理効を撤廃しました。理由は,メキシコ移民の犯行が多かったからなどといわれています。
  いずれにせよ,現在は,日本の裁判結果がカリフォルニア州には影響しないことになります。
  なお,日本の場合,外国の裁判結果については「微妙」な立場です。建前上,再度の裁判はできるため,一事不再理はないとも言えますが,海外で有罪のことを想定していると思われるため,海外で無罪となった場合についてどうなのか,立法化が待たれるところです。

(2) 一事不再理も刑法不遡及の原則が適用されるか。
  まず,「刑法不遡及の原則」とは,あとからできた法律で処罰されないという規定です。これは,行為時にセーフだったことがあとでアウトになると,安心して生活できないからです。例えば,来年「ブログ禁止法」が仮にできたとして,その際に「過去ブログやっていた奴全員死刑」なんていわれたら,「そんなこと急に言われても・・」ってことになりますよね。これと同じことです。
  ところで,一事不再理とは厳密には行為ではないので,刑法不遡及の原則が適用されないようにも思われます。
  しかし,行為だけに限らず,「あのときはよかったのに」ということを広く見ておかなければ,今というこのときを安心して過ごせません。それは,極端な話,「一事不再理がないなら,カリフォルニアでは犯罪はしなかったのに」という判断基準にもなり得るのです。
  だから,一事不再理にも刑法不遡及の原則が適用されるのです。

(3) 日本にない法律であっても,実質的に裁判において審理されれば一事不再理の枠内なのではないか。
  今回の裁判の最大の争点とも言えます。
  弁護団は,「日本の裁判では,三浦氏が誰かと共謀して殺人をした」という事実で審理をした,すなわち「ロスの共謀罪の事実」も実質的に日本の裁判所で審理をしていたから一事不再理効の対象になるという「実質説」を主張してきました。
  ところが,今回裁判所は,「事実はさておき,日本に共謀罪がない以上,形式的には日本で共謀罪により処罰される危険はなかった。」という「形式説」により一事不再理効を否定しました。
  起訴状の中身ではなく,形を重視したのです。

3 もし,逆に日本で起こっていたらどうなるか
  もしも,全く逆のこと,すなわち「日本でアメリカ人が人を殺した容疑で,そのアメリカ人がアメリカの裁判所で無罪になったが,その後日本の警察が有罪となる証拠を見つけたところ,そのアメリカ人がふらっと日本にやってきた」場合,どうなるでしょうか。

(1) 逮捕状の有効性
  本の逮捕状は,原則7日,例外的に数ヶ月というものになります。したがって,少なくとも20年前の逮捕状がそのまま有効ってことはありません。

(2) 一事不再理効は?
  分かりません。おそらく,法律上不明なので,裁判は可能かもしれません。当然,弁護団はまずここから攻めてくるでしょう。

(3) 逮捕できる?
  一事不再理が微妙なので,逮捕状は出せるかもしれません。
  また,30年前の事件だとしても,被疑者がずっとアメリカにいるため,公訴時効が停止しています。だから,起訴可能なので,逮捕も可能です。

(4) 逮捕状に対する異議は出せるか?
  出せません。逮捕状に対する不服申立制度はありません。
  そのかわり,逮捕されてから3日以内に「勾留請求」されますので,そこで裁判官に弁解することができます。そして,勾留請求が認められた場合は服申立ができます。
  ただし,それも最大で20日間しか勾留の効力がないので,不服申立が認められなかった場合は,事実上起訴を待った上で,裁判の中で争うしかありません。

4 今後の行方
(1) サイパンからロスへの身柄移送

  逮捕状が有効である以上,ロス市警で捜査を行うため,まもなく移送されるでしょう。あくまでも,捜査とその後の裁判のためです。

(2) 三浦氏の争い方
  まず,逮捕状無効について,州最高裁に異議を出すことができます。これが認められれば,釈放となります。ただし,逮捕の問題だけなので,起訴される可能性は高く,そうなると結局裁判のためにロスに出頭しなければなりません。
  とすると,次の戦略は「ならば,逮捕状は認めた上で,裁判で無罪を争う」ということが考えられます。どっちにしろ,ここが最後のゴールポイントなので,時間をかけないためにも,「早くやる」という戦術もあります。

以上が,今回の概要と法制度の概要です。繰り返しますが,現時点では,「三浦氏が犯人と決まった」訳ではありません。ここをこれからじっくり裁判で決めていくのです。当然,改めて一事不再理効も主張することになるでしょう。
まだまだ時間がかかる裁判となりますので,「自分を客観的に見る」状態で,この行方を見守ってみましょう。

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http://blog.goo.ne.jp/tenjin95/e/2f61bd66a0d895c04177593341a639dd

よく分かる(?)シリーズ 日本国憲法全文

2008年05月03日 20時39分59秒 | よく分かる(?)シリーズ
5月3日は憲法記念日です。各地で憲法を考える集会などが行われています。一方で,国会での再議決や,イラク派遣が憲法違反になるという高裁裁判例など,憲法に関するニュースもいろいろと出ています。
そこで,憲法記念日を踏まえて,あらためて日本国憲法について考えてみようと思います。今回は,日本国憲法の条文に何が書いてあるのか,ダイジェスト的に説明したいと思います。また,制度趣旨や背景事情なども説明します。
なお,憲法の基本的骨格については,過去の記事(こちらで過去の記事に飛べます)を参考にしていただければ幸いです。

第1章 天皇(1条~8条)
天皇が日本国の象徴であること(前文と併せて主権が国民にあるということになる),天皇が行える行為は「国事行為」という非政治的行為のみであり,それも内閣の助言と承認が必要である。

第2章 戦争の放棄(9条)
戦争や武力行使を永久に放棄し,その目的達成のため,軍隊は持たないとした。
ちなみに,の「戦争」に「自衛のための戦争」が含まれるのか,また「軍隊」に「自衛隊」が含まれるのか,これが今日も議論となっている。

第3章 国民の権利及び義務(10条~40条)
いわゆる「基本的人権」と呼ばれている部分である。
まず,基本的人権はすべての国民に認められているが,一方で「人権だからなんでもあり」という態度はよろしくなく,権利を保持するためには国民は常に努力をしなければならない。また,人権といえでも,「公共の福祉」による一定の制約が認められており,人権だからなんでもありということではない(つまり,権利の上にあぐらをかくと,その権利は抹消される危険がある。)。
基本的人権には,大きく1精神の自由,2経済の自由,3身体の自由,4平等権があげられる。
精神の自由は,主に表現の自由,宗教の自由,思想良心の自由,学問の自由がある。
経済の自由は,主に引越の自由,職業選択の自由,営業活動等の自由,財産権の確保などがある。
身体の自由は,奴隷的拘束の禁止,法律に基づかなければ刑罰を受けない,裁判権の保障などがある。


第4章 国会(41条~64条)
国会は衆議院と参議院があり,いずれも選挙で選ばれた国会議員で構成されること,国会議員には国会活動に必要な特権や報酬をもらえること,任期などが定められている。
また,国会は年1回開くこと,衆議院の議決権に優越があること,その反面衆議院は解散する場合があることが定められている。
さらに,国会の役割は法律を作ることや予算を決めること,条約の承認や首相を指名することなどであると定められている(それゆえ,国会を立法府と呼ぶ。)。
ちなみに,国会議員に特権を定めた趣旨は,戦前に議員を一気に逮捕するなどして国会の審議をないがしろにしたという反省から,国会議員が自由にかつ安心して審議ができるようにすることで民主主義を守ろうとしたものであり,国会議員が特権階級であることを定めたものではない。

第5章 内閣(65条~75条)
内閣が行政権を握っていることや,国会から指名された首相が国務大臣を自由に選び,または首にできること,大臣の半分以上は国会議員であることなど内閣の要件が定められている。また,内閣の仕事は,法律や予算の執行という行政部門であること,内閣総理大臣は,衆議院を解散することができる権限があることが定められている。
ちなみに,解散権については,国会(衆議院)から「この内閣けしからん」という内閣不信任案が出された場合の対抗手段として定められているが,不信任案がなくても自由に解散できると言われており,実際不信任案が可決されなくても解散しているのが実務である。

第6章 司法(76条~82条)
最高裁判所に憲法違反の法律を審査する権限があり,内閣や国会から横やりが入らないようにするために裁判官や裁判所の独立(司法権の独立)が定められていることで,裁判官の身分保障がされている。
これは,裁判所が「法の番人」として,民主主義による多数者が少数者に対する横暴を防ぐ為にも,時の権力者に一切左右されない組織とする必要があることから独立を認めた。

第7章 財政(83条~91条)
国の財政や税金徴収は,すべて法律によらなければならないこと,予算は毎年国会で審議する必要があること,決算は会計検査院でチェックをして,毎年国民に財政状況を報告すること,国の財産は公益目的以外には支出できないことが定められている。
これは,国の財政を国民の民主的コントロール下におくこと(国会が民主主義の結晶であるため)により,一部の権力者が勝手に支出をすることや,意味不明な財政負担を許さないという趣旨によるものである。

第8章 地方自治(92条~95条)
地方自治体は,法律の範囲内ではあるが,住民自治(地方自治体のあり方は住民が決める)と団体自治(地方自治体は,国の指図を受けることなく,各自治体の判断で仕事ができる)が認められている。具体的には,首長や議会はすべて選挙で選ぶこと,自治体の自主立法たる条例制定権を認めている。
これは,戦前は地方自治体はすべて国の管理下におかれていたが,地方の独自性を認めることで,地域住民のニーズに即した行政が行えるようにということから規定された。

第9章 改正(96条)
憲法改正のための手続を定めたものである。
衆参両議院のそれぞれ総議員の3分の2以上の賛成で憲法改正の発議(憲法改正案)を行い,これを国民投票にかけて過半数の賛成で憲法改正になる。
ちなみに,国民投票については,去年ようやく国民投票法が成立したため,それに基づいて処理されることになる。

第10章 最高法規(97条~99条)
憲法が最高法規で,憲法に違反する法律は作れないこと,天皇や国会議員等の公務員は憲法を尊重する義務があることが定められている。
ちなみに,条文上は国民に憲法尊重義務が定められていないものの,一般に憲法を尊重するべき責務があるといわれている。

第11章 補則(100条~103条)
憲法施行に必要な規定であり,今は特に関係ない。

以上が憲法の概要です。これを踏まえて,さらに個別の規定やいろいろな問題点等を見てみるといかがでしょうか。きっと,「憲法と現実の乖離」が多少なりとも理解できるかもしれません。この乖離が「憲法改正」の議論の原点になります。憲法を直すのか,それとも現実を改めるのか,そこが争点になるのです。
そういう点も考えてみるいい機会もしれません。

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よく分かる(?)シリーズ 食品の原産地表示とJAS法

2008年02月02日 20時44分34秒 | よく分かる(?)シリーズ
中国の農薬入り冷凍餃子問題は,かなりの波紋を呼んでいます。今回問題となっている中国の業者のみならず,単に中国産について買い控えを招くばかりか,国産の餃子までとばっちりを受けているようです。
ところで,「中国産は買い控えたい」という人も多いかと思いますが,一方で今のJAS法では,必ずしも中国産をすべて見抜くことはできません。当然,よく分からない原材料に基づく食品が本当に安全なのかどうか,完璧に調査することは難しいのが現状です。
そこで,今回は,JAS法の盲点を簡単に説明したいと思います。

「農薬、相当な高濃度」専門家指摘 ギョーザ中毒問題(朝日新聞) - goo ニュース

1 JAS法の原則
  これはものすごく細かく規定されているため,正確には農林水産省のページ(こちらです)をご覧ください。
  大雑把に説明しますと,「特定20品目」について,「生鮮食品として加工」して,「その割合が50%以上」ある材料については,単に製造地のみではなくその材料の原産地を表示する義務を平成18年から定めました。
  例えば,A国で釣った鯵を日本が輸入して鯵の開きを作った場合,製造地は「日本」ですが,原産地「A国」も表示しなければなりません。
  これにより,「もともとどこのものか」がはっきり分かるため,安心して買い物ができるということになりました。
  とはいえ,これが制度化したのがつい最近というのは,ある意味非常にびっくりだとおもいます。

2 例外も結構ある
  例えば,「冷凍野菜の詰め合わせ」の場合,袋の中が「にんじん60%,ジャガイモ40%」だとした場合,にんじんは60%あるため「50%ルール」により原産地表示義務が発生します。つまり,「にんじん(原産地A国)」などと表示されます。
  ところが,袋の中が「にんじん40%,ジャガイモ40%,たまねぎ20%」だとした場合,「50%ルール」が適用されませんので,原産地表示義務が発生しないのです。
  この場合,この「冷凍野菜の詰め合わせ」を国内工場で製造したとしたら,もはやこの野菜の原産地が国内産か海外産かを消費者が把握することができないのです。
  もちろん,業者が自主的に表示することは否定されていませんから,良心的業者であればしっかりと表示しています。
  このように,「50%ルール」に該当しない食品については,原産地が分からないのです

3 対象は「生鮮食品」が中心
  次に,原産地表示義務があるのが「生鮮食品」とされています。これは,簡単に言えば「原形をとどめているもの」となります。したがって,例えば,「冷凍アジフライ」は生鮮食品となりうるのですが,「冷凍餃子」は生鮮食品とはなりません。
  したがって,冷凍食品やインスタント食品の多くは,原形をとどめていないもの(コロッケをイメージしてもらうと分かりやすいでしょう)であることから,原産地表示義務はありません。
  それゆえ,対象外になる冷凍食品の工場が日本にある場合,たとえ原材料がすべて輸入品だとしても「国産品」となってしまうのです。

4 外食は「ガイドライン」にすぎない
  外食産業の場合,厳密にはJAS法が適用されるわけではなく,業界ガイドラインとして原産地表示義務を設けているにすぎません。
  したがって,居酒屋等で原産地表示をしていなかったとしても,それが直ちに法律違反になるわけではないのです。
  とはいえ,多くの業界は,原産地表示をして対応していると聞いております。

5 まとめ
  今食卓に並んでいる食品を「完全に国産」にするというのは相当難しいというのが今の日本の現状といえます。
  もちろん,「何でもかんでも表示義務を作れ」となると,かえって分かりにくくなるという恐れがあります。例えば,カップラーメンなどは細かい野菜や調味料一つ一つに原産地を書くとなると,カップ全体が食品表示となりかねません。
  したがって,ある程度の省略は仕方ないのかもしれません。
  とはいえ,JAS法も見直しが頻繁に行われています。したがって,当面は業者の自主的な情報公開に頼らざるを得ないかもしれませんが,一方で「あまりにヒステリックになり過ぎない」という寛容性も必要かもしれません。
  もし,本当に国産のみで生活したいのであれば,自給自足か信頼できる焦点を探してそこと取引をするしかないでしょう。
  ちなみに,私の自衛手段は,表示されている範囲で「中国産」と記載されている食品については,極力購入しないという典型的な手法ですが,上記のとおり,それだけでは完全に中国産を排除できないということを当然理解した上での行為です。それ以上細かく調べることまではあえてやっていません。

  とまあ,JAS法の現状について説明しました。これを踏まえて,「より安全な食卓」を各自考えてみたらいかがでしょうか。

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よく分かる(?)シリーズ 収賄罪について(その2)

2007年12月07日 00時02分39秒 | よく分かる(?)シリーズ
前回に続きます。

3 収賄罪の主体は誰?
  もちろん公務員です。ただし,例外として,事前収賄と事後収賄は厳密には公務員ではありませんが,広い意味では公務員に含まれますので,同じようなものです。
  したがって,例えば,私立学校の先生が業者から多額のリベートをもらったり接待を受けたりしても,収賄罪は成立しません(もちろん,学校の内規違反で解雇となるかもしれませんが,刑事罰とは別の話です。)。
  「あれ,でも公務員でない妻が逮捕されたよね」と思われた方,鋭い!
  実はここは難しい話なのですが,簡単に説明しますと,まず収賄罪は,公務員限定犯罪なので,このような犯罪のことを「身分犯」と呼んでいます。そして,身分犯の場合,身分がないものが犯行を犯しても罪になりません。
  したがって,例えば,公務員の妻が勝手に,「私,土木課の職員の妻だけど,私に100万円払えば,夫に頼んで仕事有利にしてあげる」といって業者からお金をもらっても,これ自体は何ら罪にはならないのです(ただし,詐欺罪になりうるなど別の犯罪の可能性があり得ますが。)。
  では,なんで妻が逮捕されるということがあったのでしょうか。
  実は,「公務員である夫と一緒になって犯罪をした」からなのです。いわば,2人で銀行強盗をしたことと同じとして扱われるのです。これを「共同正犯」といいます。俗に「共犯」と呼んでいるものです。
  共犯の場合,身分がなくても身分があるものとして処罰していいよと規定しているため(刑法65条1項),妻が夫と打ち合わせの上で賄賂をもらったとすれば,公務員でなくても処罰されるのです。
  したがって,事情を熟知した上で妻が業者からお金を受け取れば,公務員でなくても「収賄罪」が成立するのです(この辺が,第三者収賄罪との切り分けの難しいところとなりますが,この難しい話は割愛します。)。

4 職務に関連しているとはどういうことか
  自分自身に職務権限がある場合はもちろんのこと,職務と密接な関係がある行為も含みます。
  例えば,土木課の職員の場合,担当事務が道路工事であれば,道路工事に関することでお金をもらえば「職務に関している」といえます。また,土木課では河川工事も担当しているが,この職員は河川工事とは関係ないとしても,同じ課にいる以上河川工事に絡む可能性があると言うことから,河川工事業者からお金をもらっても,「職務に関連している」といえます。
  一方で,この職員が,学校教科書販売業者からお金をもらったとしても,それは職務とは全く関係がないため,その後教育委員会にあっせんをするなどのことがない限り,収賄罪にはなりません。
  ただし,公務員には「転勤」が付き物です。そこで,転勤後に賄賂をもらった場合はどうでしょうか。例えば,土木課職員が,福祉課に異動した後に,道路工事業者から賄賂をもらったとしたらどうでしょうか。
  この場合,一見すると,福祉課の職員には「道路工事に関する権限」はないため,「職務の関連して」いるとはいえず,収賄罪が成立しないともいえそうです。しかし,それでは「異動してから賄賂を渡せば大丈夫」ということで,異動の度に賄賂をもらって大もうけということになりかねません。
  そこで,いろんな考え方がありますが,判例は,「職務」には過去の職務も含まれるとして収賄罪の成立を認めています。
  だから,異動しても安心して逮捕できるのです。

5 請託をするとはどういうことか
  単純収賄罪以外では,請託を受けることが要件となっていますが,この請託とは何でしょうか。
  これも難しい話ではなく,単純に「職務に関して一定の依頼をすること」をいいます。ただし,この依頼は必ずしも不正行為に限らず,正当な職務でも大丈夫です。したがって,例えば,業者が「次回の入札も,是非とも中立公正な形で変な不正が入らないようにしてくださいね。」といって賄賂を渡したとしても,「請託を受けた」ということになります。

6 贈った方の責任は?
  賄賂を贈った業者については,贈賄罪が成立します。つまり,「両者処罰する」ということになるのです。

7 賄賂をもらった公務員は,賄賂もらい得なの?
  かつて5億円の賄賂をもらったと認定された大臣がいましたが,例えば,5億円もらって懲役5年だとした場合,見方を変えれば「年収1億円のお仕事」ともいえるために,仮に公務員をクビになっても「おいしい仕事」ともいえそうに思えます。
  そこで,世の中そんなに甘くないということを見せしめるため,もらった賄賂はすべて没収または追徴します。つまり,手元から全部取り上げます。
  没収とは,持っているお金を取り上げることです。追徴とは,お金以外でもらっていた場合に,金銭に換算した金額の支払いを命じることをいいます。例えば,ゴルフ接待であれば,ゴルフプレー代相当が追徴額となります。

8 賄賂のようで賄賂でないもの
  以上が収賄罪の概要ですが,では収賄罪のように見えて収賄罪にならないものとはどういうものでしょうか。
(1) 政治献金
  これは,政治家支援者が当該政治家や政治団体に対し,お金を提供することをいいます。
  これは,あくまでも政治家に対する応援のための供出金であり,職務に関して提供している訳ではないことから,収賄罪になりません。
  ただし,名目が政治献金であったとしても,明らかに政治家の職務に関連して提供していると認められる場合であれば,収賄罪の対象となりうる場合があります。例えば,何らかの見返りを期待して献金をして,政治家もその見返りを理解している場合などがあげられます。
(2) 適度な接待
  公務員倫理法で規制は受けていますが,それを別にすれば,社会的に相当といえる範囲での接待については,前述のとおり賄賂とはいえないとなります。例えば,業者が安い居酒屋に公務員を招待することや,退職や異動時の寸志として数千円の商品券を渡すことなどがあげられます。
(3) 公務員の指示がない状態での第三者への金銭提供
  公務員の指示の元で第三者へ金銭を提供すれば第三者収賄罪となりますが,公務員が全く知らないうちに,第三者に金銭などを提供した場合は,賄賂を収受したとはいえませんから,収賄罪が成立しません。
  たとえば,政治家の秘書に,業者が自分の判断で「秘書さん,いつもお世話になってますので,これは秘書さんの分として」といってお金を渡すことがあげられます。もちろん,その事実を政治家が知りながらそれを放置した場合は収賄罪となる可能性が出てきますが,本当に「秘書と業者」だけの関係である限り,収賄罪とはなりません。
(4) あっせんしない収賄
  職務権限がない公務員に対して賄賂を渡した場合,そこから職務権限ある公務員への斡旋を依頼すれば,あっせん収賄が成立しますが,あっせん行為がない通常の場合であれば,収賄罪が成立しません。
  例えば,政治家に対して,業者が「今度の道路工事は是非我が社に」といって金銭を提供しても,政治家が「いやあ,僕にはそんな権限ないからねえ」などと言いながらお金をもらったとしたら,収賄罪にはならないのです。もっといえば,業者が「黄金色のお菓子でございます」といってお金を渡し,政治家が「おぬしも悪よのう,おほほほ」といってそれをもらったとしても,それだけでは何の罪にもならないのです。
  ちなみに,同じケースでも「よし,任せろ」といってお金をもらえば,その後全く動かなかったとしても「約束した」ことになるので,あっせん収賄罪が成立します(ただし,立証は相当大変だとは思いますが。)。

以上が収賄罪の超概要です。
とにかくいえることは,「>李下に冠を正さず」ということです。公務は常に中立公正である必要があります。これは当然政治家も然りです。お金で公務を動かすことは,「金持ちのための政治」となってしまいます。そういう自体を防ぐ意味でも,収賄罪とは厳しく規定されるべきものなのだ,ということをご理解いただければ幸いです。

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