知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

オークションの出品カタログへの美術品の画像掲載の判断事例

2009-12-13 18:21:57 | 著作権法
事件番号 平成21(ワ)31480
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成21年11月26日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸


第2 事案の概要
 本件は,絵画等の美術品の著作権者である原告らが,被告においてオークションの出品カタログ等に原告らが著作権を有する美術品の画像を掲載し,また,その一部をインターネットで公開したことにより,原告らの複製権及び原告Aの公衆送信権を侵害したとして,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償の一部として・・・の支払を求めた事案である。

第3 当裁判所の判断
・・・
3 争点1(引用(著作権法32条1項)として適法か)について
 被告は,本件フリーペーパーの綴じ込みカタログ,本件パンフレット及び本件冊子カタログに本件著作物の画像を掲載したことは,いずれも著作権法32条1項の「引用」として適法な行為であると主張する。

 著作権法32条1項は「公表, された著作物は,引用して利用することができる。この場合において,その引用は,公正な慣行に合致するものであり,かつ,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。」と定める。ここにいう引用とは,報道,批評,研究その他の目的で,自己の著作物の中に他人の著作物の全部又は一部を採録することをいうと解され,この引用に当たるというためには,引用を含む著作物の表現形式上,引用して利用する側の著作物と,引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ,かつ,両著作物の間に前者が主,後者が従の関係があると認められる場合でなければならないというべきである(最高裁判所第三小法廷昭和55年3月28日判決参照)。

 前記認定事実のとおり,本件フリーペーパーの綴じ込みカタログ,本件パンフレット及び本件冊子カタログの作品紹介部分は,作者名,作品名,画材及び原寸等の箇条書きがされた文字記載とともに,本件著作物を含む本件オークション出品作品を複製した画像が掲載されたものであったことが認められるものの,この文字記載部分は,資料的事項を箇条書きしたものであるから,著作物と評価できるものとはいえない。
 また,このような上記カタログ等の体裁からすれば,これらのカタログ等が出品作品の絵柄がどのようなものであるかを画像により見る者に伝えるためのものであり,作品の画像のほかに記載されている文字記載部分は作品の資料的な事項にすぎず,その表現も単に事実のみを箇条書きにしたものであることからすれば,これらカタログ等の主たる部分は作品の画像であることは明らかである。本件冊子カタログの作者紹介部分についても,文字記載部分は,単に作者の略歴を記載したものであるから,著作物とはいえず,また,作品の画像が主たる部分であると認められる。

 したがって,本件フリーペーパーの綴じ込みカタログ,本件パンフレット及び本件冊子カタログのいずれについても,本件著作物の掲載が「引用」に該当すると認めることができず,被告の主張は採用することができない。


4 争点2(展示に伴う複製(著作権法47条)として適法か(本件フリーペーパー及び本件パンフレットへの掲載に関して))について
 被告は,本件フリーペーパーの綴じ込みカタログ及び本件パンフレットは,本件オークション又はその下見会で本件著作物を展示するに当たって観覧者に本件著作物を紹介するために作成されたものであって著作権法47条の「小冊子」に該当するので,これに本件著作物の画像を掲載したことは適法な行為であると主張する。

 著作権法47条は,「美術の著作物又は写真の著作物の原作品により,第25条に規定する権利を害することなく,これらの著作物を公に展示する者は,観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする小冊子にこれらの著作物を掲載することができる。」と定める。このように「小冊子」は「観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする」ものであるとされていることからすれば,観覧する者であるか否かにかかわらず多数人に配布するものは,「小冊子」に当たらないと解するのが相当である。

差止請求と損害賠償請求の国際裁判管轄-ウェブサイトによる譲渡の申出についての判断事例-

2009-12-13 11:35:35 | Weblog
事件番号 平成20(ワ)9732
事件名 特許侵害予防等請求事件
裁判年月日 平成21年11月26日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 田中俊次

第4 本案前の争点に関する当裁判所の判断
1 国際裁判管轄の判断基準
 我が国の裁判所に提起された訴訟の被告が,外国に本店を有する外国法人である場合には,当該法人が進んで服する場合のほか日本の裁判権は及ばないのが原則であるが,例外として,被告が我が国と法的関連を有する事件について,我が国の国際裁判管轄を肯定すべき場合のあることは,否定し得ないところである。
 ただし,どのような場合に我が国の国際裁判管轄を肯定すべきかについては,国際的に承認された一般的な準則が存在せず,国際的慣習法の成熟も十分でないため,当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念により条理に従って決定するのが相当である(最高裁判所昭和55年(オ)第130号同56年10月16日第二小法廷判決・民集35巻7号1224頁)。

 そして,我が国の民訴法の規定する裁判籍のいずれかが我が国内にあるときには,原則として,我が国の裁判所に提起された訴訟事件につき,被告を我が国の裁判籍に服させるのが相当であるが,我が国で裁判を行うことが当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があると認められる場合には,我が国の国際裁判管轄を否定すべきである(最高裁判所平成5年(オ)第1660号同9年11月11日第三小法廷判決・民集51巻10号4055頁)。

 本件訴えは,特許権侵害の差止請求(特許法100条1項)と特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)が併合して提起されたものであるから,以下,それぞれの請求について,上記判断基準に従って我が国に国際裁判管轄があるかどうかについて検討することとする。

2 不法行為に基づく損害賠償請求について
(1) 民訴法の規定する裁判籍の有無
ア 原告は,被告の特許権侵害行為(我が国における譲渡の申出)によって本件訴訟の提訴を余儀なくされ,弁護士費用相当の損害を被ったと主張し,同損害は,原告の本店所在地である京都市において発生したとして,民訴法5条9号(不法行為地の裁判籍)により我が国に裁判籍があると主張する。

 ところで,民訴法5条9号の不法行為地の裁判籍の規定に依拠して我が国の国際裁判管轄を肯定するためには,原則として,被告が我が国においてした行為により原告の法益について損害が生じたことの客観的事実が証明されることを要し,かつそれで足りると解される(最高裁判所平成12年(オ)第929号同13年6月8日第二小法廷判決・民集55巻4号727頁)。
 そうすると,我が国において損害が発生したことが証明されるのみでは足りず,不法行為の基礎となる客観的事実として原告が主張する事実,すなわち,本件においては日本国特許権である本件特許権の侵害事実としての,我が国における被告物件の譲渡の申出の事実が証明される必要があるというべきである

 そこで,以下,被告が我が国において被告物件の譲渡の申出をした事実が認められるかどうかについて検討する。・・・

イ ウェブサイトによる譲渡の申出
 原告は,被告が被告のウェブサイトにおいて被告物件の譲渡の申出をしていると主張する。

 たしかに,本件訴え提起時点で閲覧可能な被告のウェブサイト(英語表記)において「Slim ODD Motor」・・・)を紹介するウェブページ(甲4-1-1)が存在し,・・・。
 さらに,被告の日本語表記のウェブサイトにおいても,「Slim ODDMotor」を紹介するウェブページ(甲7)が存在し,・・・。

 しかしながら,上記英語表記のウェブサイトは,被告の製造する製品の一つとして,「Slim ODD Motor」を全世界に向けて紹介するものであり,日本語で表記された「Slim ODD Motor」の販売・製造に関する問合せフォーム(甲7~9)についても,プルダウンの選択次第で様々な製品に変更ができるものであり(乙7の1),品番や具体的な仕様についても何ら示されていない。そうであるから,同フォームが表示されていることをもって,被告物件につき譲渡の申出があったとは認められない
 また,被告のウェブサイトの中には,被告物件のうち一部の品番(DMBSFC06M)が掲載されているページ(甲4-1-2)も過去には存在したが,同ページが英語で表記されていることに加え,同ページには当該品番のモータの定格電流,定格電圧,騒音及び振動が示されているにすぎず,同モータの他の具体的な仕様については何ら示されていないのであり,また問合せフォームにもリンクしていないのであるから,当該品番のモータの一般的な紹介にとどまるというべきであり,同モータについて,我が国において譲渡の申出があったとは認められない

 したがって,被告が,上記ウェブサイトにおいて被告物件の譲渡の申出をしたとは認められない。
・・・

カ 小括
 以上のとおり,本件全証拠をもってしても,被告が我が国において被告物件の譲渡の申出を行った事実を認めるに足りない。
 よって,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求については,被告が我が国において特許権侵害行為をし,同行為により原告の法益について損害が生じたとの客観的事実関係が証明されたものとはいえないから,民訴法5条9号の不法行為地の裁判籍を認めることはできない

2 上記のように,不法行為に基づく損害賠償請求について,我が国に民訴法に規定する裁判籍が認められないのであるから,我が国で裁判を行うことが当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があるかどうかについて判断するまでもなく,同請求について我が国に国際裁判管轄を肯定することはできない。

3 特許権侵害差止請求について
(1) 原告は,特許権侵害差止請求について管轄原因を主張していないが,他方で,本件は日本国特許権の侵害に係る訴訟であり,我が国の裁判所において侵害の有無を判断することが最も適切であると主張し,譲渡の申出のおそれがあるとも主張する。
 たしかに,原告は,日本国特許権である本件特許権に基づいて,我が国における被告物件の譲渡の申出の差止めを求めているのであり,準拠法も本件特許権の登録国法である日本国特許法になると解される(最高裁判所平成12年(受)第580号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁)。したがって,我が国における譲渡の申出の事実が証明されなかった場合であっても,そのおそれを具体的に基礎づける事実(そのおそれが抽象的なおそれでは足りず,具体的なものであることを要するのは当然である)が証明された場合には,条理により,我が国の国際裁判管轄を肯定する余地もある

 しかしながら,前記2(1)で認定・説示したとおり,本件においては,我が国において被告物件の譲渡の申出がなされたとは認められず,また,同認定事実からは,被告が我が国において被告物件の譲渡の申出をする具体的なおそれがあると推認することもできず,他にそのおそれがあることを具体的に認定し得る証拠はない。

(2) よって,特許権侵害の差止請求についても,我が国の国際裁判管轄を肯定することはできない。

<同趣旨の判示>
いずれも平成21年11月26日大阪地方裁判所
平成20(ワ)9736
平成20(ワ)9742