知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

「営業秘密」の解釈

2008-10-04 18:00:47 | 不正競争防止法
事件番号 平成19(ワ)27846
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成20年09月30日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

1 本件名簿の営業秘密該当性について
 不正競争防止法2条6項によれば,「『営業秘密』とは,秘密として管理されている生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって,公然と知られていないもの」であり,このうちの「秘密として管理されている」といえるためには,当該情報が客観的に秘密として管理されていると認識することができる状態にあることが必要である

 そこで,本件名簿についてこの秘密管理性の有無を検討すると,本件名簿は,もともと訴外会社において作成,管理され,これが第1売買と第2売買を経て,原告が管理するに至ったものであるから,①訴外会社における秘密管理性,②第1売買の買主であるAにおける秘密管理性,③原告における秘密管理性がそれぞれ問題となり得る

 原告は,訴外会社における本件名簿の管理について,管理者と取扱者を特定の者に固定し,バックアップ用の情報媒体を鍵付きの引出し等に管理し,マル秘指定をして一般従業員のアクセスを制限していたなどと主張する。
 しかしながら,原告は,・・・,原告の上記主張を裏付ける証拠を準備することができなかったものである。

 そして,仮に,訴外会社における秘密管理性が認められたとしても,次に,第1売買の買主であるAにおける秘密管理性が問題となる。・・・
 しかしながら,本件名簿の第1売買の契約書には,このような営業秘密であることを前提とした条項は存在せず,同契約書は,単なる名簿とその機材の売買契約書というほかないものであって,この点は,第2売買の契約書も同様である。このほか,本件名簿がAのもとで営業秘密であることを前提として管理されていたと理解し得るような客観的な証拠はない。

 以上のとおりであるから,本件名簿については,原告のもとで,秘密管理性などの営業秘密の要件を充たしているか否かを検討するまでもなく,原告が本件名簿を取得する以前の時点において,営業秘密としての秘密管理性を充たしていたことの立証がないものというほかない。

商標法50条2項ただし書の「正当な理由」

2008-10-04 17:41:03 | 商標法
事件番号 平成20(行ケ)10160
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官中野哲弘

(2) 正当理由の有無について
ア 商標法50条2項ただし書は,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者が指定商品に登録商標を使用していないとしても,「登録商標の使用をしていないことについて正当な理由」があることを商標権者たる被請求人が明らかにしたときには,登録商標は取り消されない旨を規定する。
 ここでいう「正当な理由」とは,法的な規制によって商品を製造販売することができなかったとか,天災によって商品を製造販売することができなかったなど,商標権者等の責めに帰することができない事情によって審判請求の予告登録前3年以内に登録商標を使用することができなかった場合をいうものと解される

動機付けを欠くとされた事例

2008-10-04 17:27:39 | 特許法29条2項
事件番号 平成19(行ケ)10238
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

ア 既に認定したとおり,引用発明は,平面と角部との接触や,傾斜面を対称にするなどの本願補正発明と類似の構成のほかに,傾斜面部3a,3bの傾斜角度を40°~80°とすることにより蓋傾斜面部10a,10bと傾斜面部3a,3bとが相互に一方が他方に食い込むような楔効果を生じさせるものであり,この楔効果は本願補正発明にはみられない引用発明独自の効果である。換言すれば,引用発明は本願補正発明とは異なる上記構成を採用することにより,側溝躯体1側の接合面と側溝蓋8側の接合面との間の誤差を吸収するという発明の目的を達成しているものである。

 そうすると,引用発明においては更に側溝蓋8の斜め移動を可能として自動調心作用を働かせる必要はなく,引用発明における「微小間隙G1」を拡げて蓋板の平行移動及び斜め移動を許容するものとする動機付けは存在しない

審判段階での周知例の提示を認めた事例

2008-10-04 17:18:35 | 特許法29条2項
事件番号 平成20(行ケ)10114
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

5 取消事由4(審判手続の法令違反)について
(1) 原告は,審決が,甲2に基づき
「・・・」を周知技術1として(6頁5行~7行),
「・・・」を周知技術2として(6頁23行~26行),
「・・・」を周知技術3として(6頁末行~7頁2行),
それぞれ認定し,これにより,相違点2に係る本願補正発明の構成を引用発明に採用することは当業者が容易に想到し得るものであると判断し,本願発明についても同様の理由で当業者が容易に発明をすることができたものであるとしたところ,拒絶理由通知や拒絶査定においては,甲2及びそのような周知技術の内容については何ら言及されていないから,改正前特許法159条2項で準用する同法50条の規定に反する違法があると主張する


( 2)ア拒絶理由通知書(平成15年11月27日付け,甲4)によれば,・・・,請求項1についての備考欄には「BB遊技は周知であり,組み合わせることは容易である」と記載し,請求項2-4の備考欄には「遊技状況を遊技者に報知することは従来より行われていること(例えば文献4〔判決注:本訴甲11〕)で,必要に応じて適宜なし得ることである」と記載した。

 なお,原告はその後提出した意見書(平成16年1月28日付け,甲5)において,「確かに,BB遊技は周知の技術です。」として,BB遊技が周知であることを認めている(3頁29行~30行)。

イ 一方,拒絶査定(・・・)では,本件出願にかかる発明(・・・)につき拒絶理由通知書(甲4)の拒絶理由1,2により拒絶すべきものであるとし,備考として「遊技状態としてどのようなものを設けるか(BB,CTなど),そしてどのように各ゲームに移行するのかは,『ゲームのルール』である。ゲームのルールは適宜決定すればよいことであって,技術的進歩性とは無関係である。そして,本願請求項の効果も遊技上の効果でしかない。」とした。

ウ 上記ア,イによれば,拒絶査定において,特許庁審査官は本件出願に係る発明と引用発明との間の「遊技状態(BB,CT)」及び「各ゲームに移行する条件」に係る相違点については,いずれも当業者において適宜決定し得ることであると判断したものと認められる

エ そうすると,上記拒絶査定における
①「遊技状態としてどのようなものを設けるか(BB,CTなど)」については,審決の認定した相違点1(・・・)に係るものであり,また同じく
②「各ゲームに移行する条件」とは,審決の認定した相違点2(・・・)に係るものであり,審決は,この相違点1,2につき,甲2に記載された周知技術に基づいて容易に想到し得ると判断したものである。

 上記の検討によれば,拒絶査定において示された理由と審決が示した理由とでは実質的に異なる点はないというべきである。

請求項に積極的な特定のない事項の認定事例

2008-10-04 16:53:29 | 特許法29条2項
事件番号 平成19(行ケ)10311
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

4 取消事由3(相違点の看過)について
 原告は,本願発明においては,ファンネルのシール部の厚さは変化せず一定であるのに対し,引用発明においては,ガラスファンネルの肉厚は場所により変化しており,本願発明と引用発明との間には,ファンネルの幅の変化に関して相違点があるにも拘わらず,審決はこの相違点を看過したと主張し,本願発明のファンネルのシール部の厚さが一定であることの根拠として,①特許請求の範囲の請求項1において,パネル側壁シール部の幅の変化の記載はあるが,ファンネルの幅の変化の記載はないこと,②本願明細書には「本発明による新しい管では,従って,図6に示されるように,パネルのシール部はパネルの辺L及びSに沿って最も広く,図7に示されるように,パネルの隅において最も狭い。」(段落【0008】)と記載され,ファンネルの幅は,パネルの辺L及びSに対応する箇所(図6)においても,パネルの隅に対応する箇所(図7)においても同じであること,を挙げている

 しかしながら,本願明細書にはファンネルのシール部の幅が一定でないものを本願発明から除外するような記載はなく,特許請求の範囲の請求項1においてファンネルのシール部の厚さが特定されていない以上,本願発明は,ファンネルの幅が一定であるもの及び一定でないものの両方を含むものと解するのが相当であり,上記①,②の点はいずれもこの認定を左右するに足りるものではない。

全く異なる数値について設計事項と認定した事例

2008-10-04 16:48:27 | 特許法29条2項
事件番号 平成19(行ケ)10311
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

(5) 原告は,引用発明において,ガラスパネルのコーナにおけるウォール部の肉厚を66.67%の減少ではなく,「5%乃至17%」だけ少ないように構成することは,両者の減少割合があまりにもかけ離れているから単なる設計事項であるとはいえないし,引用発明においては,機械的強度を考慮した上で肉厚を66.67%減少させるとの構成を採用したのであるから,それをわざわざ「5%乃至17%」の減少へと厚さを増大させることは当業者にとって容易ではないと主張する。

 しかしながら,前記のとおり,引用発明は,実施例のものに限定されず,当業者が,ガラス耐圧強度を確保し得る範囲で,各コーナの肉厚を長辺及び短辺のそれに比し,どの程度薄くするかを適宜選択して実施し得るものである

 そして,引用例の「・・・」(・・・)との記載によれば,・・・と認められるところ,このことからすれば,引用発明において,機械的強度を確保し得る範囲での,各コーナの肉厚の長辺及び短辺の中央部肉厚に対する比の値(・・・。)は,有効径の大きさ及び基準となるウォール部の辺中央部の肉厚をどの程度のものとするかにより変化するといえるから,上記の66.67%という数値も,一定の条件の下における機械的強度を確保し得る数値という以上に格別の技術的意義はないものと認めるのが相当である。

 そうすると,有効径の大きさ及びウォール部の辺中央部の肉厚をどの程度のものとするかという前提条件を離れて,66.67%の減少と「5%乃至17%」の減少という数値のみを比較し,両者があまりにもかけ離れているというにすぎない原告の主張は,引用発明のガラスパネルのウォール部のコーナの肉厚を5%ないし17%だけ少ないように構成することが設計事項にすぎないとした審決の判断に対する的確な反論とはなり得ないというべきである。

 また,上記の実施例における66.67%という数値の技術的意義に照らすならば,原告の,引用発明においては機械的強度を考慮した上で肉厚を66.67%減少させるとの構成を採用したのであるから,それをわざわざ「5%乃至17%」の減少へと厚さを増大させることは当業者にとって容易ではないとする主張も,同様に理由がないというべきである。