知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

サポート要件の判断事例

2008-10-18 10:51:02 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10367
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年10月16日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

(エ) 以上によれば,詳細な説明は,本件特許発明1において,光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し,コーティングした後,乾燥させ,固化させる温度を「80℃以下」と規定していることと,これにより得られる効果との関係の技術的意義について,具体例を欠くものであり,また,具体例の開示がなくとも当業者が理解できる程度に記載されているということもできない。したがって,本件特許発明1は,詳細な説明に記載されたものであるということができないものというべきである

オ まとめ
 以上検討したところによれば,詳細な説明には,本件特許発明1における「光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し,コーティングした後,80℃以下で乾燥させ,固化させて得たことを特徴とする」との構成のうち,「80℃以下で乾燥させ,固化させて得た」との部分に対応する記載があるとは認められない。

 そうすると,本件特許発明1についての特許がサポート要件を満たしていないとした審決の判断は,その結論において相当であり,理由(1)アに係る認定判断の誤りをいう原告ら主張は理由がない

(所感)
 サポート要件に違背する場合には、同時に、発明の詳細な説明の記載が請求項に係る発明を実施できる程度に記載されていない(実施できない部分を含む)と言えるように思われる。どちら(あるいは両方)が指摘されるかは事案に鑑み判断されると言うことになるように思われる。

 一部が実施できない場合は、サポート要件違背が指摘されることが多いのかもしれない。

技術思想としての異同

2008-10-18 10:50:14 | 特許法29条2項
事件番号 平成20(行ケ)10008
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年10月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

ウ 審決認定に係る周知例の粗面と本件技術に係る断面鋸刃状の形状を有する傾斜面との異同
 上記アに認定説示したとおり,本件技術に係る断面鋸刃状の形状を有する傾斜面は,導光板の傾斜面を断面鋸刃状とすることにより入射光を散乱させるものであるから,その粗面としての性状の限度で技術的意義が認められるのであり,本願明細書には本件技術が持つそれ以上の技術的思想の開示はなく,また,本件技術自体から原告ら主張の技術的思想が自明であるとも認められないのであるから,結局,本件技術の持つ技術的思想は,上記イに認定説示したところの光の入射面を粗面化することにより入射光を散乱ないし散光させて輝度を高めるという周知の技術的思想と同一であるといわざるを得ない。

エ 以上によれば,本件技術において採用した導光板の傾斜面を断面鋸刃状と特定したことに入射光を散乱(散光)させるための粗面化という以上の技術的意義が認められない以上,粗面化の一形状として断面鋸刃状とすることは,審決認定の周知技術2に基づいて,当業者が適宜その形状を選択・採用し得る程度のものといわざるを得ないから,この意味において,審決の認定判断に誤りがあるということはできない。

(所感)
 技術思想として同じものの中から一つの態様を選択することは設計事項(適宜選択・採用し得る程度のもの)ということになるのだろう。
 また、発明は、技術思想(の創作)であるから、発明の対比は、発明特定事項の表面的記載ではなくその意味する技術思想を比較・検討することになるだろう。