知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

大きく離れた数値の技術的意義の検討して設計事項を認定した事例

2008-10-29 07:01:51 | 特許法29条2項
事件番号 平成19(行ケ)10311
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

(5) 原告は,引用発明において,ガラスパネルのコーナにおけるウォール部の肉厚を66.67%の減少ではなく,「5%乃至17%」だけ少ないように構成することは,両者の減少割合があまりにもかけ離れているから単なる設計事項であるとはいえないし,引用発明においては,機械的強度を考慮した上で肉厚を66.67%減少させるとの構成を採用したのであるから,それをわざわざ「5%乃至17%」の減少へと厚さを増大させることは当業者にとって容易ではないと主張する

 しかしながら,前記のとおり,引用発明は,実施例のものに限定されず,当業者が,ガラス耐圧強度を確保し得る範囲で,各コーナの肉厚を長辺及び短辺のそれに比し,どの程度薄くするかを適宜選択して実施し得るものである

 そして,引用例の「ガラスパネルのフェースプレート面のフラット化や大型化の開発が進むにつれ,外囲器全体にかかる真空ストレスが大きくなり,耐圧や防爆に対する強度の面から,ガラス肉厚は増加していく傾向にある。」(甲1の2頁1欄17行~21行)との記載によれば,引用発明の陰極線管外囲器のガラス耐圧強度は,フェースプレートの有効径の大きさやガラスパネルのウォール部の肉厚(幅)により変化するものと認められるところ,このことからすれば,引用発明において,機械的強度を確保し得る範囲での,各コーナの肉厚の長辺及び短辺の中央部肉厚に対する比の値(・・・)は,有効径の大きさ及び基準となるウォール部の辺中央部の肉厚をどの程度のものとするかにより変化するといえるから,上記の66.67%という数値も,一定の条件の下における機械的強度を確保し得る数値という以上に格別の技術的意義はないものと認めるのが相当である。

 そうすると,有効径の大きさ及びウォール部の辺中央部の肉厚をどの程度のものとするかという前提条件を離れて,66.67%の減少と「5%乃至17%」の減少という数値のみを比較し,両者があまりにもかけ離れているというにすぎない原告の主張は,引用発明のガラスパネルのウォール部のコーナの肉厚を5%ないし17%だけ少ないように構成することが設計事項にすぎないとした審決の判断に対する的確な反論とはなり得ないというべきである。

 また,上記の実施例における66.67%という数値の技術的意義に照らすならば,原告の,引用発明においては機械的強度を考慮した上で肉厚を66.67%減少させるとの構成を採用したのであるから,それをわざわざ「5%乃至17%」の減少へと厚さを増大させることは当業者にとって容易ではないとする主張も,同様に理由がないというべきである。