なんでもおいしい。食べるものがなんでもおいしい。なんとありがたいことだろう。口にするものがほんとにどれもおいしく感じられる。食べる前からそう自己暗示して食べ始めるわけでもないのに。こうだ。食べ終わってこうだ。おいしかった。大根のおひたし。里芋とホウレン草と豆腐の白ぬた。ブロッコリーの蒸しもの。ハツの油炒め。一合の熱燗。デザートにしたサツマイモの焼き芋。不思議にどれもこれもおいしかった。これで今日の夕食も満足した。不平も不満も文句もない。どうしてだか分からない。今夜も引き続き、どうしてこう満足した食事がとれたのか、分からない。
そうだよなあ。働きもしない70才の男が無条件で戴いている食事だもんなあ。ケチを付けられたらどんなにでもケチが付くはずの、食べてはならぬと命令されたって抗弁が出来ないほどの、その無価値な男が価値を与えられて食べている食事だもんなあ。これだけどうしようもない男が、あろうことか、ぬくぬくとして夕食を戴いたんだものなあ。