知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

著作人格権の侵害を認容した事例

2007-11-26 05:52:42 | Weblog
事件番号 平成18(ワ)6536
事件名 実用新案権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成19年11月19日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 実用新案権
裁判長裁判官 阿部正幸

『3 争点(2)(著作者人格権(氏名表示権・同一性保持権)侵害の有無)につい

(1) 氏名表示権侵害の有無について
 本件書籍に,本件全イラストの作成者として原告の氏名が表示されておらず,かえって本件書籍の奥書にはカバーデザイン及びデザインを行った者として他者の氏名が表示されていることは,当事者間に争いがない
 上記の事実によれば,被告スタジオダンクは,本件書籍の製作に当たり,本件全イラストの作成者としての原告の氏名表示権を侵害したというべきであり,このことについて少なくとも過失がある。
 前記2(2)で説示したところによれば,被告泉書房は,原告の氏名表示権を侵害する本件書籍を出版したことについて少なくとも過失が認められ,被告スタジオダンクと共同不法行為責任を負うと解すべきである。


(2) 同一性保持権侵害について
ア イラストの色について
(ア) 前記1で認定した事実によれば,・・・同被告は,本件各イラストの複製に,原画には用いられていなかった青,緑,茶,黄等,複数の色を着色した上,本件書籍に掲載したものであり,これにより,本件各表紙イラストが与える印象は原画とは異なるものとなっていることは明らかである。
 一般に,イラストは,線描のみならず,その色調の違いのみによっても見る者に異なる印象を与えるから,色の選択は,基本的には,イラストレーターが自己の作風を表現するものとして,イラストレーターの人格的な利益に関わるというべきであり,本件各イラストの色を変更した被告スタジオダンクの行為は,著作者である原告の意に反する改変に当たり,本件各イラストについての原告の同一性保持権を侵害したというべきである。本件全証拠によっても,上記の改変につき,原告の明示ないし黙示の同意があったとも,やむを得ない改変に当たる事情があったとも認めることはできない。

(イ) そうすると,本件各イラストの色を変更して本件書籍に用いた被告スタジオダンクの行為は,原告の著作者人格権を侵害するものであり,被告泉書房がこのような本件書籍を出版したことについて被告スタジオダンクと共同不法行為責任を負うべきことは既に説示したところと同じである。

イ イラストの大きさについて
(ア) イラストの大きさ,特に,他のイラストとの関係で認識される相対的な大きさについても,色調と同様,その違いによって見る者に異なる印象を与えるから,その選択は,イラストレーターが自己の作風を表現するものとして,イラストレーターの人格的な利益に関わるものであるということができる

 前記1で認定した事実によれば,原告は,本件イラスト5の①ないし③において,リスのキャラクターを,可愛さ,幼さという性格を持たせることを意図して,他のキャラクターより小さく描いたところ,被告スタジオダンクは,本件イラスト5の②のリスのキャラクターにつき,本件書籍の表紙に他のキャラクターと同じ大きさで描いたものであり,このような改変は,著作者である原告の意に反するものであるということができるから,原告の本件イラスト5の②の同一性保持権を侵害したというべきである。本件全証拠によっても,上記の改変につき,原告の明示ないし黙示の同意があったとも,やむを得ない改変に当たる事情があったとも認めることはできない。

(イ) そうすると,本件イラスト5の②のリスのキャラクターの大きさを他のキャラクターと同じ大きさにして本件書籍に用いた被告スタジオダンクの行為は,原告の著作者人格権を侵害するものであり,このような本件書籍を出版した被告泉書房が被告スタジオダンクと共同不法行為責任を負うべきことは既に説示したところと同じである。』

『4 争点(3)(原告の損害)について
(1) 前記2,3で説示したところによれば,①被告らが原告の許諾を得ずに本件各イラストの複製を本件書籍の表紙に使用した行為は,原告の有する著作権(複製権)を侵害するものであり,②被告らが本件書籍に原告の氏名又はペンネームを記載しなかった行為は,原告の本件全イラストについての氏名表示権を侵害するものであり,③被告らが本件各イラストの色を改変した行為及び本件イラスト5の②のリスのキャラクターの大きさを改変した行為は,原告の同一性保持権を侵害するものであり,原告は,被告泉書房に対し,本件書籍の頒布の差止請求権を有するとともに,被告らに対し,著作権侵害及び著作者人格権侵害の共同不法行為に基づく損害賠償請求権を有する。

(2) 著作権(複製権)侵害についての損害額
・・・許諾料相当額は3万円であると認めるのが相当である。

(3) 著作者人格権(氏名表示権・同一性保持権)についての損害額
前記3で説示したところによれば,原告は,被告らの著作者人格権侵害行為によって精神的苦痛を被ったものと認められ,前記認定に係る侵害の態様等を勘案すると,原告の被った精神的苦痛に対する慰謝料額は30万円が相当である。』

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