知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

抽象的な記載を硬直的に認定したとされた事例

2012-05-20 22:24:02 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(行ケ)10091
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年05月07日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

 ・・・,甲1発明を主引用例とした場合の相違点を判断するに際し,審決は,・・・として,甲2の記載からは開環型の形態とすることについて何らの示唆がされているとすることはできないとした。この判断において,審決は,CI-981半カルシウム塩がラクトン体に比べて有利な化合物であり,そのことは本件発明において見出されたとの事実を前提としたものと解される。

2 ここで本件発明1におけるCI-981半カルシウム塩に関して,本件明細書(甲19)には,以下のように記載されている。
 ・・・
 このように,本件明細書には,CI-981半カルシウム塩が「もっとも好ましい化合物」として記載されている。そして,他にも,CI-981半カルシウム塩が有利な化合物であるかについての本件明細書の記載として,「特に重要な化合物」(第10欄39~43行)であり,「もっとも好ましい活性な化学成分」(第19欄44~46行)であるという抽象的な記載があるものの,開環型であるCI-981半カルシウム塩とラクトン型とを比較して,開環型の方が何らかの有利な効果を有するものであることを具体的に明らかにしているわけではなく,逆に「実際に,塩形態の使用は,酸またはラクトン形態の使用に等しい。」(第16欄3~4行)との記載もあるところである。

3 次に,甲2は,・・・特許公開公報であるが,そこには,以下の事項が記載されている。
・・・
 上記(ア)のとおり,甲2の特許請求の範囲の請求項6には,本件発明1のCI-981半カルシウム塩に相当する化合物である・・・が記載されている。上記(イ),(エ),(オ)には,甲2に示される化合物,すなわち上記(ウ)に記載される化合物が,血中コレステロールを低下させる,高コレステロール血症の治療剤として有用であり,上記(キ)には製剤化され,経口投与されることも記載されている。
 上記(オ)には,甲2に示される化合物について,まず塩の製造方法が記載され,塩形態の使用は,酸またはラクトン形態の使用に等しいことが記載され,・・・。そしてCI-981半カルシウム塩に該当する化合物が「最も好ましい態様」であることが記載されている

4 そうすると,審決が判断の前提としたように,CI-981半カルシウム塩がラクトン体に比べて有利な化合物であり,そのことは本件発明において見出された,と評価することはできないのであり,本件発明1は,単に「最も好ましい態様」としてCI-981半カルシウム塩を安定化するものと認めるべきである
 したがって,甲1発明との相違点判断の前提として審決がした開環ヒドロキシカルボン酸の形態におけるCI-981半カルシウム塩についての認定は,本件発明1においても,また甲2に記載された技術的事項においても,硬直にすぎるということができる。この形態において本件発明1と甲2に記載された技術的事項は実質的に相違するものではなく,この技術的事項を,甲1発明との相違点に関する本件発明1の構成を適用することの可否について前提とした審決の認定は誤りであって,甲1発明との相違点の容易想到性判断の前提において,結論に影響する認定の誤りがあるというべきである。

最新の画像もっと見る