知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

無効の抗弁を覆す対抗主張が2度に渡り撤回された場合

2008-10-13 09:36:42 | 特許法104条の3
事件番号 平成19(ワ)2980
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成20年10月09日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 田中俊次

(3) 特許権者による訂正審判請求 は,特許法その他の法令上,その回数や期間に制限が設けられているわけではない(ただし,特許法126条2項参照)。
 他方,特許権侵害訴訟において当該特許が特許無効審判により無効とされるべきものと認められるときは,特許権者は,相手方に対しその権利を行使することができないとされているところ(特許法104条の3第1項の抗弁),訂正審判請求がされ,同訂正審判請求が訂正要件を満たす場合において,それによって当該特許の無効理由が解消すると認められれば,当該特許が「特許無効審判により無効にされるべきものと認められるとき」には当たらないことになるので,特許法104条の3第1項の抗弁は認められないことになる(訂正の再抗弁)。

 ところで,特許権侵害訴訟において,特許無効審判手続による無効審決の確定を要せず,特許法104条の3第1項の抗弁(以下「無効主張」という。)をもって,特許権に基づく権利行使の制限を認めているのは,特許権の侵害に係る紛争をできる限り特許権侵害訴訟の手続内で,迅速に解決することを図ったものであると解される。
 そして,同条2項の規定が,同条1項の規定による攻撃防御方法が審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められるときは,裁判所はこれを却下することができるとしている趣旨は,無効主張について審理,判断することによって訴訟遅延が生ずることを防ぐためであると解される


 このような同条2項の規定の趣旨に照らすと,無効主張のみならず,無効主張を否定し,又は覆す主張(以下「対抗主張」という。)も却下の対象となり,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を理由とする無効主張に対する対抗主張も,審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められれば,却下されることになるというべきである(最高裁平成20年4月24日第一小法廷判決・裁判所時報1458号153頁・民集62巻5号登載予定参照)。

 もっとも,本件においては,上記2回にわたる対抗主張が撤回された後,新たに具体的な対抗主張がされたわけではないので,それが時機に後れた攻撃防御方法として却下することができるか否か問題となるのではなく,そのような対抗主張をさせるために口頭弁論期日を続行すべきか否かの訴訟指揮の在り方が問題とされているものである。


(4) 本件訴訟の前記経過によれば,・・・,原告は,平成20年7月14日の第9回口頭弁論期日において,同審判請求を取り下げる予定であると述べるとともに,同審判請求が認められることを前提とした対抗主張をすべて撤回したものである。そして,同期日において,原告は,今後行うべき訂正審判請求の具体的内容を明らかにせず,したがって,本件訴訟において審理の対象となるべき上記審判請求に対応する訂正主張が,訂正要件を満たし,同訂正が認められれば本件特許の無効理由が解消し,かつ,訂正後の特許請求の範囲によっても,被告方法が本件特許発明の技術的範囲に属するなど,同審判請求に対応する対抗主張の具体的内容を明らかにしなかったものである。

 このように,原告は,2度にわたり訂正審判請求を行い,その都度,当裁判所は,原告の対抗主張を許容し,被告に対して原告の対抗主張に対する反論を行うよう促し,被告もこれに応じて詳細な反論をし,議論が尽くされてきたものであって,当裁判所としては,第9回口頭弁論期日において被告から予定されていた反論(原クレームに係る対抗主張に対する反論)がなされれば,双方の主張立証は尽くされ,第2次訂正審判請求に係る対抗主張の成否を含め,本件について判決をするのに熟するとの心証を得ていたものである。

 上記のとおり,被告は,2度にわたる原告の対抗主張に対してその都度具体的な反論を行っていたものであり,原告が上記期日に至って第2次訂正審判請求に基づく対抗主張をすべて撤回した上,さらに口頭弁論期日を続行して,続行期日以降に新たな対抗主張をすることを許すことは,本件訴訟の審理を不当に遅延させるものになるとともに,被告に過度の応訴負担を負わせるものというべきである。

 上記のとおり,第9回口頭弁論期日の段階では,原告が第2次訂正審判請求が成り立たない旨の審決を受けて間がなかったことから,未だ原告が意図する訂正審判請求及びこれに対応する対抗主張の具体的内容が明らかではなかった上,上記審決の主たる理由が,本件分割出願自体が改正前44条1項に規定する適法な分割出願とはいうことはできないということにあり(甲81) この判断には首肯すべきところがあることに照らすと,今後予想される原告による訂正審判請求(第3次訂正審判請求等)が容易に認められるとはいい難い状況にあるといわざるを得ない

 以上の事情にかんがみれば,当裁判所としては,上記口頭弁論期日をもって,本件について判決するのに熟したものと判断し,さらに口頭弁論期日を続行することなく弁論を終結する措置を執った次第である。