創元社推理文庫 小鷹信光訳(1992年)
※ 「マローン売り出す」光文社文庫(1987年)に若干訂正を加えタイトル変更
原題 ”Death at Tree” or “Eight Faces at Three”(1939年) Craig Rice
「酔いどれ弁護士マローン」シリーズの第一作
ジェイクは半ば呆れていた。今日はディックが駆け落ちをやらかす日。だが肝心の相手が姿を
見せない。やむなく先方を訪ねてみれば屋敷は警官だらけ、おまけに彼女は殺人容疑で逮捕さ
れたという。陳述が凄かった。事件のあった午前三時に、時計がいっせいに止まった?頭を抱え
たジェイクは旧友のマローンに弁護を依頼するが…。ユーモア・ミステリの名シリーズ、ここ
に開幕。
内容(「BOOK」データベースより)
随分久し振りの再読です。
とは言っても、前に読んだのは大昔。
たまには肩の凝らないミステリーを・・・と思い新たな気持ちで読み直しました。
主な登場人物は、
マローン : 小柄でずんぐり、身なりはだらしなくお酒と美女をこよなく愛する刑事弁護士。
しかし、弁護士としての腕は確かで負けた事が無いと豪語している。
ジェイク : 赤毛で背が高く手足がひょろ長い。この作品の時点では、バンドのリーダー
であるディックのマネージャー。
ヘレン : ブロンドで大富豪の超美人の令嬢。 殺人事件の容疑者となったホリーの友人。
この作品でジェイクと出会い後に結婚することになる。
禁酒法廃止後のシカゴが舞台で当時の時代背景も彷彿とさせられます。
悪夢から目覚めたホリーが時計を確認すると夜中の3時。 何故目覚めたのか、又余りにもリアル
な夢であったので怪訝な面持ちで部屋を出ると 他の部屋のベッドは空、叔母の部屋へ入って見た
物は 椅子に座ったまま凍えた様に亡くなっている叔母だった。
凍える様な寒さの中窓が開いていた。
当時屋敷の中に居たのはホリーだけであった事から 容疑者と見做されたホリーの嫌疑を晴らす為
友人のヘレン、そしてホリーの婚約者で事件に巻き込まれたディックの友人であるジェイクは旧友
である敏腕弁護士のマローンにホリーの弁護を依頼し、自分達で真犯人を探し出そうとドタバタの
捜査を開始することになる。
何といってもキャラクターが濃い。
マローンは所謂天才肌のヒーローでは無く、身なりにも構わず一見風采も上がらない頼りない雰囲
気を漂わせながら、実は弁護士としては超優秀、そして事件の捜査にあたっても鋭い観察眼を持って
いるという意外性のあるオジサンです。
中でもヘレンが魅力的。
青いサテンのパジャマの上に毛皮のコートを羽織っての初登場から この姿のまま事件を追い始める。
これだけでも印象深い富豪の令嬢で美女でありながら、メチャメチャお酒は飲むし、その上飲んだま
ま凍結した道路を猛烈なスピードで車をぶっ飛ばすは・・・
好奇心旺盛でかっとんだヘレンに心を奪われ始めたジェイクと共に推理も行ったり来たりしながら
走り回る。 又マローンもこれぞと言う時に名探偵ばりの鋭い推理で事件を解決していく。
犯人は一体誰か? 何故すべての時計が3時で止まっていたのか?
本格推理としては仕掛け、謎解きがやや物足りない気もするけれど、この作品の魅力は何と言っても
3人のキャラクター。
ヘレンの登場時の様子、その後しっかりドレスアップした時の様子、古き良き時代のハリウッド映画の
ヒロイン登場の様な”華”があってはっきりイメージ出来るのですよ。
外見、服装描写からグレース・ケリーを思い浮かべました。
所が、この3人ときたら もう飲みまくりです。 しょっちゅう浴びるように飲んでます。読んでいる
だけで悪酔いしそうな・・・(笑)
そして随所にちりばめられた3人の掛け合い、やり取り、セリフがオシャレで楽しませてくれますね。
あまり頭を悩ます事も無く まったり楽しむミステリーとして”マローンシリーズ”を再び読み直して
みようかな?と思わせる作品です。
尚、”マロリーシリーズ”として この後に、
「死体は散歩する」
「大はずれ殺人事件」
「大あたり殺人事件」
「暴徒裁判」
「こびと殺人事件」
「素晴らしき犯罪」
「幸運な死体」
「第四の郵便配達夫」
「わが王国は霊柩車」
「マローン御難」
等がありますが、古い作品なので手に入りにくいかも知れません。