知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

職務発明の支払時期の規定がない場合の消滅時効の起算点

2007-01-25 06:52:03 | Weblog
事件番号 平成18(ワ)18196
事件名 補償金請求事件
裁判年月日 平成19年01月17日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 市川正巳

「1 消滅時効の成否について
(1) 消滅時効の起算点
ア 契約,勤務規則等によって職務発明について特許を受ける権利を使用者に承継させた場合,従業者は,対価の支払時期が契約,勤務規則等に定められていない限り,直ちに相当の対価の支払を請求することができるから,上記特許を受ける権利を承継させた時期が相当の対価についての消滅時効の起算点となる。
イ 前提事実(4)イ及びウのとおり,原告は,被告に対し,本件特許発明1及び3に係る特許を受ける権利を,それぞれ昭和62年4月1日及び平成4年2月18日に譲渡したものであり,仮に,原告が本件特許発明2の発明者であるとしても,原告は,遅くとも昭和63年3月2日までに本件特許発明2に係る特許を受ける権利が被告に譲渡された旨主張している。
ウ したがって,時効期間を5年と解した場合はもちろん,10年と解した場合であっても,相当の対価の支払時期を定めた契約,勤務規則等が存在しない限り,本件各特許発明についての相当対価の請求権は,時効消滅したものとなる。」

「(2) 原告の平成16年規程に基づく主位的主張について
ア原告は,主位的に,平成16年規程が原告に適用されることにより,被告は消滅時効を援用し得ない旨主張する。・・・
(エ) これらの事情を総合的に考慮すると,平成16年規程においてその実施前に行われた発明の取扱いに関する規定等が設けられていないことをもって,同規程が施行前の発明にも適用される趣旨であるとは解することは到底できず,同規程は,同規程施行後の発明に適用されるべきものと認めるべきである。
したがって,被告は,平成16年規程の制定により時効利益を放棄したものではないし,被告による消滅時効の援用が権利濫用に当たることもないから,原告の主位的主張は理由がない。」

「(3) 原告の本件就業規則58条に基づく予備的主張について
ア 原告は,予備的に,本件就業規則58条をもって職務発明についての規定と見るべきところ,特許として登録されるか否かが判明しない限り「業務上有益なる発明」に当たるか否かの判断ができないから,消滅時効は完成していない旨主張する。
イ 前提事実(5)イのとおり,本件就業規則58条において,「業務上有益なる発明」は,「永年誠実に勤続した者」又は「業務上有益なる…改良又は工夫,考案をなしたる者」などと同列のものとして位置付けられ,表彰対象として挙げられている。
 また,表彰の方式は,賞金の授与のほか,賞状又は賞品の授与とされている(同規則59条)。しかも,発明に係る特許を受ける権利等の譲渡は,表彰の要件とはされていない。
 また,上記「業務上有益なる発明」であるか否かは,その発明が特許を受けられることと必ずしも同義ではない。
 さらに,前提事実(5)イのとおり,本件就業規則第11章は,平成16年規程の施行後も,変更されることなく存続している。
 これらの事情によれば,本件就業規則58条は,恩典的な表彰について定めたものであるにとどまり,同条をもって,職務発明の取扱いに関する規定と解することはできないというべきである。」

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