知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

相違点の技術分野と共通しない分野の引用例(技術分野の同一性)

2007-01-29 07:27:56 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10252
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月23日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 中野哲弘

『原告は,「刊行物に記載された発明」とは,刊行物に記載されている事項及び記載されているに等しい事項から当業者が把握できる発明をいうのであり,刊行物が出願公開公報である場合には,出願された発明だけに限られるものではなく,例えば,従来例の欄に記載されている技術的事項も記載されている発明であるから,甲4公報におけるカチオン硬化タイプの紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤も,「刊行物に記載された発明」に該当すると主張する。
 確かに,刊行物が出願公開公報である場合に,「刊行物に記載された発明」が出願された発明だけに限られるものでないことは原告主張のとおりである。しかし,上記のとおり,甲4公報において,カチオン硬化タイプの紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤は,それ自体が何らかの技術的課題を解決するとして開示されているわけではない上に,これを,本件発明1が解決しようとする技術的課題の解決のために採用することについて何らの示唆もないのであるから,本件発明1の前記相違点3に係る構成が当業者に容易に想到できたものであることの論理付けに用いることはできない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。』

『次に原告は,液晶表示装置に用いられている技術は有機エレクトロルミネッセンス表示装置にもそのまま応用されており,両者は極めて共通性の高い技術分野であると主張する。
しかし,液晶表示装置と有機エレクトロルミネッセンス表示装置とに共通して利用できる技術があるとしても,本件発明1の前記相違点3に係る構成の容易想到性を判断するに当たっては,有機エレクトロルミネッセンス表示装置と液晶表示装置とは,技術分野を共通にするということはできない。なぜなら,本件発明1の前記相違点3に係る構成によって解決しようとした技術的課題は,前記のとおり,有機エレクトロルミネッセンス素子の化学変化を生じないような接着剤の選択であるところ,かかる観点からの接着剤の選択は,有機物である有機エレクトロルミネッセンス素子の場合と,無機物である液晶素子との場合では,接着剤の化学的組成等の点において大きく異なるものと解されるからである。』

構成と効果の関係を適切に評価していない審決

2007-01-29 07:04:31 | 特許法29条2項
事件番号 平成17(行ケ)10325
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月18日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 塚原朋一

『 審決は,構成要件(A)(B)を備えることにより,構成要件(C)(E)(G)(H)等の手段,手順を採用することが可能となり,それに伴い,トンネル切羽断面上の全作業基準点が直接照射されるため,正確なマーキングを行うことが可能になって,余掘り・アタリを大幅に減少させることができるとの格段の作用効果を奏すると判断している。
しかしながら,構成要件(A)についての審決の判断が誤りであることは前記判示のとおりである。また,審決は,本件発明と甲1発明との一致点については明示的に認定しておらず,相違点についても「少なくとも以下の点で相違している」としているのみで,構成要件(B)(D)(F)(G)(H)(I)については前提となる対比判断をしないまま,本件発明の作用効果として(G)(H)に言及して判断をしている。審決が認定した作用効果は,トンネル切羽断面上の全作業基準点を直接照射することから生ずるものであり,主として構成要件(F)(G)(H)に関する事項であるが,審決は,これらの構成要件について甲1発明などとの対比判断をしていない。このように,対比判断を行っていない構成要件に基づいて,格段の作用効果があるとして,本件発明の進歩性を否定できないとした審決には結論に影響を及ぼす誤りがあるというべきである。』