知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

阻害要因を認めた事例

2007-09-21 08:39:18 | 特許法29条2項
事件番号 平成19(行ケ)10007
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年09月12日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『・・・
 しかし,セパレータとしてカーボングラファイト製のものが周知慣用であり,作業性に関する課題が「金属製」のものと共通であるとしても,引用発明が射出成形手段を前提とするものである以上,引用発明におけるセパレータをカーボングラファイトに代えることには,次のとおり阻害要因があったというべきである。この点を詳細に述べる。

3 容易想到性の判断について
(1) 以上の各記載を総合すると,カーボン材は脆く機械的強度が低いため,カーボンからなる燃料電池用セパレータは,破損し易いものであるために,加工コストが高くなるとともに量産が困難であると認識されていたといえる
そして,引用発明のセパレータは,厚さ0.3mm程度の金属材料を使用し,それに対して射出成形を施すことを前提とし,その条件も「300kgf/cm2」といった高圧で射出材料が金型内に射出されるものであること,他方,カーボンからなる燃料電池用セパレータは,破損し易いものであると認識されていたことからすれば,当業者にとって,カーボン材からなる「カーボングラファイト」を射出成形装置に適用した場合には,カーボン材が有する機械的な脆弱性によって破損するおそれが大きいと予測されていたものと解される
 したがって,引用発明の射出成形による成形一体化工程において,金属製セパレータに代えてカーボングラファイト製セパレータを射出成形装置に適用することには,技術的な阻害要因があったというべきである
・・・

(3) 被告は,乙5,6からカーボン系のセパレータに液状シリコーンゴムを射出成形し,セパレータに一体的にゴムパッキンを形成する技術は,本願出願以前に検討されていたものであり,被告自身も本願出願以前に実施していたなどと主張する
 しかし,乙5,6はいずれも本件特許の出願日の後に公開されたものであり,同各証拠の記載内容によっては,本件各訂正発明の容易想到性の判断,すなわち前記阻害要因があるとする判断を覆すに足りる証拠となるものとはいえない。また,被告の実施が本願出願以前から実施していたとしても,これをもって上記判断を左右するものではない。よって,被告の上記主張は採用できない。』

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