知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

引用例の示唆するもの及び目的に反しない流用

2009-12-06 20:38:49 | 特許法29条2項
事件番号 平成21(行ケ)10105
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年11月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明


(ア) すなわち,原告は,引用発明において,外観検査装置で取得された画像は,自動判定のために装置内部で使用される手段にすぎず,不良診断装置に送られる検査結果ではないから,引用発明において,目視検査工程に検査画像を送ることについての示唆はないと主張する。

 確かに,引用発明においては,外観検査装置で取り込まれた画像は,不良診断装置に送られることはない。しかし,引用発明は,前記第2,3(2)アのとおりであり,目視検査場所である不良診断装置とX線式外観検査装置及び光学式外観検査装置が,ローカルエリアネットワークを介して接続されており,このことは,データのネットワークによる転送が当業者にとって周知であり,送信されるデータに画像データも含まれることを考慮するすると,画像のネットワークによる転送を当業者に示唆するものと解され,これを妨げるものとは認められない。したがって,原告の上記主張は,採用することはできない。

・・・

(エ) 原告は,自動検査装置で取り込んだ画像を不良診断装置での目視検査に流用することは,自動検査と目視検査が役割分担のもとで互いに補完し合うことにより検査の効率化を図るという引用発明の目的と整合しないと主張する。

 甲3の記載(【0004】ないし【0007】)によれば,引用発明は,
①プリント板ユニットの実装検査を行う場合,一方式の自動検査装置では全検査項目を検査することは困難であり,真の不良の10倍以上の不良判定(誤判定)をするため,検査装置の不良判定箇所を再度目視で確認し,障害診断を行う必要があること,
②検査装置のテストデータ作成には,工数・品質の面で問題があったことという課題を解決するために発明されたもので,光学式およびX線式の異なる検査装置と,不良箇所を確認・判断する不良診断装置と,得られたデータを一括して管理するサーバとを組み合わせることによって,プリント板ユニット外観検査の合理化および効率化を図るとともに,プリント板ユニットの品質向上を実現できるようにした,プリント板ユニット外観検査システムを提供すること
を目的とするものである。
 そうすると,引用発明において,仮に自動検査装置で取り込んだ画像を不良診断装置での目視検査に流用したとしても,引用発明の目的は達成することができ,そのような流用が,引用発明の目的と整合しないとはいえない。したがって,原告の上記主張は,採用することはできない。

商標法50条2項の規定の証明対象

2009-12-06 20:14:35 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10122
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年11月30日A
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

ア SLC社(被告代理人)とジャス社との間の本件専用使用権設定契約は,平成16年10月30日の期間満了により終了した(当事者間に争いがない)ことに伴い,ベスト社の本件商標についての通常使用権は,その基礎を失い,消滅した。すなわち,本件においては,ジャス社はベスト社に対して,本件専用使用権設定契約の終了前である平成16年9月10日付けで,本件通常使用権を付与したが,ジャス社の本件専用使用権設定契約が平成16年10月30日に期間満了により終了したため,これにより,ベスト社の通常使用権者たる地位は消滅したが,ベスト社は,前記認定のとおりの態様で,本件商標を使用した

 ところで,ベスト社の通常使用権は消滅したのであるから,ベスト社の上記使用が商標法50条2項所定の「通常使用権者」による使用に当たるとするためには,ベスト社が,何らかの取得原因によって本件商標についての通常使用権を得たことを,被告において証明することが必要となる。しかし,本件全証拠によるも,ベスト社が,本件商標についての通常使用権を失った後に,通常使用権を取得した事実を認めることはできない

 したがって,ベスト社が本件商標を継続的に使用したことをもって,通常使用権者の使用がされたとした審決の認定,判断は誤りである。
・・・

3 結論
(1) 商標法50条2項は,登録商標の取消しを免れるためには,被請求人において,「・・・通常使用権者・・・が・・・登録商標の使用をしていること」を証明すべき旨を規定している。

 ところで,法律効果そのものは証明の対象にすることはできないのであって,証明の対象にされるのは,当該法律効果を発生,変更又は消滅等させる根拠となる具体的な要件事実の存在である。
 本件の主たる争点は,本件予告登録がされた平成19年12月14日より前の3年以内の時期に本件商標を使用したベスト社が,本件商標権についての通常使用権者であるか否かであるが,「ベスト社が通常使用権者である」という点は法律効果であるから,それ自体を直接証明の対象にすることはできない。立証の対象にすることができるのは,ベスト社が通常使用権を取得した根拠となった具体的な事実が存在したこと(例えば,それが契約であれば,当該契約が,いつ,どこで,いかなる当事者間で,どのような内容の意思の合致がされたかに係る事実の存在等)である

 本件では,ジャス社の本件専用使用権設定契約は平成16年10月30日に期間満了により終了し,これに伴いベスト社の通常使用権者たる地位も消滅したのであるから,「ベスト社が通常使用権者である」という法律効果を導くためには,その要件に該当する具体的事実の存在することが立証されることが不可欠となる。そのためには,要件事実に該当する具体的事実が何であるかを,主張立証責任を負担する被請求人(被告)に求釈明するなどした上,それが証拠によって裏付けられるかを検討することが必要不可欠となる。

 審決では,通常使用権者としての地位を取得した根拠となる具体的な要件事実がどのようなものであるか,どのような証拠によって裏付けられたかについて審理及び判断をすることなく,直接「ベスト社が通常使用権者である」との結論を導いている点において不備があるというべきである。