知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

地震ロック分割出願事件-サポート要件の判断事例-

2009-12-20 13:52:19 | 特許法36条6項
事件番号 平成21(行ケ)10272
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年12月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

2 取消事由1(サポート要件違反の判断の誤り)について
( 1) 原告は,審決が本件特許発明(本件特許発明1,3及び4)の「…本件特許発明は,構成要件Dにおける『自由端でない位置』との事項が,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明の範囲を超えるものであり,特許法第36条第6項第1号に定める要件を充たすとは認められないから,本件特許は,同法第123条第1項第4号に該当し,無効にすべきものである。」(16頁12行~16行)と判断したことは誤りである旨主張するので,以下検討する。
・・・

(エ) 上記(ア)~(ウ)によれば・・・。
 本件特許発明においては,その目的を達成するため,内付け地震時ロック装置を開き戸の自由端でない位置に取り付ける等とし(段落【0004】,【課題を解決するための手段】),これにより開き戸の動きが最も大きい自由端でないためロックが確実になるとする(段落【0005】,【発明の効果】)。
 そして,本件特許発明1の特許請求の範囲(請求項1)には「内付け地震時ロック装置を開き戸の自由端でない位置の家具…に取り付け…」と記載されているところ,この「自由端でない位置」に関する記載として,発明の詳細な説明には,・・・と記載され,図5には「ロック装置」の,図6には「T位置」の記載がそれぞれある。

 しかし,図5の「ロック位置」について,上記のとおり「…本発明の方法を示し,…自由端から蝶番側へ離れた位置にロック装置を取り付ける」,「本発明の方法は,…T位置にロック装置を取り付ける…(開き戸(2)の自由端でない位置にロック装置を取り付ける…)。」(段落【0009】)とするが,ロック装置,T位置が自由端からどの程度離れた位置であるかについて,発明の詳細な説明には何らの記載がない。また,本件明細書中には,「自由端」自体についても【発明の詳細な説明】,【図面の簡単な説明】,【符号の説明】等にも一切説明がない

 上記によれば,本件特許発明1の目的は,作動が確実な開き戸の地震時ロック方法を提供するものであり,そのためロック装置を「自由端でない位置」に取り付けるとするものであるところ,自由端は開き戸の動きが最も大きいためこの自由端でない位置にこれを取り付けるとするが,自由端でない位置がいかなる位置であるのかにつき,発明の詳細な説明には何ら具体的な記載がないものである。

 上記のとおり,本件特許発明1では,地震時に自由端に比較して開き戸の動きが小さくなる「開き戸の自由端から蝶番側へ離れた位置」に取り付けを行うとするものであるところ,地震時には自由端において開き戸の動きが最も大きいからロックが確実ではなく,自由端近傍では開き戸の動きが自由端と同様に大きいため,ロックを確実にするためには,一定距離自由端から蝶番側へ離れた位置にロック装置を取り付ける必要があるものと解される。
 しかし,本件特許発明1の特許請求の範囲の「自由端でない位置」につき,どの程度の距離自由端から離れた位置であるのかにつき,発明の詳細な説明には一切記載がないことから,本件特許発明1は,発明の詳細な説明に記載された発明とはいえず,特許法36条6項1号に定める要件(いわゆるサポート要件)を充たさないというほかない

最新の画像もっと見る