山口恵以子さんの「毒母ですが、なにか」。題名に惹かれて読んだ本ですが、すごい毒母ぶりに唖然とします。本のタイトルの「毒母ですが、なにか」が娘の星良が自分と母りつことの壮絶な親子関係、生育歴を描いた告白本の「毒殺する母」を読んだ後、りつこが描こうとする反撃本のタイトルになると言う結末に、救いのない毒母を見ました。ひょっとしたら実際にこれに近い親子もいるかもしれないと思うと、子育て中の人、これから子供を育てる人が読むといいと思いました。親の過大な期待に応えられず、潰れてしまう子供って実際にいるだろうと思います。この本の娘、星良も途中壊れかけた時期もあったけれど、芸能界に運良く入れたこと、また能力が高かったことで、活躍の場を見出し、毒母から自立できたのでハッピーエンドと言えるけど、りつこの娘に対する執着は相変わらずで、その点はハッピーとは言えない。子供には子供の人格、価値観、人生があると思わないとね。押し付けはいけません。
久しぶりに本のご紹介をします。若竹千佐子さんの「おらおらでひとりいぐも」を読みました。東京オリンピック開催のファンファーレに押されるように結婚式の3日前に故郷を捨てて上京し、東京で一人暮らしを始めた桃子さん。東京で臆面もなく東北弁まるだしで話す美しい男、周造と出会って結婚し、二人の子供を育て上げ、近郊の新興住宅地に40年暮らしている74歳の桃子さん。一人暮らし23年。早くに夫に先立たれ、息子と娘とは疎遠な状態で、親子四人で暮らした家に一人暮らしをしている。息子は「俺にのしかからないでくれ」と言って他県で就職。娘は近くに住んでいるものの、電話一本よこさない。そんな娘から久しぶりの電話があり、桃子さんは喜ぶのだったが、娘は買い物に不自由していないかなどと優しい気づかいをした後、お金を貸してほしいと頼む。一瞬、躊躇する桃子さん。お兄ちゃんにだったらすぐに貸すのに。だからオレオレ詐欺に引っかかるんだとも言われて電話は切れる。誰とも話さない暮らしの中で、話し相手は見えない人の声。その声は自分のうちから聞こえてくるのだった。最愛の亡き夫、周造の墓参りには、手弁当を持って歩いて行く桃子さんだった。全編を通し、桃子さんの心の声とのやり取りや、考えが東北弁でつづられている。一人暮らしの孤独の中で見つけた「自分のために生きる」という喜びにちょっと励まされ、桃子さん、まだ大丈夫そうでした。筆者の若竹千佐子さんは1954年、岩手県遠野市生まれ、55歳から小説講座に通い始め、8年の時を経て本作を執筆。2017年史上最年長の63歳で第54回文藝賞を受賞し、第158回芥川賞も受賞した。民話の宝庫、遠野の生まれで私と同じ年。私は息子2人と疎遠ではないけれど、他県に暮らしている子供たち。夫に先立たれたら私もこうなるのかなぁなと実感を伴って読みました。若い読者には実感がわかないかもしれないなぁと思いました。
久しぶりに本のご紹介です。最近、朱野帰子さんの「駅物語」を読みました。私にとって初めての作家さんです。大学を優秀な成績で卒業し、就職も一流企業から内定をもらいながら、東本州旅客鉄道の総合職でなく、現業に就職した若菜直。直には鉄道が大好きだった弟がいた。大好きな電車の先頭車両に乗っていて亡くなった病弱な弟のかなわぬ夢は駅員になることだった。1人電車で出かけた弟の死の責任は自分にあると思っていた彼女は、どうしても電車の先頭車両に乗れないのだった。直の職場は東京駅。同期の新人で鉄道オタクの犬塚、新人教育係に任じられた藤原と橋口由香子。助役の松本、副駅長の吉住。国鉄時代を知っているベテランの出雲。クレーマー的な乗客、人身事故、台風による運休や列車の遅延、ストーカー男など、一癖も二癖もある人間関係やアクシデントにもまれながら若菜直が駅員として成長する物語でした。お勧め。若いっていいなと思いました。もう1冊は、芥川龍之介の短編「蜜柑」を美しい挿絵で綴った乙女の本棚シリーズの1冊。蜜柑のストーリーもいいけれど、描かれる場面情景が美しい画集のような1冊。京都造形芸大の日本画コース卒のげみさんというイラストレーターの作品です。彼女は、梶井基次郎さんの「檸檬」でもイラストを担当したようなので、もし図書館にあったらそれも借りたいと思います。美しくて何度も観たくなります。

追記=著者名が間違っていたので、訂正しました。朱野さんが正しいです。今日図書館に「駅物語」を返却し、また朱野帰子さんの「真実への盗聴」を借り、乙女の本棚シリーズを三冊、太宰治の「女生徒」、太宰治の「葉桜と魔笛」、江戸川乱歩の「押絵と旅する男」を借りました。梶井基次郎さんの「檸檬」は取り寄せを頼みました。三浦しをんさんの「あの家に暮らす四人の女」も借りました。返却予定日は4月2日。次男の引っ越しに伴って岡山に行くこともあり、バタバタするけど、細切れの時間を利用して読みます。

追記=著者名が間違っていたので、訂正しました。朱野さんが正しいです。今日図書館に「駅物語」を返却し、また朱野帰子さんの「真実への盗聴」を借り、乙女の本棚シリーズを三冊、太宰治の「女生徒」、太宰治の「葉桜と魔笛」、江戸川乱歩の「押絵と旅する男」を借りました。梶井基次郎さんの「檸檬」は取り寄せを頼みました。三浦しをんさんの「あの家に暮らす四人の女」も借りました。返却予定日は4月2日。次男の引っ越しに伴って岡山に行くこともあり、バタバタするけど、細切れの時間を利用して読みます。
最近、映画化もされた「こんな夜更けにバナナかよ」を読みました。著者は渡辺一史さん。幼い頃筋ジストロフィーを発症した鹿野靖明さんと彼の自立した生活を支える鹿ボラと呼んでいた多くのボランティアの人間模様の物語で、実話です。初版本は2003年に北海道新聞社刊で、私が読んだのは文春文庫でした。自立した生活といっても鹿野さんは身体的介助をしてもらわなければ1日たりとも生きられない状態だったが、自分の欲求にすごく忠実。我慢することなく、身じかに詰めているボランティアたちに次々にやってほしいことを要求する。それが彼の自立した生活なのだった。病院や施設に入って大人しく我慢したり、親の世話になって四六時中負担をかけることはしない。親とは距離をおく。それが彼の自立だった。ボランティアを24時間確保するのは大変だったが、鹿野さんは必死にボランティアをする人を確保する。生に対する意欲、前向きな生き方には圧倒されました。それでも過酷な病状に進んでいくという現実があり、読んだ後、筋ジストロフィーの原因と治療法を調べてみました。遺伝子に作用する薬も開発されているようで、いつかこの病気の進行を食い止められるようになるのを切に願いました。お薦めです。障害者に対する考え方が変わります。
小川糸さんの「キラキラ共和国」を読みました。鎌倉で亡き祖母の後をついで、ツバキ文具店を営みながら代書屋の仕事をしている雨宮鳩子の物語で、ツバキ文具店の続編です。キラキラ共和国では、近所でカフェを営んでいたQPちゃんの父親と結婚した後の鳩子の日常が描かれています。QPちゃんが小学校に入学すると同時に入籍し、守景鳩子になったポッポちゃんは、夏の休暇に3人で蜜朗の故郷の高知に向かい、家族親族から結婚を祝福され、歓待される。また、好立地の店舗が貸し出されたため、蜜朗は、そこで新しくカフェを開くことにして、娘のはるみ(QPちゃん)と鳩子の家で同居することになる。引っ越しの時、亡き妻の日記をさりげなく捨てようとしていた蜜朗の気持ちは、鳩子に対しての心遣いだったが、鳩子はそれが許せなかった。事故にあう日の前日まで書かれていた美雪の日記を読んだ鳩子は、美雪を好ましい人と思い、大切に思うのだった。3人で暮らし始めた鳩子の生活は、忙しくも楽しいものになった。蜜朗は、鳩子のひもになるまいと、新しい店の看板メニューを考案し、店は無事にオープンした。亡き妻、美雪が通り魔に殺されたという心の傷を乗り越え、鳩子ともう一度幸せな人生をスタートしようとする蜜朗。3人は、それぞれの思いを込めて美雪に手紙をつづる。はるみは、手紙を風船につけて飛ばし、鳩子は、ボトルレターにして海に流し、蜜朗は宛先のない手紙を受け取ってくれる漂流郵便局宛てに投函した。また、この物語では、鳩子の生母が突然現れる。自分を捨てた母親を許せず、鳩子は追い返してしまう。ところが後日、ド派手な服装をした鳩子の母親は、密朗の店にも現れたらしい。好きにならなくても、母親は自分の体を作ってくれた人だから、感謝するようにと言われ、鳩子は、その言葉にハッとする。この物語、まだ続編があるかもしれません。鎌倉の風土の中で、丁寧な暮らしぶりが描かれ、鳩子の代書を読むのも楽しい物語。お勧めです。