知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

審理終結通知の送達後の補正

2010-06-30 06:38:41 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10409
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年06月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

第3 当事者の主張
1 請求原因

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ア 取消事由1(本願商標の指定商品認定の誤り)
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 そして,商標法は,補正をすることができる時期に関し,商標登録出願をした者は,事件が審査,登録異議の申立についての審理,審判又は再審に係属している場合に限り,その補正をすることができる旨を規定しているところ(商標法68条の40第1項),本件補正は,上記のとおり,審決が原告に送達される平成21年11月17日以前である同年10月23日,すなわち不服審判係属中になされているから,適法な補正である
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 そして,本件では,平成21年8月20日の不服審判請求からわずか2か月後の同年10月20日に審理終結通知が送達されており,異例の速さで審理が終結されたといえること,審理終結通知は請求人(原告)に何ら予告もなく行われるものであり,本件もその例外ではなかったこと,このような経緯でなされた審理終結通知に対し,同通知到達から3日後に本件補正がなされていることからすれば,本件補正は補正にかかる手間と時間をいたずらに増加させて事件の処理能力の低下を招くものではなく,審査の大幅な遅延を招くようなものでもない。加えて,本件は,登録により公知になった事項を変更することにより法的安定性が害される場合にも当たらない。したがって,本件補正は,商標法68条の40第1項の趣旨に反するものではなく,実質的にも同条項による適法な補正である。


第4 当裁判所の判断
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2 取消事由1(本願商標の指定商品認定の誤り)について
 商標法68条の40第1項によれば,商標登録出願,防護標章登録出願,請求その他商標登録又は防護標章登録に関する手続をした者は,事件が審査,登録異議の申立てについての審理,審判又は再審に係属している場合に限り,その補正をすることができる。
 しかし,一方で,商標法56条が準用する特許法156条1項,2項によれば,審判長は,事件が審決をするのに熟したときは,審理の終結を当事者及び参加人に通知しなければならず,必要があるときは,当事者等の申立て又は職権で審理を再開することができるとされている。そして,「審決をするのに熟したとき」とは,審理に必要な事実を参酌し,取り調べるべき証拠を調べて結論を出せる状態に達したことをいうと解されるところ,審決をなしうる状態になったとして審理を終結した後であっても審決がなされるまでの間はいつでも補正ができるとなると,審理の進行に区切りがつかず審決に遅滞が生じ,ひいては審決ができない事態が生じるおそれがあることになる。

 したがって,事件が本件のように審判に係属している場合であっても,審理終結の通知により審理終結という効果が発生した後は,審理が再開されない限り手続の補正をすることはできず,審理終結通知が当事者に到達した後に提出された手続補正書は審判においてこれを斟酌することを要しないと解するのが相当である。

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4 取消事由3(審理手続の違法)について
 審判手続における審理終結後に審理を再開するか否かは審判長の裁量に委ねられている上(商標法56条1項,特許法156条2項),本願商標と引用商標は,本件補正がなされたことを前提としても,指定商品において類似し,本件補正の有無によって審決の結論が左右されるものでないことは前記のとおりである。

 したがって,前記のとおり審理終結通知が送達されたのが平成21年10月20日であり,本件補正とともに審理再開の上申がなされたのがその3日後の平成21年10月23日であったとしても,本件審判において,その必要がないとして審理の再開が行われなかったことにつき,裁量権の範囲を明らかに逸脱する違法があったとまでいうことはできない。原告主張の取消事由3は理由がない。

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