５時半。外はもうすっかり暗くなりました。村里を夜の闇が包み込みます。障子戸を閉めます。物音はもうなんにも聞こえて来ません。
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気温は１３℃。寒い。しっかり防寒着を着込んで、裏の畑に出ました。キャベツ苗を植えつけました。プランターに種を蒔いていたのが、移植ができるくらいに育って来ました。合計３０株。
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防寒着を着ていたのに寒く感じました。元肥に化学肥料を施しました。１株ずつゆっくりゆっくり丁寧に植え込みました。ホースで水撒きをした後、４時半には作業をストップしました。
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植え付け時期が遅れました。食べられるような大きさになるのは数ヶ月かかりそうです。これだけ寒くなってきましたので、虫の被害も少なくてすむだろうと思っています。
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２月、３月くらいになるとまるまると肥ってくるでしょう。そうしたら収穫です。楽しみです。
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静かな静かな山里に住んでいるお爺さんの楽しみは、まあ、こんなものくらいです。共有してくれる人が居たらいいだろうになとときどき思います。
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ぐずぐずしている。家の中に留まっている。
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雨は止んでいる。日差しが差して来ている。
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外に出ようか。
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うん。
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外に出て何をするかは、外に出てから決めよう。
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なにかしたいことが見つかるだろう。
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椅子に座って、日差しの中の瞑想という手もある。
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あるいは、瞑想に入らずに、ただ嬉しいこと嬉しいこと嬉しいことを考えてもいい。
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にこにこしていれば、自然とそうなるだろう。
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うん。じゃ、そうしよう。
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お爺さん一人をどうするかの問題だし。
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起立！
おや、また雨の音。降り出したようだ。
青空が出たり引っ込んだりしている。どうもヘンだ。
ま、いいけど。
雨の日は干し柿作りができない。吊しても黴が生じてしまうからだ。
皮剥きは延期する。
☆
僕が死ぬ日が来る。まもなく来る。
その日は晴れの日だろうか、雨の日だろうか。
雨の日だとふるさとの山が見えないだろう。寂しいだろう。
晴れたら、ふるさとの野原が見渡せるだろう。
晴れていたらいいな、だったら。
こちらの希望というわけにもいかないだろう、死ぬ日には無条件で死ぬだろうから。
５本指のソックスを履いてみた。指になかなか入らなかった。両手を加勢させてやっと履けた。右左同じ形である。上向きにするか下向きにするかで左右になる。
運動靴を履いて外に出た。畑を一周して来た。戻って来ても、５本指ソックスを脱ぐ気になれなかった。いつもは、どんなに寒い日でも、雪が降っている日でも、家の中では靴下は履かない主義。それを通しているのに。
炬燵の中でも履いている。どうしたんだろう。足に驚かせているつもり？ ヘンだなあどうもヘンだなあと、足が首をかしげているかもしれない。ちょっと変わったことがしてみたかっただけなんだが。
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お爺さんが甘酒麹を１箱買って来て、お婆さんが電気炊飯器で半日掛けて、適温にして、忍耐強く待って、甘酒が完成した。甘い。おいしい。とろとろしている。アルコール分はまだない。冷蔵庫で冷やしている。おやつの時間に、お爺さんはカップに移して、スプーンで啜って飲む。するとご機嫌になる。
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母の母、つまり母の実家の、料理上手のお婆ちゃんが作ってくれていた。冬休みなどに遊びに行くと、これを作って飲ませてくれた。少量だったので、すぐにごくんごくんと飲み干した。もっと欲しいと思ったが、言えなかった。母もこれを受け継いで、甘酒造りが上手だった。弟と二人して、よくねだった。
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おお、おおおお、青空だ。窓から冬の日の青空が見える。雲の合間合間に。朝の７時半、視界が少しずつ明るくなって来た。
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グッドラックが動き出して来た。いいぞーいいぞー。そんな気になる。きっとこの後いいことが続いて来て、吉兆たちが「こんにちは」「お爺さんこんにちは」の挨拶をして来るはずだ。
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お爺さんは元気な声で挨拶を返そう。「やあやあ」「声を掛けてくれて嬉しいよ」「待ってたよ、きみが来るのを」とかなんとか。明るい声の、幾分か高めのトーンで。
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・・・でも僕は、らんらんらんの駆け足でやって来たきみに、愛想よく応対ができるだろうか。きみを満足させる応対ができるだろうか。ちょっと不安になる。なにしろよろよろよぼよぼのお爺さんだから。
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心配はすまい。きっと仲良くできるはず。すべて僕の前に現れるのはangel。僕をよろこばそうとして遣わされて来たangel。姿が見えても見えなくても。全宇宙の愛の実行部隊。
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そんなこんなを空想していたら、いつのまにか青空が消えていた。いまは灰色だ、一面が。いまにも降り出してきそうな気配だ。さ、とりあえず朝ご飯だ。腹も減ってきた。
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檀家寺の草取り奉仕活動は今日じゃなかった。次の日曜だった。こうやって間違って覚えている。家内に訂正された。
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じゃ、干し柿作りをしよう。これなら台所でできる。渋柿を１ネット買ってきている。２４個入り。丹念に皮剥きをしてロープに結んで、２階のベランダの棹に吊す。
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雀たちがたくさん庭先に来ている。飛び回っている。にぎやかに鳴いている。いいなあ、いいなあ。元気いっぱいだ。くず米の餌は昨日雨が上がった後に、どさりと提供しておいた。
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多久の西渓公園の紅葉を見て来ようかな。お殿様の別邸だったところだ、ここは。１時間は掛かるな、車で。ちょうど見頃らしい。新聞に写真が大きく載っていた。何処の紅葉だったおんなじだろうけど。
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何か楽しいことがないかなと思う。何をしていたら楽しいんだろうな。お爺さんだから、楽しむといっても高が知れているけど。結局は畑に出てこそこそこそしていることになる。終わってみると、「ああ、いちにち楽しかった」ということになる。それでいい。
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目白はまだ下りて来ないようだ。山に餌があるんだろう。毎年、蜜柑を半分に切って竹の枝先に刺して提供している。そうだ、竹を切りに山に入ろう。目白が来ると鳴き声を聴いて楽しめる。
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おはようございます。夜が明けました。目覚めたら、活動スタートです。あ、今日は休日だった。家族の者は誰もまだ起き出して来ない。
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長い夜を過ごしました。１１時に目が覚めてしまいました。起きて炬燵の中に入りました。２時になるまでパソコンを開いて遊びました。新しい発見を幾つもしました。
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２時からまたベッドに横になりました。朝方冷え込みがきつくなりました。エアコンを暖房にしました。５時には起き出して来ました。
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いまはまたまたYouTubeでゆっくりめの音楽を聴いています。もうそろそろ７時ですが、外はまだ明け切っていません。雀の声もしていません。
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今日は何をして遊ぼうかな。天気が回復したらいいけどな。予報では寒い北風が吹き荒れそう。だったら、炬燵の守をしておくしかない。
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日差しがもしも出て来たら外に出て行こう。種を蒔いていたキャベツがそろそろ移植をしてもいいほどに成長してきました。裏の畑に出て、これを移植して遊ぼう。殺虫剤を撒いておかないとまた虫の餌食になってしまいそう。
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お爺さんが、１日中、一人でのっそりお爺さんをして過ごすことになりそう。
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あ、今日は檀家寺の草取り奉仕活動の日だったかな。じゃ、参加をしよう。午前中の１時間半ぐらいかな。僕は左足が麻痺しているから、丸椅子に座ってでないとできない。丸椅子も持って行く。
