知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

動機付けはあるが具体的適用が困難である事例

2008-11-09 11:56:38 | 特許法29条2項
事件番号 平成19(行ケ)10283
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年10月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義


(2) 容易想到性についての検討
 前項の技術状況によれば,本件優先権主張日(平成5年9月17日)当時,2つの部材の電気的接続を図るための機械的接合方法を検討するに当たり,カシメ接合の方法を想到することは当業者にとって格別困難なことではないものといって差し支えない。そして,カシメ接合を検討する上においては,接合の強固性等を確保するために両部材の接合面の広さの確保が重要な考慮要素となることも,両部材を重ね合わせて加圧するというカシメ技術の性格上当然のことというべきである。

 そこで,これを引用発明についてみると,同発明の接合部材である「1対の針状端子」の形状は「針状」と規定されている。一般に「針」とは,「縫い,刺し,引っ掛け,液を注ぎなどするのに用いる,細長くとがった道具の総称。縫針・待針・留針・注射針・釣針・レコード針など,用途に応じてきわめて種類が多い。・・・」(1991(平成3)年11月15日株式会社岩波書店発行の「広辞苑第四版」2106頁)とされていることからみると,「針状」とは「細長くとがった」状態となっていることを意味するものというべきである。また,引用発明に係る刊行物1(甲第1号証)には,「この絶縁材層3の本体部3aの厚さは,発光ダイオード2の針状端子2a,2a間の間隔が通常0.1インチ(2.54mm)であることから,2~2.5mmとされている。」旨の記載があり,この記載によれば,引用発明に係る発光ダイオードの針状端子は,直径1mmに満たない程度の細長い「針」のような形状になっているものと解することができる

 そうすると,上記のような引用発明に係る「針状端子」の形状をそのままに,カシメ接合面を確保した上,カシメ接合することは困難であるといわざるを得ない。この点に関し,審決は,「リードの幅は,機械的接続を行うに当たって必要な幅に設計上決めることである」とするが,本件全証拠を精査しても,発光ダイオードの「針状端子」(リード)を,必要とする適宜な幅にすることを容易に行い得ることを認めるに足りる証拠はない。

 以上によれば,引用発明の「1対の針状端子2a,2a」に接した当業者が,本件発明の相違点2に係る構成を容易に想到し得たと認めることはできないというべきであるから,取消事由3は理由がある。

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