あれは,あれで良いのかなPART2

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よく分かる(?)シリーズ 国会議員の懲罰について

2006年03月08日 00時18分49秒 | よく分かる(?)シリーズ
民主党永田議員の懲罰がどうなるのか注目を集める中,小泉総理が「国会の懲罰が甘い」などといって,除名と登院停止の間にさらなる懲罰措置や登院停止期間の延長などを検討したい旨の発言をしています。
一方で,国会議員の懲罰と聞くと,多くの人は会社でちょんぼした社員に対する懲戒権とほとんど同じようにしか考えていないのではないでしょうか。
しかしながら,会社の懲戒とは実は大きく異なる点がありまして,一言で言えば,「悪いことをした=懲罰」であるとは限らないのです。
そこで,今回は永田議員の帰趨について分かりやすく追求できるようにするためと,今後の小泉首相の発言を受けてどのような懲罰権の改正が検討されるのかを理解しやすくするために,今回は国会議員の懲罰権について簡単に説明したいと思います。
なお,文中に個人的見解が入る部分には「私見」と明示するなど,事実と意見は明確に分けておきます。
また,個人的見解については,前回の書き込みを参考にしてください。

はじめに 懲罰のイメージ
  学校で,ある生徒の悪戯に対し,学級会においてその子の処分をクラスで話し合うこと,そんなイメージを想定してください。
  多くの部分で話がかち合います。

1 懲罰とはなにか
  衆議院又は参議院の院内の秩序を乱した者に対する制裁をいいます。
  懲罰の権限は,各議院がそれぞれ持っています。したがって,例えば,衆議院議員が参議院の本会議場で何か悪さをしたとしても,参議院ではその議員を懲罰にすることはできません。

2 懲罰の種類
  次の4つです。
(1) 公開議場における戒告(議会の中で議長からお説教を受けること)
(2) 公開議場における陳謝(議会の中でみんなにわびを入れること)
(3) 一定期間の登院停止(最大30日間国会に行くことを禁止する,すなわち国会で事実上議員活動ができなくなること)
(4) 除名(クビ,議員資格を剥奪すること)

3 懲罰の手続方法
  衆議院参議院共に国会法及び議院規則に基づいて行われます。おおざっぱな流れは次のとおりです。
(1) 懲罰事犯があると認められた場合,事犯のあった日から3日以内に衆議院は40人以上,参議院は20人以上の賛成で懲罰の動議を提出する。
(2) 議院では,動議内容を審査し,本会議(議員が全員集まっている場所)において出席議員の過半数の賛成が得られれば,この動議を懲罰委員会に持っていく。
(3) 懲罰委員会では,当該議員に対し,弁明の機会を与え,いろんな話を聞く。
(4) 懲罰委員会で出席議員の過半数の賛成があれば,懲罰動議を本会議に持っている。
(5) 本会議で,懲罰委員長が報告をし,場合によっては,当該議員に弁明の機会を与える。
(6) 本会議出席議員の過半数の賛成があれば,懲罰を行える(ただし,除名の場合は出席議員の3分の2以上の賛成が必要)。

4 懲罰委員会とは
  衆議院は20人,参議院は10人で構成されている常置委員会。
  委員の人数は,議席に比例して分配されます。また,権力集中を排除する趣旨から,委員長は野党議員が行うことが慣例となっています。
  ちなみに,現在の構成員は,衆議院の場合,自民10人,民主5人,公明1人,国民新党1人,無所属(元自民)2人,欠員1人,参議院の場合,自民5人,民主4人,公明1人となっています。

5 どういう事案が懲罰の対象になるか
  実は明確に規定がありません。規定があるのは「院内の秩序を乱した」とあるだけです。
  したがって,何が院内の秩序を乱したのかは,各議員,議長,懲罰委員会などで判断することになります。
  ちなみに,懲罰動議は,懲罰事犯がない場合(つまり全く悪いことをしていない場合)でもこれをすることができます。
  極論ですが,3分の2以上の議席を持つ与党が国会を仕切っている場合,野党議員を1人ずつ除名にすることが理論的にはできます(もちろん,法律学上の話であり,非現実的な話ですが。)。

6 懲罰になった議員はどうなるか
  まず,戒告や陳謝の場合は,それ以上は何もありません。
  ただし,各政党において実質的な内部処分を受ける場合が多いです。
  一方,登院停止となった場合,その議員が特別委員会に所属している場合は,特別委員会のメンバーから外されます(クビになる)。但し,常置委員会(予算委委員会など)はクビになりません。
  除名になった場合は,その瞬間議員資格を喪失します(つまり議員をクビになる)。
  そして,これらに対しては一切不服申立をすることはできず,当然裁判所に対して訴えることも許されません(仮に訴えても,裁判所は審理することなく訴え却下をする。)。
  ちなみに,除名になった議員は,再選挙で当選すれば,議会に戻れます。その場合,「お前,前除名されたから国会に入っちゃダメ」ということはできません。
  なお,除名された議員が小選挙区で当選した場合は,補欠選挙が実施され,比例区で当選した場合は,同じ党の人が繰り上げ当選となります。

7 なぜ議院に懲罰権が認められているのか
  国会は三権分立の一つを担う非常に重要な機関です。したがって,国会に対して他の機関(内閣,裁判所,天皇)が干渉しないようにするために,「自分のことは自分で決める」力(自律権といいます)を設けておく必要があります。
  その一環として,「自分の不始末は自分でつける」という懲罰権を兼ね備えているということなのです。
  したがって,懲罰権も国会における他の決議同様多数決(つまり民主主義)で決められるということになります。

8 地方議会との違いは何かあるのか
  地方議会でも類似の懲罰権があります。
  しかし,大きな違いは,「地方議会では,除名処分に対しては裁判によって白黒つけてもらうことができる」という点です。
  これは,前述のとおり,国会には自律権があるため,三権の一つである裁判所が口出す余地はないことから除名に対して裁判ができないのに対し,地方議会は必ずしも三権分立ほどの強い権限がないため,除名という議員生命がかかった場合に限って裁判所が審査する余地を残しておこうという趣旨によります。

9 懲罰制度の不思議な点や問題点(私見)
  以下はすべて私見です。ご注意ください。
(1) すべては民主主義で解決する
  懲罰の動議は40人以上であること,懲罰委員会のメンバーは議席に比例して割り当てられること,最後は本会議で過半数の賛成によることなど,懲罰といっても,結局「議案」と同じ扱いに過ぎません。
  前述のとおりちゃんとした憲法上の理由があるにしても,これで果たして公平な懲罰ができるのか,いささか疑問はあります。これも民主主義だといわれればそれまでですが。
(2) 不服申立手段がないこと
  国会の懲罰に対して裁判所が関与できないことは前述のとおりです。むしろ,軽々しく裁判所の関与を認めてしまうと,国会の権威が保てなくなり,究極的には民主主義を裁判所が簡単に否定することにもなりかねません。
  しかし,懲罰を受けた議員は,処分の重さやそもそも懲罰の是非について納得がいかない場合に,それを訴えるすべがありません。
  憲法的には,この納得のいかない部分は,民意(選挙)で補うしかないとしていますが,やはり議院内部で再考する手段を多少なりとも講じてもよいのではないでしょうか。
(3) 除名は本当は難しい
  除名だけは,3分の2以上の賛成が必要です。その前提を踏まえておかなければ,懲罰の内容改正についても十分に理解できなくなる可能性があります。
(4) 登院停止中も給料は貰える
  登院停止は国会に行けないだけで,地方で国会議員の活動はできますし,各種優遇措置は受けられます。
  したがって,給料も貰えます。
  しかし,本業である国会での仕事をしていないわけであり,会社でいうところの「停職」と同じ状態にあるわけです。
  とすれば,給料を満額支給するのはいかがなものかと思います。

以上がかならおおざっぱな懲罰制度です。多少なりとも国会の仕組みが理解できれば幸いです。

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